自己資本比率要件の廃止をめぐる裏話
2015.2.9.(月)
医療法の41条では「医療法人は、その業務を行うに必要な資産を有しなければならない」と規定し、病院・診療所などを運営する医療法人の運営基盤の強化を求めている。その一方で、「必要な資産」について医療法では、これ以上の詳しい内容を定めていない。
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現在は、医療法施行規則という厚生労働省が定める命令の中で、「医療法人は、その開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の業務を行うために必要な施設、設備又は資金を有しなければならない」とし、施設または設備は医療法人が所有することが望ましく、賃貸借契約による場合でもその契約が長期間にわたり、かつ確実なものであることを求めている。併せて、病院・診療所の新規開設に当たって医療法人を設立する場合は、2か月以上の運転資金を有していることが望ましいとしている。
この資産要件の内容は非常に淡泊なものだが、かつては医療法施行規則に「自己資本比率に関する要件」が規定され、「自己資本比率20%以上」を満たさない医療法人は厳しい監査の対象となっていたのだ。他方、医療法人側や、医療法人を監査する都道府県側からはこうした規制の意味や実効性を疑問視する意見が多く寄せられていた。
こうしたことを踏まえ、医療法人制度改革をめぐる2005年からの検討では、医療法人に対する従来の規制の「棚卸し」に着手した。医療法人制度の大改革を控え、この際、これまでの法令・通知によって作られた規制について、ゼロベースで必要性を精査していこうと考えたという。
医療法とは、病院などの構造・人員規制や患者への広告規制など医療を担う者に対する規律を定めるもので、この規律を通じ、事業者と比べて弱い立場に立っている患者の利益を保護することを目的としている。このため、ゼロベースで行う精査の基準は、その規制が患者に直接影響のある衛生規制であるかどうかに置かれた。見方を変えれば、患者に直接影響のない経済規制は極力撤廃していこうという方向だ。そして、自己資本比率要件は、このメルクマールでいえば、真っ先に見直すべきものとされた。
経済規制の見直しは、行政に頼らず自らの力で地域医療を確保していこうという医療法人の経営者に大きな影響をもたらした。同時に、規制の「棚卸し」は従来の護送船団方式からの脱却を明確に意識させることにもなった。これが、05年7月の報告書に示された「今後の都道府県の役割は、(略)医療サービスに係るルールを調整する役割、医療サービスの安全性やアクセスの公平性を確保する役割等へ転換することが求められる」との宣言に結実したのである。