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地域医療提供体制の再編、データの背景を読まなければならない

2019.2.5.(火)

 地域医療提供体制の再構築を目指して、「地域医療構想」の実現に向けた議論が各地で進められているが、一般には十分な情報提供はなされていない。公表されている「病床機能報告」データからは地域における医療提供体制の「歪み」が明らかになるが、そのデータの背景までも十分に勘案した議論が必要である―――。

 こうした問題意識に基づき、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)は公開データを用いた分析を実施。その結果が東洋経済新報社の発行する2月4日の「週刊東洋経済」(一部記事紹介はこちら)へ、5日の「東洋経済オンライン」へ掲載されました(データ詳細はこちら)。

「人口動態」「病床数」「医師数」をもとに、各地域の現状を分析

 「週刊東洋経済」では「病院が消える」と題した特集を企画。そこではGHCによるデータ分析結果のほか、GHCが経営支援する相澤病院の相澤孝夫・日本病院会会長のインタビュー(記事詳細はこちら※無料会員限定記事)、旭川赤十字病院社会医療法人宏潤会大同病院でのGHCによるデータ分析に基づく経営改善事例、GHCがサポートした魚沼基幹病院での病院統合の事例などが紹介されています。GHC創業者であるアキよしかわのインタビューも掲載されています(記事詳細はこちら※有料会員限定記事)。

 冒頭に述べたように、各地で地域医療構想の実現に向けた議論が進められています。そこでは、さまざまな診療実績データなどをもとに、医療提供体制の機能分化、連携の強化に向けた検討が行われていますが、そうしたデータは機微性が極めて高いことから一般には公開されません。

 そこでGHCでは、唯一の公開データとも言える「病床機能報告」結果をもとに、今後、各地域の動向を左右する変数と考えられる「人口動態」「病床数」「医師数」の3つを用いて地域の状況を可視化。今後の各地の動向を探る一助とすることを目指しました。データ分析結果の一部は「週刊東洋経済」の本誌に、全データ分析結果は「東洋経済オンライン」に掲載されています。

 具体的には、国勢調査の人口等基本集計と病床機能報告結果のデータをクロスさせ、人口10万人当たりの「急性期病床数」「回復期病床数」「医師数」を算出。さらに全国の二次医療圏を「大都市地域」「地方都市地域」「過疎地域」の3つに分類した上で、偏差値を用いて各二次医療圏の状況を可視化しています(文末にデータ出典と定義詳細を掲載)。その結果、各地の医療提供体制には大きな「歪み」「バラつき」のあることが再確認されました。

病床機能報告データは「病棟単位」で機能を決めるという限界がある

 ところで今回のデータ分析結果は、日本国内を対象にした相対評価であり、あくまで今後の地域の動向を占う上での参考として捉えるべきものです。このデータのみをもとに「自地域では他地域や全国平均に比べて病床が不足している。増床や病院の新設が必要である」と考えることは早計に過ぎます。

 国際統計を踏まえると、日本は先進諸国(OECD)の平均と比較して人口当たりの医師数が少なく、その一方で急性期病床数はOECD平均(人口千人当り3.7床)のほぼ倍(同7.8床※一般病床の回復期リハビリテーション病床と地域包括ケア病床を除くと7.0床)となっており、「ベッド数が多いために、患者1人当たりの医師数が少ない」状況にあることが分かっています。この、いわば「病床の分散」は、後述するように「医療の質」を低下させる要因となっています。国内平均と比べれば「急性期病床が少ない」(今回の分析結果では偏差値が低い)とされる地域であっても、国際比較すると「過剰である」という地域が多いのが実情なのです。

 ここで、データ分析結果を見る上での、重要なポイントを2点紹介しましょう。

 1つ目は、「病床機能報告」結果の限界です。病床機能報告に当たっては「当該病棟に最も多いと思われる患者の状態を、当該病棟の機能とする」というルールがあります。したがって、40床ある病棟で、21名の急性期患者が入棟し、19名の回復期患者が入棟している場合には、当該病棟の40床すべてが「急性期」と報告され、「19床分は実質的に回復期を担っている」といった点はおもてに出てこないのです(データ上は判別できない)。

 さらに、「病床機能報告」では、定性的な基準しかなく、病院自らが機能を選択します。したがって、「手術を月1に一度も実施していない急性期病棟」が存在してしまっているのです。

 一方で、地域医療構想は、地域の推計患者数をベースに、「2025年に必要となるベッド数」を算出しています。このため、病床機能報告結果と地域医療構想とは全く性質が異なり、両者を単純に比較して、「この地域では、○○機能が●●床不足している」と結論を出すのは早計に過ぎるのです。

 地域医療構想では、2025年の回復期病床ニーズは2013年度に比べて3.4倍必要と推計されており、(下図=医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会より抜粋=参照)、現状では絶対的な不足が指摘されています。極めて大きな乖離があることから、「急性期等から回復期機能への転換」が求められている点に疑う余地がありませんが、「どの程度、地域で回復期機能が不足しているのか」は、今回のデータからは明確になっていません。

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二次医療圏には合理性なし、根本から見直す必要がある

 2番目に、「患者の流出入」の勘案をしなければならないという問題があります。これは、例えば「埼玉県の患者であっても、東京都へのアクセスがよい地域の居住者は、東京の医療機関を受診・入院する」ことが珍しくないといった問題です。埼玉県は病床が少ない地域として有名ですが、本当に病床が少なく、不足しているのかどうかは、東京都への患者流出などを十分に勘案しなければ判断できないのです。

 このため、医療提供体制を考えるにあたり、もはや「二次医療圏」という概念は不適切ではないか、という意見も少なくありません。日本病院会でも、こうした点について精力的な検討が進められています。

 さらに、国際的な医療経済学の草分けでもあるアキよしかわは、この問題について20年も前に指摘しています。アキは二次医療圏について、「病院間の競争や患者の流出入の観点から、その概念と定義は形骸化しており、単なる行政上の区分けに過ぎない」と強調。約20年前の1996年に出版された『Health Economics of Japan』(東京大学出版会)では、「患者統計の個票を使い、どこに住んでいる人が、どの病気で、どの病院を受診したかを考察し、二次医療圏の受診行動の流出入を疾病別に判別することができた。その結果、患者の流出入を勘案すれば約400(当時)の二次医療圏の区分けには合理的な意味がなく、医療圏の数はその3分の1程度で十分と結論付けることができた」と訴えています。

 残念ながら、20年前の政策決定者(厚労省官僚や審議会委員となる研究者ら)には、この指摘が「難しかった」ようで、十分に勘案されることのないまま、現在も「合理的でない二次医療圏」が政策のベースとなってしまっているのです。今後の医療提供体制改革にあたっては、こうしたベースとなる考え方の見直しも必要でしょう。

医療提供体制改革・働き方改革のカギ握る「IDS」

 今後の地域医療提供体制を考える上では、「医療の質向上」を忘れることは許されません。上述のとおり、我が国では先進諸国に比べて、「ベッド数が多く、患者1人当たり(1床当たり)の医師数が少ない」という問題点があります。これは、症例数が分散していることを意味します。GHCと米国メイヨ―クリニック、スタンフォード大学との共同研究では、「症例数と医療の質は相関する」、つまり症例数の分散は、医療の質を下げてしまう、ことが分かっています。

膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある

膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある

 データ分析結果だけを見て、「我が地域では、全国より病床が不足しているようだ。早急に病院の新設や増床が必要だ」と考えるのは、かえって「医療の質低下」を招きかねない点には最大の留意が必要です。医療へのアクセスも重要な要素であることはもちろんですが、アクセス偏重は「医療の質低下」というクリティカルな弊害にもつながりかねないことを、政治・国民が十分に理解する必要があります。

 逆に考えれば、こうした事態を是正するため、つまり医療の質を向上させるには、症例の集約化を進めることが必要です。そこでは、地域において病院の再編・統合を進めていくことが重要ポイントの1つとなります。病院の再編・統合は「医師の働き方改革」においても重要なテーマで、すでに地域によっては病院の再編・統合が進められており、GHCも地域の「医療の質向上」に向けて積極的な支援を行っています。

 米国ではこの病院統合を「IDS(Integrated Delivery System)」と呼んでおり、GHCではIDSが日本国内で展開されることの意義や有用性について議論し、どのように展開すれば成功に導けるのかを長年研究をしてきました。

 IDSは約20年前に米国の各地で発生した病院の再編・統合を実現してきたサービスメニューの総称です。GHCは、米国で最も多くのIDS案件をアキよしかわと手がけてきたベテラン医療経営コンサルタントのマーティー・マイケル氏(弊社顧問)、米国のトップ病院であるメイヨー・クリニックなどからIDSの知識やノウハウを学び、国内向けのカスタマイズを繰り返することで、サービスメニューを洗練させてきました。

 再編・統合を進めていく上、最も困難なことが「診療統合」です。2月4日の「週刊東洋経済」で掲載されている魚沼基幹病院内山聖院長のインタビューでは「診療統合による病院・地域・住民の混乱」が触れられています。

 現在、GHCでは、魚沼圏域における診療統合の最適化を支援しています。

 地域医療提供体制の再編のカギを握るIDSについて、以下の関連記事、事例紹介、関連サービスを是非ご覧ください。

【関連記事】
手掛けた病院統合は50件、米国のプロが語る日本の病院大再編の未来
【対談】「IDS」と「包括払い」は医療の質を高めるか―ロバート・K・スモルト×鈴木康裕

【事例紹介】
再建断念された赤字病院をわずか3か月で黒字転換、公的・公立病院の再編・統合の舞台裏

【関連サービス】
コンサルティングメニュー「病院統合再編」

【データ出所および分析の定義】

<分析に用いたデータ出所>

・人口情報:平成27年国勢調査 人口等基本集計
・地域面積:平成27年国勢調査 人口等基本集計
・病床数:平成29年度病床機能報告:一般病床・療養病床で算定する入院基本料・特定入院料及び届出病床数
・病院常勤医師数:平成29年度病床機能報告 職員数

<分析における定義>
◆急性期病床の定義

以下の入院料を算定している施設を急性期病床と定義。一般病棟10対1入院基本料・一般病棟7対1入院基本料・特定機能病院一般病棟10対1入院基本料・特定機能病院一般病棟7対1入院基本料・専門病院10対1入院基本料・専門病院7対1入院基本料・救命救急入院料1・救命救急入院料2・救命救急入院料3・救命救急入院料4・特定集中治療室管理料1・特定集中治療室管理料2・特定集中治療室管理料3・特定集中治療室管理料4・ハイケアユニット入院医療管理料1・ハイケアユニット入院医療管理料2・脳卒中ケアユニット入院医療管理料

◆回復期病床の定義

以下の入院料を算定している施設を回復期病床と定義。回復期リハビリテーション病棟入院料1・回復期リハビリテーション病棟入院料2・
回復期リハビリテーション病棟入院料3・地域包括ケア入院医療管理料1・地域包括ケア入院医療管理料2・地域包括ケア病棟入院料1・地域包括ケア病棟入院料2

◆都市区分の定義

大都市地域:人口100万人以上もしくは人口密度2000人/km2
地方都市地域:人口20万人以上もしくは人口10万人以上かつ人口密度200人/km2
過疎地域:上記以外
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