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建設地選びにパス・書類の統一…再編統合に課題次々、尼崎市の2病院

2015.3.11.(水)

 兵庫県尼崎市内で県立2病院の再編統合に向けた準備が最終段階を迎えている。統合後に誕生するのは、ハイブリッド手術室や手術支援ロボットシステムを整備し、国内でも有数の“超高度急性期”機能を持つスーパー病院だが、それだけに立ちはだかる課題も多かったという。

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7月に開院を控える「兵庫県立尼崎総合医療センター」(仮称)。新病棟は地下1階地上11階建て。屋上にはヘリポートを整備し、専用エレベーターを設置。さらに、最新式のハイブリッド手術室やロボット手術室なども整備し、42診療科を標榜する。医師約300人、看護師約1000人体制で、人口175万人規模の「阪神地区」の“超高度急性期医療”をカバーする

7月に開院を控える「兵庫県立尼崎総合医療センター」(仮称)。新病棟は地下1階地上11階建て。屋上にはヘリポートを整備し、専用エレベーターを設置。さらに、最新式のハイブリッド手術室やロボット手術室なども整備し、42診療科を標榜する。医師約300人、看護師約1000人体制で、人口175万人規模の「阪神地区」の“超高度急性期医療”をカバーする

 統合するのは、共に尼崎市内にある県立尼崎病院(500床)と県立塚口病院(400床のうち300床で運用)。統合後はベッド数をダウンサイジングし、730床の「県立尼崎総合医療センター」(仮称)として7月に生まれ変わる。尼崎市だけでなく、人口175万人規模の「阪神地区」の医療拠点となるマグネットホスピタルを目指す。

 新病院は、ER型救命救急センターや総合周産期母子医療センター、循環器センター、がんセンターなど臓器・疾患別のセンターを含む41診療科を掲げ、手術支援ロボットシステム「ダ・ヴィンチシステム」を尼崎病院から引き継ぐほか、最新式のハイブリッド手術室も整備する。総工費約303億円を掛けた巨大プロジェクトだ。

 尼崎病院は大学病院に準じる高密度の診療を行う「DPC病院Ⅱ群」に位置付けられていて、統合のけん引役を務める藤原久義尼崎病院・塚口病院院長は「国内でも有数の高度急性期病院が誕生する」と話す。

2015.3.10医療現場をウォッチ 尼崎・塚口病院②

最初の課題は新病院の建設地選び

 藤原院長は2006年に尼崎病院の院長に就任し、11年からは塚口病院のトップも兼任してきた2病院の統合のキーマンだ。統合に向けた調整もようやく最終段階にこぎ着けたが、ここに至るまでの道のりは、まさに課題山積だった。

 真っ先に問題になったのが建設地選定だ。当初は尼崎病院の駐車場に新病院を建設し、塚口病院の機能を移転させる案が有力だったが、これに塚口病院の近隣住民が猛反発。移転反対派の住民ら計約8万人分の署名が集まり、結局、計画の抜本見直しを迫られた。

 仮に塚口病院に機能を集約させるプランを立てたとしても、今度は尼崎病院の周辺住民からの反発が避けられそうにない。そのため、2病院のちょうど中間地点にある旧市立高校跡地での新病院建設を打ち出すと、反対運動はうそのように終息した。「病院を統合させるには患者や住民の理解を得ることが不可欠だ」と藤原院長は痛感させられた。

 これまで2病院が培ってきた文化の統合も困難な課題だ。複数の組織を統合する上でこれは大きなテーマになる。ましてやプライドの高い医師や看護師たちをまとめ上げ、病院の統合を円滑に進めるのは並大抵のことではない。

 そもそも尼崎病院と塚口病院は「雰囲気からしてまるで違う」(藤原院長)という。尼崎病院は1936年に誕生した「阪神南圏域」の拠点病院。ダ・ヴィンチシステムをいち早く導入するなど最新鋭の設備を積極導入し、急性期医療をカバーしてきた。年間ベースでの病床稼働率は直近で93%台をキープしていて、一刻一秒を争う場面が多い。このため、医師や看護師などのスタッフはいつも院内を走り回っている。

 これに対して塚口病院は、1974年に開院した阪神地区の小児・周産期の拠点病院で、どちらかというと「エレガントな雰囲気」。藤原院長は「タイプの違う病院同士を統合させるのは簡単ではない」と話す。

診療科の統合に大きなリスク

 中でも各診療科の統合は大きなリスクをはらんでいる。万が一、医師や看護師の反感を買って大量離職を引き起こせば、円滑な統合はおろか病院の存続すら揺らぎかねない。とはいえ、異なる大学の医局から医師が派遣されているなら意思統一は不可能に近い。こうしたケースでは、どちらかの医局に統一することになり、引き継ぎをどうするかが課題になる。

 同じ大学の医局同士でも意思統一は簡単ではない。「どちらかの病院の診療科が圧倒的な実績を持ち、しかもトップの年齢やキャリアが上回っているのなら円滑な統合を期待できる。しかし少しでもねじれがあると、こじれかねない」と藤原院長。

 パスの中身や書類の様式の統一も難題だ。どちらかのパスが優れていることを立証するだけのエビデンス(根拠)がそろっていれば議論の余地はない。ところが、実際にはこうしたエビデンスが細部まではそろっていないことが多く、それぞれの病院が慣れ親しんできた運用のうち、どちらを採用するかで調整が難航しがちだとされる。

 尼崎病院と塚口病院の統合でも例外ではない。新病院では最終的に300前後のパスを整備する見通しだ。大枠は固まりつつあるが、現在も130通りの中身を微調整中だ。医師や看護師らによる委員会で焦点になるのはいつも、こうしたグレーゾーンの取り扱いだった。

電子カルテの理解度に10年分の格差、ミス許されぬ“名寄せ”作業

 看護記録や手術台帳のほか、さまざまな事務書類の様式の統一はさらにやっかいだという。同じ県立病院でもこれらの様式がことごとく異なる半面、どちらが優れているかを判断するのはパスよりも難しい。

 電子カルテシステムの統合では、これまでに2病院を受診した患者の診察券(ID)を統一しなければならない。いわゆる“名寄せ”と呼ばれる作業だ。結婚や転居などに伴う氏名や住所の把握を確実に把握する必要がある。一例でも間違うと患者の取り違えや医療過誤につながりかねず、ミスは許されない。

 尼崎病院では10年前、国内で最も早い時期に電子カルテを導入済みだが、塚口病院では現在でも紙カルテによる運用だ。そのため、2病院の職員の間では電子カルテに対する理解度に差があり、職員向けの研修会も開いている。

 パスや書類の様式、電子カルテの運用を話し合うものを合わせると、これまでに立ち上げた2病院の合同委員会は全部で100前後に上るという。新病院でのルールをこれらの委員会で一つ一つ話し合い、具体化するという地道な作業の連続だ。現場での話し合いで折り合いが着かなければ、トップが介入して判断を下すしかない。藤原院長は、病院の統合ではまずトップを統一することが不可欠だと感じている。

 統合を控えた病院のトップ同士が衝突すると、それこそ収拾がつかなくなるからだ。

2015.3.10医療現場をウォッチ 尼崎・塚口病院①

「帰属意識をなくせ」

 再編統合の方向性は、外部の有識者や2病院の幹部らによる検討委員会が09年に固め、これをベースに県が翌10年12月、基本計画を取りまとめた。

 2病院の統合は、それぞれの機能を補完し合うことで、急性期・高度医療の機能を高める狙いがある。それだけに、新病院への地域の期待はいやが上にも高まる。

 2病院の院長を兼任し始めた12年以来、藤原院長が2病院のスタッフにことあるごとに投げ掛けてきたのは、「2つの病院はもうすぐなくなる。“あるのは統合病院のみ”という気持ちで、自分がどちらの病院の職員かという帰属意識を捨ててほしい」という一言だ。

 「病院統合は難事業」と藤原院長。医師300人、看護師1000人体制のスーパー病院の誕生に向けてカウントダウンが始まった。