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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

収益倍増の宏潤会支える、大同病院のデータ分析術―急性期病院幹部向け勉強会で野々垣院長が講演

2019.2.28.(木)

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)は2月16日、急性期病院の幹部向け勉強会「地域医療構想下『病床利用率』低下の今、集患のバイタルサインとは?」を開催しました。

 特別講演として登壇した社会医療法人宏潤会大同病院(名古屋市、404床)の野々垣浩二院長は、DPC分析ソフトをベースにした次世代型病院経営支援システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」を活用した事例を「当院における地域連携・PFM(Patient Flow Management)の取り組み」と題して紹介。この10年で年間医業収益をほぼ倍増させている宏潤会において、その要となる大同病院がどのような戦略に基づいて経営し、その戦略を支えるデータをどう分析しているのかを解説していただきました。

大同病院の野々垣浩二院長

大同病院の野々垣浩二院長

100床あたり紹介件数トップクラスへ

 社会医療法人宏潤会は、大同病院を要に8つの医療機関や介護施設を運営。宏潤会はこの10年間で医師数も年間医業収益もほぼ倍増させています。東洋経済新報社が発行する2月4日の「週刊東洋経済」でも、データ分析を用いた病院経営の先進事例として紹介されています(特集企画の詳細はこちら)。

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 大同病院が病院経営において掲げているのは、「No Margin,No Mission(利益なくして果たせる使命なし)」。地域を守る急性期医療の提供体制を維持するためには、それを実現するための収益確保が欠かせないためです。具体的には、医業収益の構造を因数分解した上で、重要指標の経営管理を徹底しています。その経営管理に活用しているのが病院ダッシュボードχで、今回の特別講演では主に地域連携の状況を中心にご紹介いただきました。

 大同病院のある名古屋市南区は、急性期病院の激戦地。地域連携については、医療需要の将来予想を地域別に分析した上で、周辺の医療機関からの紹介状況を可視化しました。中長期的な視点と現状を踏まえ、どの医療機関との連携を強めるべきか、しっかりと優先順位を整理した上で、宇野理事長、野々垣院長自らが直接、地域の診療所、健診施設、介護施設を訪問し、大同病院は何を強みとしているのかを診療科別に説明し、各施設がどのようなことに困っているのかをヒアリングし、大同病院の知名度を高めてきました。

 ほかにも、▽地域連携アンケートの実施▽周辺医療機関等に自病院を理解してもらうためのリーフレット作成▽医師会や地域医療機関との合同勉強会の開催▽ICTを利用した予約システムの確立――などを展開。結果、2016-18年の3年間で患者数は6割増加し、ベンチマーク分析の結果でも、これまで全国平均レベルだった100床あたり紹介件数が全国トップレベルへと跳ね上がりました。

 同院が、こうした集患(増患)と同じく重視しているのは、機能評価係数IIの改善です。同院では、院長自らが病院ダッシュボードχをフル活用(参考記事『トップが率先して使えば現場に浸透し、 院内の経営意識も高まる』)。各診療科の部長と定期的に行う面談では、病院ダッシュボードχの分析結果を軸に、何が課題になっており、その課題を解決することで、機能評価係数IIのどの係数が何ポイント上昇するのか、など目標を明確にした上での改善活動を実施しています。その結果、2016年度と比較して2019年度の機能評価係数II(内示段階)は、いずれもほぼ倍増。中にはほぼ3倍に跳ね上がった係数もあります。

 野々垣院長は、「目標は可視化しないと伝わらない。目標は定量的なもの定性的なもの、いずれも大切だが、これまで、どちらかというと病院の経営は定性的な目標を据えることが多かったのではないか。今後は病院ダッシュボードχのようなツールを活用しながら、定量的な目標を重視した経営が重要になる」と強調して講演を締めくくりました。

「魔物は地域ではなく、院内にいる」

 今回の勉強会は、大同病院の特別講演に加えて、集患の基本戦略を学ぶ座学、基本戦略を実行するためのデータ分析の手法を学ぶ演習で構成されています。

勉強会の様子

勉強会の様子

 勉強会の冒頭であいさつしたGHC代表取締役社長の渡辺幸子は、「日本は人口当たり急性期病床数が世界一。入院受療率も下がっている。急性期病院は今後、国が想定する以上に厳しい現実が待ち受けている。本日お越しいただいた急性期病院の経営幹部の皆様には、データで自病院と周辺地域の状況をしっかりと分析した上で、データに基づく実効性ある戦略を立案してもらいたい」としました。

 続いて登壇したGHCシニアマネジャーの塚越篤子は、「集患のバイタルサインとは?」と題して講演。集患に向けた重要な取り組みとして、「周辺の医療機関との連携に向けたデータ分析」と「患者支援センター設立などのPFMの実践・見直し」の2つを解説しました。塚越は「魔物は地域ではなく、院内にいる」と指摘。集患は周辺の医療機関から患者を集める施策のため、一見、課題は地域にあると考えがちですが、いずれの論点も課題は院内にあることを強調しました。

 地域連携に向けたデータ分析の要は、周辺の医療機関からどのような患者がどれだけ紹介されているのか、紹介された患者は入院や手術に結びついているのか―などの状況を明らかにすることです。そのためには、紹介患者の状況が分かる「紹介データ」とDPCデータを組み合わせた分析が欠かせません。病院ダッシュボードχでは、基本機能(ベースパッケージ:【DPC分析】、【財務分析】、【マーケット分析】)にあるマーケティングを支援する機能【マーケット分析】の中に、紹介データとDPCデータを組み合わせて分析できる【地域連携分析】を2018年11月から搭載しています(関連記事『効率的で効果的な重症患者の集患を実現する地域連携分析、病院ダッシュボードχに新機能を搭載』)。

 地域連携の状況をデータで可視化し、入院や手術が必要な患者が増加しても、肝心の病床が埋まっていては、機会損失になってしまいます。そこで避けて通れないのが、外来から患者の入退院支援を視野に入れた取り組みである「Patient Flow Management(PFM)」の実践、あるいはPFMを実践していても機会損失が多いようであれば、その見直しが必要です(関連記事『外来から患者の入退院を支援するPatient Flow Management(PFM)が急性期病院の将来を救う』)。

 正しいPFMの実践には、外来→入院→手術→退院→外来-などの一連の症例経過のすべてを最適化する必要があります(図表)。病院ダッシュボードχは、外来診療の状況を可視化することで最適な外来診療をサポートする【外来分析】(オプション機能)、入院医療全般の経営概観を確認したり疾患ごとに詳細分析できる【DPC分析】(基本機能)、入院時支援加算など関連加算の算定率や加算算定率のベンチマーク分析ができる【チーム医療Plus】(オプション機能)、手術室の状況を他病院の状況と比較しながら分析できる【手術分析】(オプション機能)が搭載されています。こうした機能をフル活用することで、一連の症例経過の改善点を洗い直し、正しいPFMの実績を推進することが可能です。

正しいPFMの実践には、一連の症例経過ごとに現状が最適か否かを洗い直す必要がある

正しいPFMの実践には、一連の症例経過ごとに現状が最適か否かを洗い直す必要がある

地域連携とPFMの「解」とは

 続いてGHCマネジャーの冨吉則行は「地域連携の解」、GHCシニアマネジャーの湯原淳平は「PFMの解」と題して、それぞれ病院ダッシュボードを活用しながら、どのようにデータ分析を進めていけばいいのかを解説しました。

 冨吉は、地域連携の分析を進める上で重要なこととして、「競合相手の存在を知ること」を強調。自病院や周辺の医療機関のデータを分析するだけではなく、周辺の急性期病院の存在も加味した上での分析が欠かせないからです。

 病院ダッシュボードχには、例えば、入院へ移行する確率が高い患者を多く紹介してくれる医療機関に高いポイント(スコア)を付けるというような【スコア分析】も搭載されています(図表)。【スコア分析】で高いポイント(スコア)を付けている医療機関との連携関係を維持することはもちろん重要ですが、経年比較する中で「突然、ポイント(スコア)を下げている、つまり、紹介が減っている」ような医療機関には、院内の該当する診療科の医師や地域連携室の担当者が「直接連絡を取り、その要因を明らかにすることが重要です。

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 また、今回の勉強会の特徴の一つとして、「参加病院は病院ダッシュボードχを用いて自病院のデータを分析できる」点があげられます(病院ダッシュボードχの未導入病院も事前にデータ提出することで確認することができます)。参加病院はそれぞれ、自病院のデータが反映された病院ダッシュボードχを操作し、周辺の医療機関からどのような患者がどれくらい紹介されているのか、現状を確認しました。

 さらに湯原は、正しいPFMを実践するため、どのようなデータを確認すれば良いのかを解説しました。参加病院は、湯原の操作説明や解説を聞きながら、病院ダッシュボードχを用いて自病院のデータを確認し、改善ポイントがどこにあるのかを分析しました。

 湯原はPFMの価値を(1)入院医療の外来シフトによる経営改善(2)病棟の業務軽減と生産性の向上(3)スムーズな受け入れや転院体制強化―の3つに整理。検査など入院前でも実施可能な入院医療をできるだけ外来へシフトすることで、在院日数短縮などの経営改善につながります(1)。入院医療の外来シフトは、病棟スタッフの業務軽減を促します。現状よりも少ないスタッフ数で同じ業務量をこなすことができれば、生産性も向上します(2)。こうして入院医療の業務や人員が最適化されることで、今までに受け入れることができなかった緊急手術・入院を受け入れることができたり、より短い入院日数で転院や他院を促すこともできたりします(3)。湯原が指摘する3つの価値を持つPFMを実践することができれば、経営の効率化はもちろん、在院日数の短縮で感染症発症リスクなども軽減することなどで、医療の質を高めることもできます。

解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。
解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、砺波総合病院(事例紹介はこちら)、富山県立中央病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う(関連記事「鼎談「II群請負人」(全8回の連載記事一覧)」)。
解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。
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