理事長要件撤廃めぐる攻防の内幕-垣間見えた厚労省のしたたかさ
2015.3.9.(月)
「医療法人の代表である理事長は原則として医師または歯科医師に限る」などと規定する、医療法のいわゆる「理事長要件」。この撤廃をめぐる攻防の内幕を、医療ライターの三竦氏が振り返る。
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医療法人の代表たる理事長となる要件には、法律上厳しい制約がある。医療法第46条の3では「医療法人の理事のうち一人は、理事長とし、定款又は寄附行為の定めるところにより、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する」とし、理事長には原則として医師または歯科医師であることと規定している。いわゆる理事長要件だ。1980年に埼玉県所沢市で起きた富士見産婦人科事件を契機に、理事長が医師や歯科医師でないと過度な利益優先を追求し、患者を顧みない経営に陥りかねないため、これを防ごうとしたことが背景にある。
しかし、昭和の終盤に導入されたこの規制も、時代の変化とともに見直しが求められている。例えば、理事長が急逝し後継者はまだ医学部を卒業していないケースや、この規制が導入される前から医師でない理事長が就任していたケースのように、本来、法人内部で定めるべき内容を法律で厳しく規制した結果、さまざまな例外(抜け道)を後追いで認める必要性に迫られた。また、そもそも「理事長は医師や歯科医師」と規制するだけで、病院・診療所の乱診乱療を防ぐことができるという論理にも疑問が持たれた。
前回も触れたように、医療法は衛生上の規制を設けることによって患者を守ることを目的とした法律で、経営に制約を設けるために作られたものでは決してない。患者を守るために必要な衛生規制と、経営上不可欠な手続きを定めることがあいまいになり、本来、経営者自らの責任で遂行すべきことを医療法の規制として定めてしまった結果、このような不自由な事態が生じてしまったのだ。
こうした状況に追い打ちを掛けたのが、政府の規制改革会議の前身「規制改革・民間開放推進会議」からの規制撤廃の強い主張である。医療法人制度改革をめぐる2005年の議論も、主として規制改革会議側の意向に沿って「理事長要件撤廃」の方向で進められた。
ところが、こうした動きに医療関係者から強い反対意見が挙がった。医療安全が強く言われている中、理事長を医師や歯科医師以外にも広げるとその取り組みが弱まるといった反論だ。厚生労働省側も「理事長が医師または歯科医師でなければならないという法律上の規制を取り除くということで、個々の医療法人の理事長はそれぞれの法人内部で決めること」「医師または歯科医師も含めて医療経営を遂行できる者であればよく、法律で規制するものではない」などと応じたものの、医療関係者の懸念を払拭することができず、医療法上の規制は温存されてしまった。
結果として厚労省が負けた形だが、医療法人運営管理指導要綱の中で、社会医療法人や、日本医療機能評価機構の病院機能評価を受けた医療法人に対しては、理事長要件を適用しないことを明確に定めることで、医療法の規制を骨抜きにしたのだ。
厚労省もしたたかである。