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病院大再編促す地域医療構想を乗り切る3つの条件、医療マネ学会でGHCが講演

2015.6.16.(火)

 病院大再編を促すと見られる「地域医療構想」。全国の病院が大再編時代を乗り越え、生き残っていくには――。

 日本医療マネジメント学会が6月12―13日に大阪市内で開催した「第17回日本医療マネジメント学術総会」のランチョンセミナーで、GHC代表取締役社長の渡辺さちこが「地域医療構想下の病院大再編を生き抜く戦略的病院経営~松下記念病院の事例をもとに~」と題して、急性期病院が地域医療構想を乗り切る3つの条件を軸に講演しました。座長は松下記念病院のコンサルティングを担当するGHCマネジャーの塚越篤子が務めました。

GHC代表の渡辺さちこ

GHC代表の渡辺さちこ

松下記念病院の実データを分析

 渡辺はまず、深刻な財政難と少子高齢化問題を抱える日本の市場環境を指摘。今後、診療報酬のプラス改定は考えづらく、病院の病床機能分化、次いで医療・介護の連携、病院再編・統合という一連の予想される流れを解説した上で、(1)経営・マネジメントの徹底(2)機能分化と連携の推進(3)「地域医療構想」を視野に入れた自院のポジショニング――の3つを「急性期病院が生き残る条件」として挙げました。

 「経営・マネジメントの徹底」を生き残りの条件の最初に取り上げたのは、悪化する市場環境において、競争を勝ち抜くには、経営の効率化は避けて通れない重要な課題だからです。特に、「できているはず」と検証が徹底されていない項目は要注意です。GHCの10年以上のコンサルティング経験から、それに該当する項目として手術と医療材料を取り上げて、松下記念病院の事例をベースに解説しました。

 「コンサル分析の視点が瞬時に分かる」をコンセプトに開発された「病院ダッシュボード」で、松下記念病院の手術における重要な経営指標を見てみると、まず、手術室稼働率(緊急含む)は55.7%と全国平均47.3%を8.4ポイント上回る好成績です。ただ、詳細な手術室の空き状況や時間帯、曜日別の稼働状況などを見ていくと、手術室が使われずに空いている枠があったり、時間帯や曜日によって稼働状況にバラつきがあったりすることも見えてきました(図表1)。

図表1 松下記念病院の手術室の稼働状況(時間別、曜日別)

図表1 松下記念病院の手術室の稼働状況(時間別、曜日別)

 一見、重要な経営指標に問題がなさそうであっても、詳細に探っていけば、どんな病院でも改善点が見えてきます。特に、手術室は急性期病院の心臓部とも言える存在で、ここを見直すことでの経営改善効果は大きく、医療の質向上にも確実に寄与します(関連記事『手術室の稼働率80%、済生会福岡総合の強さの秘密を分析―済生会学会でGHCが講演』)。

 次に、医療材料の購入価格について言及。日本では医療材料を病院ごとにで購買することが普通で、他病院がいくらで医療材料を購入しているかは分かりづらく、しっかりとしたベンチマークを経ず購入に至っているケースが多いです(関連記事『5千万円の削減事例も 最適価格で医療材料を購入する3つの方法プラスアルファ―名物コンサルに聞く』)。こうした背景を受けてGHCが新たにリリースした病院ダッシュボードのオプションサービス「材料ベンチ」を用いれば、医療材料の一部について全国2100病院の購入データを閲覧することが可能です。

 例えば、分かりやすい例として、ある300―499床規模の公立病院で冠動脈用ステントセットの購入をベンチマーク分析しました(自病院の状況を表示してベンチマーク分析などができる拡張サービスは2015年夏リリース予定)。この病院は冠動脈用ステントセットを平均より高く購入していたため、平均レベルまで購入価格を抑えることができれば年間470万円のコスト削減効果、最安値であれば940万円のコスト削減効果を目指せることが分かりました(図表2)。

図表2 材料ベンチを用いたコスト削減ポテンシャル

図表2 材料ベンチを用いたコスト削減ポテンシャル(縦軸と横軸の数字はマスキングしてあります)

データで可視化して分かる連携の必要性

 2つ目の生き残りの条件となる機能分化と連携の推進については、周辺地域の市場分析と自病院の外来診療について分析しつつ解説しました。

 まず、松下記念病院と同じ300床規模の病院と紹介率について病院ダッシュボードを用いてベンチマーク分析すると、全国平均が52.8%なのに対して同院は79.0%と大幅に上回っている状況です(図表3)。ただ、これも先ほどの手術室と同様に来院する患者の詳細な住所地情報を見ていくと、2キロ圏内、5キロ圏内ともに、北部や東北部に固まっていることが多い傾向にあります。このことは、南部や南西部のクリニックなどに紹介を促す営業をかける余地があることを示しています。

図表3 紹介率のベンチマーク分析

図表3 紹介率のベンチマーク分析

 次に外来診療の分析。松下記念病院における外来の単価別に診療実日数を見てみると、単価が5000円以下の症例に診療実日数の約4分の1を費やしていました。一方、同じく単価別に合計金額割合を見てみると、単価が5000円以下の症例が占める合計金額は全体の数%に過ぎないことが分かりました。

 今後の急性期病院の外来診療専門特化の方向性を考えると周辺のクリニックとの連携を更に強めることにより、生活習慣病や軽傷の症例は診療所に任せて、急性期病院が診るべき専門特化した症例に集中するというシナリオが見えてきます。こちらの分析も病院ダッシュボードを用いており、細かくデータを追っていくことで、医療連携の重要さが共有されます。

厚労省の将来予測では需給ミスマッチ十分に是正されない可能性

 最後の条件である自院のポジショニングについては、精度の高い将来予測の上で決定することの重要性を強調しました。

 自病院のポジショニングはSWOT分析(強み弱み、内外環境を軸とした分析手法)などを用いて確認するのが一般的ですが、その際の見落としがちな重要な視点として、外部環境が大きく異なる可能性が懸念されています。現在、厚生労働省が予測する2025年の医療需要は、ある特定の日に調査した全外来・入院患者数と人口10万人との比率である「受療率」をベースに算出されています。しかし、ここでは地域ごとで大きく異なる地域格差、急速に進む在院日数の短縮や入院医療の外来化などは加味されていません(図表4)。

図表4 平均在院日数短縮と外来化でのべ入院患者数は減少へ

図表4 平均在院日数短縮と外来化でのべ入院患者数は減少へ

 つまり、厚労省による将来予測では、急性期病床過剰による需給ミスマッチが十分に是正されない可能性があります。医療機関は将来、人口動態に応じた医療需要、地域特性、在院日数短縮と外来化の流れを意識した上でのポジショニングが求められています。そう考えると、自病院だけで展開する将来予測は立てづらいのが実際で、思い切った病床機能分化、介護も含めた連携、病床再編・統合などを通し、急性期病床数の適正化と地域の医療・介護ニーズに呼応した医療提供体制に転じる必要があります。特に、コスト管理は重要で、GHCもサービスを開始した医療材料の共同購買「GPO」などのサービス利用が必要になってくるかもしれません。

 「地域医療構想」をテーマに、松下記念病院の実データを活用しながら分析した今回の講演ですが、より詳細かつ広範囲に日本の医療の課題について検証し、11病院の経営改善事例などをまとめた『日本医療クライシス』(共著:渡辺さちこ、アキよしかわ 出版社:幻冬舎メディアコンサルティング)がこのほど上梓されました(詳細はこちら)。ご興味のある方はこちらも是非、ご覧ください。18日の日本病院学会では、相澤病院と佐久総合病院の実データを用いたランチョンセミナーを開催する予定です(詳細はこちら)。

当日の会場には500人近くの聴講者が集まった

当日の会場には500人近くの聴講者が集まった

解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。