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経営インパクト年2千万円 病棟薬剤業務を効率化せよ

2015.2.20.(金)

 病院の勤務医の業務負担を軽減する狙いで2012年度の診療報酬改定で新設された「病棟薬剤業務実施体制加算」。これを算定すると大きなプラスの経営インパクトを見込めるだけに病院にとって魅力だが、薬剤師による「週20時間以上」の勤務を全病棟でクリアする必要があり、断念しているケースも多そうだ。とはいえ、薬剤師がほかの病院より少なくてもこの加算を算定できているケースもある。ポイントは病棟での薬剤業務の見直しだ。

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 病棟薬剤業務実施加算は、医薬品に関する情報収集や抗がん剤の無菌製剤といった薬剤師の病棟業務を促すことで、病院の勤務医の負担を和らげる取り組みへの評価。専任の薬剤師を各病棟に配置するなど、所定の要件をクリアして算定を届け出ると入院患者1人につき1日100点を、4週間にわたって算定できる。DPC対象病院なら包括部分の診療報酬(年間ベース)に0.0064を掛けた額を上乗せが認められる。

 これによる経営インパクトは絶大だ。GHCの湯浅大介マネジャーがコンサルティングを担当するA病院(一般300床台)では、昨年10月からこの加算を算定し始めた。これによって今年度には2000万円規模の増収を見込んでいる。

 加算の新設からA病院が算定を開始するまでに2年半のブランクがあるのは、薬剤師による病棟での勤務時間の基準がハードルになっていたためだ。十分な病棟勤務を担保するため、専任の薬剤師による「週20時間相当以上」の勤務時間を全病棟で確保しないと算定できないが、昨年1月の時点では、8つある病棟すべてでこの基準をクリアできずにいた。

 図表1は、稼働病床100床当たりの薬剤師の人数と、この加算を算定しているかどうかを病床規模ごとにまとめたものだ。これを見ると、薬剤師の人数は、病床規模が大きい病院ほど少なくなる傾向だ。

2015.2.20医療現場をウォッチ 薬剤業務①

 A病院に勤務する薬剤師はこの時点で19人。うち13人は病棟専任で、中には薬剤師2人体制の病棟もあった。稼働病床100床当たりにすると病棟専任は4.7人と、「300-499床」クラスの平均的な水準を上回るまずまずの体制だが、それでも加算を算定できていない。これに対して、薬剤師の配置が平均を下回っているのにきっちりと加算を算定している病院もある。

薬剤部の勤務状況を丸裸に

 こうした差が生じるのはなぜか―。A病院とGHCではまず、どのような仕事にどれだけの時間を割いているのかを調べることにした。その結果をまとめたのが図表2だ。

2015.2.20医療現場をウォッチ 薬剤業務②

 1日当たりの業務ごとの延べ投入時間を見ると、「病棟業務」が42.4時間で、「調剤」(25時間)と「注射薬の払い出し」(15.8時間)などを大きく上回っている。しかし実際には、この加算を算定するにあたって病棟業務とは見なされない「資料作成」や「患者への指導」といった業務の時間が全体を底上げしていて、これを除外すると実際の投入時間は10時間程度にまで落ち込むことが分かった。8つある病棟全体で、1週間当たり計80時間分のマンパワーが不足していることになる。

 病棟専任の薬剤師一人一人の業務状況をさらに詳しく把握するために、今度は病棟スタッフ13人分の業務内容を詳しく分析してみた。その結果明らかになったのは、病棟専任のはずの担当者たちが、実際にはいろいろな業務に追われている実態だ。「病棟」のほかに「調剤」や「注射薬払い出し」といった業務にほぼ全員が対応し、病棟での勤務時間が全体の半分に満たないスタッフもいた。

 中でも重荷だったのが調剤関連の業務だ。外来患者の分を含めて病棟スタッフが調剤を兼務していたため、入院患者2-3人に服薬を指導するたびに調剤室まで移動しなければならなかった。病棟スタッフ全体でこれら一連の業務につぎ込んでいたのは1日当たり計15.5時間。1週間当たりだと80時間近くにもなる。

 ほかの病院の薬剤部ではどうしているのだろうか。図表3は、ある自治体が運営するB病院(10病棟)の薬剤師20人による勤務状況だ。この病院では、病棟スタッフ17人のうち9人が1日6時間超を病棟勤務に注ぎ込めている。

2015.2.20医療現場をウォッチ 薬剤業務③

 B病院では、調剤や在庫管理などは病棟業務を担当しない薬剤師に集中させていることがポイントだ。さらに、注射薬の払い出しのような「設備関連業務」は非常勤の薬剤師に、「ドラッグインフォメーション(DI)業務」などは事務スタッフにそれぞれ移行している。

 こうすることで、病棟専任者たちはこれらの業務をカバーせず、無菌製剤など本来の病棟業務に専念できるようにし、ポテンシャルを引き出すことに成功しているのだ。

ポイントは業務のすみ分け

 A病院では、こうした点を踏まえて薬剤業務の改善に着手した。このときに掲げたのは「業務の集約化」と「服薬指導の時間配分の見直し」というコンセプトだ。

  一連の分析を担当したGHCの湯浅が最大のポイントが、スタッフ間での業務のすみ分け。途中で挫折しないためには明確な目標を設定することが大切だ。A病院では、業務の棲み分けによって1病棟1週間当たり10時間分のマンパワーを生み出すことを目標にした。「これは1日当たり全病棟で1時間程度増やせば足りるということ。ポジティブに考えていい数字」と湯浅。

 まずは懸案だった外来患者の調剤業務を4月に入職した新人の薬剤師2人に担当させることにした。さらに、病棟薬剤師らが1日計6.6時間を費やしていた注射薬の払い出しは病棟勤務のない薬剤師2人に移行した。入院患者のミキシングなど病棟業務にカウントできるものは、逆に病棟担当者に集約させることで、全病棟で15時間以上の病棟勤務を確保した。

 入院患者への服薬指導は病棟勤務としてカウントできないが、現在でも病棟スタッフが担当している。服薬指導は「薬剤管理指導料」という別の診療報酬を算定するのに必要な業務で、何より医療の質を維持するためにこの業務は削るべきではないという判断からだ。

 「薬剤部全体の業務の見直しは、病棟スタッフが集中すべき業務を見極めることが第一歩」と湯浅は話している。

解説を担当したコンサルタント 湯浅 大介(ゆあさ・たいすけ)

yuasa04 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。グループ病院の財務分析、中央診療部門の業務改善、経営戦略室立上げ支援、コスト削減、病床戦略策定支援などを得意とする。諏訪中央病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティング、日経BP社「日経ヘルスケア」(掲載報告はこちら)などへの寄稿なども手がける。