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GemMed塾 看護モニタリング

看護必要度、「A項目への新評価軸導入」などの大幅見直し―入院医療分科会

2015.7.16.(木)

 現在の「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)では、開胸手術直後の患者や救急搬送された患者など明らかな重症患者が十分に評価しきれておらず、新たな評価軸を導入してはどうか―。16日に開かれた診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」では、このような議論が行われました。

 このほか、「看護必要度のA項目が一定以上の場合には、B項目3点以上を満たさなくても重症患者にカウントしてはどうか」「B項目に認知症患者の評価項目を加え、さらにICU、HCU、一般病棟で統一してはどうか」といったテーマも議論されました。

7月16日に開催された、「平成27年度 第5回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

7月16日に開催された、「平成27年度 第5回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

A項目に「新たな評価軸」を導入する方向

 現在、7対1病棟には「看護必要度のA項目2点以上かつB項目3点以上の患者が15%以上いなければならない」(以下、重症基準)という施設基準が定められています。これは、「急性期を担う病棟であり、重症患者を多く受け入れる」機能が求められているためです。

 しかし、厚労省が行った調査結果からは次のような事実が明らかになりました。

▽開胸手術直後でも重症基準を満たす患者は50%程度で、術後3日目には25%を下回る

開胸手術直後でも重症基準を満たす患者は50%程度で、術後3日目には25%を下回る

開胸手術直後でも重症基準を満たす患者は50%程度で、術後3日目には25%を下回る

▽全身麻酔手術を多く実施している医療機関のほうが、少ない医療機関よりも重症基準を満たす患者の割合が低い

全身麻酔手術を多く実施している医療機関のほうが、少ない医療機関よりも重症基準を満たす患者の割合が低い

全身麻酔手術を多く実施している医療機関のほうが、少ない医療機関よりも重症基準を満たす患者の割合が低い

▽救急搬送患者のうち、重症基準を満たす患者は最大でも30%程度

救急搬送患者のうち、重症基準を満たす患者は最大でも30%程度

救急搬送患者のうち、重症基準を満たす患者は最大でも30%程度

 このように、明らかに重症度が高いであろう患者が重症基準に該当しないことは、現在の看護必要度が十分に重症患者を把握しきれていないものと考えられます。このため厚生労働省は新たな評価軸を「看護必要度のA項目」に加えたい考えです。

 厚労省からは、具体的な新評価項目案は示されませんでしたが、藤森研司委員((東北大学大学院医学系研究科・医学部医療管理学分野教授)は、「開胸・開腹術などの術後3-5日程度の期間は、重症基準を満たす」という評価軸の導入を書面で提案しています。

 また筒井孝子委員(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)は、「看護必要度とは別に、手術件数や手術内容などを7対1の施設基準に加えてはどうか」と提案。これは看護必要度に多くの種類の項目が入ると患者像が見えにくくなるとの考えに基づく提案ですが、厚労省保険局医療課の担当者は「看護必要度の見直しという枠で議論してほしい」という考えのようです。

「A項目一定以上」のみでも重症者にカウントする方向

 分科会では、現在の「看護必要度のA項目2点以上・B項目3点以上の患者」を重症患者とするロジックを生かしたまま、新たに「看護必要度のA項目が一定以上の患者」(B項目は不問)も重症患者に含める方向性も示されました。

 厚労省の調査によると、「A項目が3点以上の患者」は、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」に比べて、▽医師による指示の見直し頻度が必要な患者が多い▽看護師による処置、観察、アセスメントが必要な患者と同程度―であることが分かりました。指示の見直し頻度などは、一定程度、重症度を反映していると考えられ、両者の重症度にそん色はないと言えそうです。

「A項目が3点以上の患者」は、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」に比べて、医師による指示の見直し頻度が必要な患者が多い

「A項目が3点以上の患者」は、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」に比べて、医師による指示の見直し頻度が必要な患者が多い

「A項目が3点以上の患者」は、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」と、看護師による処置、観察、アセスメントが必要な患者の割合が同程度である

「A項目が3点以上の患者」は、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」と、看護師による処置、観察、アセスメントが必要な患者の割合が同程度である

 また、「A項目2点以上の患者」の割合が高くなるにつれ、100床当たりの▽全身麻酔手術▽人工心肺を用いた手術▽悪性腫瘍の手術―などの実施件数も多くなります。しかし、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」の割合が高くなっても、必ずしも全身麻酔手術などの実施件数は多くなりません。

「A項目2点以上の患者」の割合が高くなるにつれ、100床当たりの▽全身麻酔手術▽人工心肺を用いた手術▽悪性腫瘍の手術―などの実施件数は増えるが、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」の割合が高くなっても、全身麻酔手術などの実施件数は必ずしも増えない

「A項目2点以上の患者」の割合が高くなるにつれ、100床当たりの▽全身麻酔手術▽人工心肺を用いた手術▽悪性腫瘍の手術―などの実施件数は増えるが、「A項目2点以上・B項目3点以上の患者」の割合が高くなっても、全身麻酔手術などの実施件数は必ずしも増えない

 こうした結果の背景には、若年の患者では『寝返り』や『移乗』など、いわばADLを見る「看護必要度のB項目」に該当しないケースが多いためと考えられます。しかし、医療的な処置の必要性を見る「看護必要度のA項目」が高い場合には、やはり重症患者に含めるべきでしょう。

 検討会では、現在の重症基準に加えて、新たに「看護必要度のA項目が一定以上の患者」(B項目は不問)も重症患者に含めるべきとの意見が数多く出されました。

 これにより「早期のリハビリは進めるべきだが、それをすると患者のADLが向上し、重症基準に該当しなくなってしまう」というジレンマも解消することができ、医療の質の向上にも寄与することでしょう。

 なお、これらに関連して嶋森好子(慶應義塾大学元教授)委員や筒井委員は「A項目の内容を大幅に整理するとともに、ICU・HCU・一般病棟でA項目の統一化を図るべきではないか」と提案しました。これにより、病棟ごとの患者の重症度を比較可能になるとの考えに基づいています。

 しかし厚労省保険局医療課の担当者は、「ICUやHCUに期待されている医療がある。一般病棟で行うべき内容の医療をたくさんしているのがICUやHCUではないはずだ」と述べ、現在の特性に応じたA項目は維持すべきとの見解を示しています。またA項目の整理について、否定はしていませんが、今回改定で行うべきかについては慎重姿勢です。

B項目に認知症関連加え、ICU・HCU・一般で統一

 厚労省は「看護必要度B項目」を次のように、大きく見直してはどうかとの提案も行いました。

(1)現在の項目から、「起き上がり」と「座位保持」を削除する

(2)新たな項目として、「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」を追加する

(3)ICU・HCU・一般病棟で、B項目を統一する(重症基準となる点数には傾斜を付ける)

 (1)は、「寝返り」と「起き上がり」「座位保持」には極めて強い相関があり、「寝返り」の項目だけで他を評価できると考えられることから提案されたものです。

「寝返り」と「起き上がり」「座位保持」には極めて強い相関がある

「寝返り」と「起き上がり」「座位保持」には極めて強い相関がある

 また(2)は、高齢化の進展に伴って、急性期病棟にも認知症の患者が増加し、医療現場で大きな課題となっていることを受けたものです。厚労省の分析では「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」の2項目が認知症と強い相関を持っていることから、これを新項目として追加することが提案されています。

「診療・療養上の指示が通じる」「他者への意思の伝達」「危険行動」の各項目が認知症と強い相関を持っている

「診療・療養上の指示が通じる」「他者への意思の伝達」「危険行動」の各項目が認知症と強い相関を持っている

認知症患者では、看護提供頻度が高い傾向にある

認知症患者では、看護提供頻度が高い傾向にある

 さらに、前述の「医療内容見るA項目」とは異なり、「主に患者のADLなどを見るB項目」については、病棟の種別によって評価項目を区別する必要性に乏しいと考えられることから(3)の提案が行われました。

 厚労省では、(1)から(3)のB項目見直しを行っても、全体として大きな影響はないと試算しており、これについて委員から目立った異論は出されませんでした。

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