患者と家族を全人的に支援、キャンサーナビゲーションとは-クィーンズメディカルセンターでGHCが研修(3)
2015.2.18.(水)
全米屈指の優良病院であるクィーンズメディカルセンター(ハワイ州ホノルル)でGHCのコンサルタントが受けた研修の内容をお伝えしています。研修テーマは次の4つ。
(1)Nursing management(看護部管理)
(2)Labor productivity management(労働生産性向上)
(3)Cancer navigation(キャンサーナビゲーション)
(4)Cancer Quality Initiative(がんの臨床指標)
2日目の研修では、(3)の「キャンサーナビゲーション」と(4)の「がんの臨床指標」をテーマに、詳細な説明を受けました。
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「Cancer navigation(キャンサーナビゲーション)」については、クィーンズメディカルセンター・ヴァイスプレジデント(patient care担当)のDarlena Chadwick氏と、同センターでキャンサーナビゲーターを務めるMichael A.Ortiz氏からレクチャーを受けました。
がん治療では、ほかの疾病とは異なる次の3つの課題があります。
(1)経過が非常に複雑
(2)継続的な支援が必要だが、患者や家族は手続きの仕方や支援があること自体を知らないケースが多い
(3)地域ニーズと医療提供体制に大きな不均衡がある
これらの課題に対処するために、同センターも参加している米国外科学会CoC(Comission of Cancer、がん委員会)では、がんの標準治療に「Patient Navigation Process(standard 3.1)」という項目を設けています。がん患者と家族に最高のケアを提供するために、患者一人一人に合わせた指導・支援・援助を行うシステムです。
かつて、Chadwick氏の家族が白血病に罹患(りかん)して治療を受ける際、「誰に相談すればよいか分からない」「どんな支援システムがあるのか分からない」といった大きな不安を抱えていたそうです。そうした経験もあって同センターでは2007年から、このプロセスに沿った「Cancer Navigationプログラム」を開始しました。がん患者と家族に対して、診療面だけでなく、専属のナビゲーターが経済面、心理面など全人的かつ迅速なサポートを行っています。
このプログラムを実施しても、同センターが特別な診療報酬を得られるわけではありませんが、手厚いサポートをしてくれると評判になり、がん患者が数多く来院。現在では、ハワイ州のがん患者の45%が同センターで治療を受けています。
GHCの湯浅大介マネジャーは、「がん患者は常に再発を恐れている。キャンサーナビゲーションシステムは、患者の心を支え、各種の手続きなど実務面での支えにもなっている。日本でも、このナビゲーションプログラムを作成すれば、病院の価値が格段に向上するのではないか」と考えています。
ただ、患者サポートを担当するナビゲーターには医学・医療や補償制度に関する知識、精神的な包容力など高い資質が求められます。同センターにはナビゲーター養成プログラムもあり、地域のどこの病院からも人材を受け入れています。ハワイの各島でナビゲーター同士のネットワークも構築されており、GHCコンサルタントの簗取萌は「がんにおけるチーム医療の完成形に近い」と評しています。
さらに研修では、同センターでキャンサーナビゲーターとして活躍しているMichael A. Ortiz氏から、患者のケーススタディーのレクチャーもありました。
(4)の「Cancer Quality Initiative(がんの臨床指標)」については、クィーンズメディカルセンターのDr. Paul Morrisと、VP(patient care担当)のDarlena Chadwick氏から説明がありました。
日本でも「がん登録」が法制化され、データベースの整備などの取り組みが始まっていますが、米国ではこうした取り組みは一歩も二歩も進んでいます。
同センターでは「生命・健康を扱う医療機関こそが品質保証をしなければならない」「QI(Quality Indicator)はケアの質向上のためのドライバー」と考えており、がんの種類ごとに詳細なQIを蓄積しています。その推進役が、今回、レクチャーしてくれたDr. MorrisとChadwick氏です。
QIの集積には、同センターでも苦労しているそうですが、「質の高いデータにより正しい分析が可能になる」ことから、Dr. Morrisが強力なリーダーシップを発揮し、迅速にデータを集めることができているといいます。
具体的には、データ提出のスピードと内容を評価する「成績表」を医師ごとに作成し、成績が悪いと「クィーンズメディカルセンターの設備使用を認めない」などのペナルティーが適用されます。このため医師は、精度の高いQIを迅速に提出することになり、同センターでは、「質の高いデータに基づく正しい分析」が可能になっています。
こうした取り組みを目の当たりにした湯浅は「質の高い診療を担保する仕組みを日本にも輸入してはどうか」と強調しています。
なお、7月に開催されるCQI(Cancer Quality Initiative)研究会では、Dr. MorrisとChadwick氏を招き、クィーンズメディカルセンターでの取り組みを中でお話いただきます(CQI研究会)。研修に参加したGHCの井口隼人マネジャーととコンサルタントの八木保もCQI研究会の運営に携わっており、Dr. Morrisとのやり取りの中でQIについての知見をさらに深めています。ぜひ、ご参加ください。