難病対策の基本方針を厚労省の検討委が了承、早ければ8月中にも告示へ―難病対策委員会
2015.7.13.(月)
厚生科学審議会・疾病対策部会の「難病対策委員会」は10日、「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」を概ね了承しました。パブコメ・疾病対策部会の了承を経て、早ければ8月中、遅くとも9月上旬には告示される見込みです。
基本方針では、難病患者への医療提供体制について疾患や領域ごとの特性に応じて「具体的なモデルケース」を示すことを打ち出しました。極めて希少な疾患でれば、診断確定が難しいために大学病院に紹介され、そこでも診断が付かず、遺伝子検査を行う研究所などとの連携が重要になるでしょう。一方、診断確定後は、大学病院に患者が集中しすぎると、運営に支障すら出るので、より身近な医療機関への受診が現実的と言えそうです。厚労省は、このようなモデルケースをいくつか作成して都道府県に通知などで示す考えですが、その中には、難病に対する総合的な医療を提供する「難病医療の拠点病院」も組み込まれるもようです。
難病医療対策は1972年(昭和47年)の「難病対策要綱」から本格化し、2014年に難病対策の根拠法となる「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が成立し、15年1月から施行されています。
難病法では、厚生労働大臣に対して「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」(基本方針)を定めるよう指示しており、難病対策委員会で方針策定に向けた議論が続けられてきました。基本方針は次の9本の柱で構成されています。
(1)難病患者に対する医療などの推進の基本的な方向
(2)難病患者に対する医療費助成制度
(3)難病患者に対する医療を提供する体制の確保
(4)難病患者に対する医療に関する人材の養成
(5)難病に関する調査および研究
(6)難病患者に対する医療のための医薬品、医療機器および再生医療等製品に関する研究開発の推進
(7)難病患者の療養生活の環境整備
(8)難病患者に対する医療などと難病患者に対する福祉サービスに関する施策、就労支援に関する施策その他の関連施策との連携
(9)その他難病患者に対する医療などの推進
このうち(3)の医療提供体制については、「早期に正しい診断ができる体制」と「診断後はより身近な医療機関で適切に医療を受けられる体制」を確保することが主眼となります。
このため国は、疾患や領域ごとの特性に応じて、かつ地域の実情を踏まえた取り組みを行えるように、「難病の診断および治療の実態を把握し、医療機関や診療科間および他分野との連携の在り方などについて検討を行い、具体的なモデルケースを示す」ことになります。
検討には一定程度の時間が必要なため、モデルケースは、8-9月の告示より後に、通知などの形で示されることになりそうです。
なお、厚労省健康局疾病対策課の担当者は「モデルケースの中には、複数の難病について総合的な診断・治療を行う『拠点病院』のような仕組みも盛り込む」と説明しています。都道府県に1つ、あるいは複数の拠点病院が置かれる見込みですが、診断・治療がここに過度に集中することを避けるために、他の医療機関との連携が極めて重要になります。
また、国立高度専門医療研究センター、難病の研究班、学会などが、大学病院や拠点病院と、より専門的な機能を持つ施設をつなぐ「難病医療支援ネットワーク」を構築する方針も明確になっています。
さらに、小児慢性特定疾患などの罹患児が、成人後も必要な医療を切れ目なく受けられるように、「小児期、成人期それぞれを担当する医療従事者間の連携」も推進されます。
(2)の医療費助成制度に関連して、「難病患者データベース」を構築する方針も明確にされました。
このデータベースには、指定難病(現在は306疾患)の患者すべてを対象に、臨床情報などが集積されます。指定難病患者のうち、一定の重症度を満たす人は、医療費助成の対象となるため、指定医が臨床調査票を作成するので、自動的にデータベースに登録されます。
一方、指定難病に罹患しながら、重症度を満たさない人は、データベースへの登録義務はありません(任意登録)。ただし、医療費が高額なために医療費助成を申請する場合や、将来の重度化を見据えて事前に登録する場合など、少なくないケースで登録が見込まれます。
このデータベースは、疫学的な研究などに活用することは可能ですが、例えば新薬の開発や新規技術の開発などの際に、個別患者のデータを二次利用することは認められません。個別患者のデータを活用しようと考える場合には、その患者に事前に同意を得ることが必要となります。
なお、これに関連し山本一彦委員(東京大学大学院医学系研究科教授)や伊藤たてお委員(日本難病・疾病団体協議会前代表理事)は、「医療費助成の対象疾患を広げ、一方で対象患者を重症者に限定した。しかし、難病施策が過度に重症者に集中するのは好ましいことではない。理想は『軽症者に早期から支援を行う』ことである」と述べ、軽症者への早期介入という視点も盛り込むよう求めています。
(4)の人材養成については、次のような具体策が示されました。
▽指定医の質を向上させるために、研修テキストの充実や、最新の難病診療に関する情報提供の仕組みを検討する
▽医療従事者は自己研さんに努め、学会は学習の機会を積極的に提供する
▽喀痰吸引などに対応する事業者・介護職員などの育成に努める
ただし、本田彰子委員(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科教授)は「指定医と介護職員の間にいる、医療と介護の連携の要となる医療従事者への対応が不十分である。学会任せではいけないのではないか」と指摘。今後、金澤一郎委員長(国際医療福祉大学大学院長)を中心に、こうした指摘を踏まえた追記がなされる見込みです。
このほか(7)の療養生活の環境整備では、「難病患者を多方面から支えるネットワーク」が必要であることを強調し、「難病相談支援センター間のネットワーク」を構築する方針を示しました。
さらに、難病の患者や家族が、別の難病患者・家族などの相談などに乗る「ピア・サポート」を実施できるよう、国と都道府県は「ピア・サポートに係る基礎的な知識・能力を有する人材の育成」を支援していきます。
もっとも、難病に関する研究などは日々進歩するため、基本方針は「少なくとも5年ごとに再検討し、必要があれば見直しを行う」ことになっています。
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