認知症への医療・介護体制の充実や診療報酬での評価など、認知症施策の強化を―全国知事会
2019.8.30.(金)
認知症施策の抜本的な強化が必要であり、例えば「研修を受けたかかりつけ医等が、地域で認知症患者が生活しやすくなるような取り組み」を実施した場合、これを診療報酬で評価することなどを考える必要がある―。
全国知事会は8月23日に、こうした内容を盛り込んだ「認知症施策の抜本強化に向けた提言」を厚生労働省の鈴木俊彦事務次官と大島一博老健局長に提出しました(知事会のサイトはこちら)。
昨年(2018年)には認知症患者数が500万人を超え、「65歳以上高齢者の7人に1人が認知症」という状況です。こうした状況を重く見た政府は、認知症対策の充実・強化に向け、新オレンジプランを大改革した「認知症施策推進大綱」を取りまとめました。そこでは、「認知症の人との共生」「認知症の予防(発症を遅らせる)」を目指し、(1)普及啓発・本人発信支援(2)予防(3)医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(4)認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援(5)研究開発・産業促進・国際展開―という5つの柱を打ち立てています(関連記事はこちら)。
今後、この大綱に沿って国や自治体がさまざまな施策を展開することになりますが、全国知事会では、認知症患者が▼尊厳を保持しつつ▼地域社会の一員として尊重され▼安心して暮らせる社会を構築する―ために、国・地方(自治体)・民間等が連携した取り組みを強化・加速化する必要があると訴え、提言を行ったものです。提言内容は、今年(2019年)7月23日・24日の全国知事会議で取りまとめられたもので、様々な分野に及んでいます。ここでは、医療・介護に関連の深い事項をピックアップしてみます。2020年度の次期診療報酬改定、介護保険制度改革などを睨んだ提案なども含まれています。
【認知症への理解促進、地域で認知症を支える体制の構築】
▽認知症に対する国民の理解促進
・認知症予防、早期発見・早期対応の重要性や社会全体での支援の必要性について、国民の理解促進を図る
・認知症サポーターの資質向上や地域での活動支援のため、先進事例の普及などの強化
▽地域包括ケア体制整備
・多職種連携や相談機能を充実するなど、認知症患者や家族を支える地域包括ケアシステム構築のための支援の強化
・地域包括ケアシステムの中核となる地域包括支援センターの機能強化のための支援充実
【認知症患者の生活支援】
▽「認知症患者と家族の思い」の施策への反映
▽「認知症患者による事故」に起因する損害への賠償制度構築
▽成年後見制度の利用促進
▽高齢者虐待防止対策の強化
▽若年性認知症になっても本人の力を最大限に活かせる環境の整備
・若年性認知症や軽度認知障害の生活や就労の実態を早急に把握する
・若年性認知症患者が社会参加できる環境の整備
・「若年性認知症の特性に応じた介護保険サービス」の研究とその導入促進
・「地域両立支援推進チーム」「若年性認知症支援コーディネーター」の効果的な設置・運営に関する情報提供
【家族への支援】
▽ダブルケアラー(介護・育児の双方を行う人)・ヤングケアラー(家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子供)の実態把握と支援の仕組み構築
▽介護離職ゼロへ向けた介護休業・休暇制度の充実・利用率の向上
▽負担軽減につながる介護方法の啓発
【認知症ケアの推進】
▽認知症の症状に応じた適切な医療・介護サービスの提供
・認知症の症状や進行度、身体合併症の状態等に応じた適切な医療・介護サービスを提供するための体制整備
・認知症医療と認知症ケアを包括的に提供する「認知症総合施設」の整備
・認知症の早期発見・早期対応のための健診等の導入促進
・災害時の認知症悪化などに関する研究の促進
▽認知症疾患医療センターの充実
・認知症疾患医療センターの指定拡充を推進し、センターに対する十分な財政措置
・認知症疾患医療センターの専門性を高めるための支援
▽認知症の症状に応じた適切な医療サービスのための人材育成
・養成機関の拡大等による「認知症看護認定看護師」等の増員
・研修を受講した「かかりつけ医」「かかりつけ薬剤師」などが、地域で認知症患者が生活し続けられるような取り組みを実施した場合の「診療報酬」での評価
・認知症サポート医研修の受講に関する利便性向上
▽認知症初期集中支援チームや認知症地域支援推進員の充実
▽認知症ケアに携わる介護従事者の介護技術の向上等
・認知症の介護技術等に関する情報提供や研修内容の充実、「認知症介護指導者養成研修」受講に関する利便性向上
▽医学生等に対する認知症教育の強化
【国による認知症に関する研究・技術開発の促進】
▽認知症予防・治療に関する研究開発の加速と治療方法の標準化
・認知症発症メカニズムの解明と予防・治療に関する研究開発の加速、投薬等の治療の標準化を急ぐ
・産学官民連携による認知症根治薬の開発促進
・長寿科学や老年学、老年医学などの研究機関への財政支援
・認知症予防に関する地方自治体の先駆的取組事例の収集、普及等支援
▽高度先端技術開発等による認知症患者が暮らしやすい環境整備
【認知症施策の加速的な推進】
▽「認知症施策を推進するための法律」制定と「認知症施策緊急強化基金」の創設
▽認知症高齢者の急増に対応可能な財政措置の拡充
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