「がん登録」は国民への周知が不十分、マニュアル作成を-厚労省研究会が報告案
2015.3.31.(火)
厚生労働省の「がん対策推進協議会」で、2012-16年を対象にしたがん対策推進基本計画の中間評価に関する検討が進められています。30日の会合には、厚労省から中間評価に加えて「更に推進が必要な事項」を追加した報告書案が提示されました。例えば16年1月からスタートする「がん登録」について、「国民への周知が不十分であり、さらに周知を図る必要がある。マニュアルなどの作成を進めていく」ことなどが提言されています。
中間評価報告書は遅くとも6月にはまとめられる予定です。
中間評価報告書案では、基本計画に定められた全体目標と個別目標の取り組み状況が、▽目標の詳細▽進捗状況▽さらに推進が必要な事項―という構成で整理されます。項目を絞って見てみましょう。
まず「放射線療法、化学療法、手術療法の充実とチーム医療の推進」については、基本計画の中で次のような目標が定められています。
▽3年以内(15年まで)にすべてのがん診療連携拠点病院にチーム医療体制を整備する
▽診療ガイドラインの整備などを図り、地域での各種がん治療に関する医療連携を推進して、安心かつ安全な質の高いがん医療を提供する
この目標に対して、国は拠点病院指針を改めるなどし、次のような取り組みを行っています。
▽月1回以上のキャンサーボード開催の義務付け
▽キャンサーボードには、「放射線診断、病理診断および緩和ケアに携わる専門的な知識と技能を有する医師」の参加を促す
▽患者・家族用の冊子や視聴覚教材を充実させる
▽診療内容の説明にあたって「セカンドオピニオンの活用」を説明するような体制整備の義務付け
▽診断結果や病状の説明の際に、初期治療内容だけでなく長期的視野に立った治療プロセス全体について十分なインフォームドコンセントに努めることを促す
また、このほかにも「がん医療の充実」に向けて、次のような取り組みも進められています。
▽医療介護総合確保推進法において、診療放射線技師など医療関係職種の業務範囲を拡大した
▽医療事故調査制度を15年10月から施行する
▽13年度から「がん患者の口腔ケアに関する医療従事者育成と連携体制構築」(医科歯科連携事業)を推進している
▽がん看護専門看護師、緩和ケア認定看護師、がん性疼痛看護認定看護師の配置を拠点病院に義務付け、がん看護体制の整備を推進している
▽退院支援に当たり、多職種で構成される退院前カンファレンスの実施義務付けている
▽拠点病院と地域の医療機関が連携し、がん放射線療法看護認定看護師や放射線治療専門放射線技師、医学物理士などの配置を促し、質の高い安全な放射線療法が提供される体制の構築を推進している
▽手術療法の標準化に向けた評価法の確立や教育システムの整備について、厚労省研究班で検討を行っている
こうした点を背景に、「今後推進すべき課題」として次のような事項を掲げています。
▽より一層の均てん化(日本全国のどこでも質の高い医療を受けられる体制の整備)を進める
▽年代なども考慮した、セカンドオピニオンをいつでも適切に受けられ、患者自らが治療法を選択できる体制を整備する
▽腫瘍センターなどの「各診療科の横のつながりを重視した診療体制」の構築を一層推進する
▽先進的な放射線治療機器の国内での計画的かつ適正な配置を検討する
一方、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」については、「5年以内に、がん診療に携わるすべての医療従事者が基本的な緩和ケアを理解し、知識と技術を修得すること」を目標に掲げています。
この目標に対して、現在の状況は次のようになっています。
▽拠点病院において「がん疼痛などの症状緩和や医療用麻薬の適正使用を目的とした院内マニュアルの整備や、クリティカルパスの整備」「緩和ケアチームの組織上明確な位置づけと適切な緩和ケアの提供」などの体制を整備することを指針に加えている
▽医師・歯科医師に対して「医療用麻薬の適正な使用法を含めて、医療従事者に対する基本的な緩和ケアに関する知識の普及」を目的とした研修(緩和ケア研修)を行い、14年9月末までに5万2254名が受講している
これを踏まえた「更に推進が必要な事項」としては、▽より一層の緩和ケア研修会の受講推奨▽拠点病院以外の医療機関、緩和ケア病棟、在宅医療などにおける緩和ケアの構築について検討する▽「緩和ケアは最後の手段」などの誤った認識を持つ人が少なくないことから普及啓発を推進する―ことを打ち出しています。
なお、がん登録については、▽国民への周知が不十分であり、16年1月からの施行に向けて、さらに周知を図る▽国立がん研究センターと連携してマニュアルなどの作成を進める―ことが打ち出されました。
さらに、検討会では「基本計画には盛り込まれていないが、今後、推進すべき事項」もまとめる予定です。30日の会合では、次のような素案が厚労省から提示されました。
▽国民のがんに対する意識向上
▽AYA世代(Adolescent and Young Adult、一般に15-29歳程度とされる)世代や高齢者など、ライフサイクルに応じたがん対策
▽有効性・安全性の観点はもとより、費用対効果の観点からもがん医療を検証していく
▽マイナンバーやICTとも関連した医療情報連携ネットワークの構築
▽障害者へのがん対策
「障害者へのがん対策」については、阿南理恵委員(日本がん・生殖医療研究会患者ネットワーク担当)から「障害者の中には自信の症状を訴えることができない人も少なくない。検診の充実なども考慮すべき」と提案しています。
【関連記事】
患者の3割が「家族からの孤立を感じる」、がん対策推進協議会の研究班が報告
がんの年齢調整死亡率が13.3%減少05-13年-がん対策推進協議会