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費用対効果評価はQALYを基本に実施、他の指標の使用も認める―中医協・専門部会

2015.7.22.(水)

 2016年度の次期診療報酬改定で試行導入される予定の「費用対効果評価」について、効果を測定するための指標は「QALY」を基本として、ケースによってはほかの指標の使用も認める―。このような考え方が、22に開かれた中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会で固まりました。

 6月24日の専門部会では「試行的導入の在り方」が固められており、今年秋には具体的な制度の枠組み関する中間まとめが行われる見込みです。

7月22日に開催された、「第27回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会」

7月22日に開催された、「第27回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会」

今年秋に費用対効果の分析ガイドラインを作成

 費用対効果評価は、ある医療技術や医薬品などを保険収載する際、あるいは保険償還価格を設定する際に、「類似のほかの医療技術や医薬品と比べて、それが適当かどうか」を判断する仕組みと言えます。

 16年度の次期診療報酬改定でこの仕組みを試行導入すべく、中医協の専門部会で検討が進められており、6月24日の前回会合では▽あらかじめ選定基準を定めて、対象品目を選定した上で、メーカーに費用や効果に関するデータの提出を義務化する▽企業の提出データを、医療経済学の専門家が公正・中立な視点で再分析する▽評価結果は、当面、既収載品の再算定などに用いる―といった方向が大筋で固められました(関連記事はこちら)。

 今回は、「何をもって効果があると判断するのか」「費用はどこまでを対象とするのか」などが議論されました。

 まず、費用対効果評価は「公定価格の設定」に用いられる見込みなので、まちまちな手法を用いることは許されず、「標準的な分析方法」をあらかじめ設定しておく必要があります。さもなければ、恣意的なデータによる不公正な価格設定が行われてしまうからです。

 この点について厚生労働省保険局医療課の佐々木健企画官は、「過去に作成したガイドラインを参考に、15年度の厚生労働科学研究によって『標準的な分析手法』(ガイドライン)を作成する」ことを提案し、了承されました。

 過去のガイドラインとは、▽医療経済研究における分析手法に関するガイドライン(12年厚労科学研究)▽中央社会保険医療協議会における医薬品・医療機器の費用対効果評価分析に関する研究(14年厚労科学研究)―のことで、後者は実際の製品(医薬品5品目、医療機器3品目)データを基に非公開で行われた専門部会で活用されたものです。

 企業によるデータ提出、医療経済学の専門家による再分析は、このガイドラインに沿って行われることになります。

 厚労省保険局医療課の担当者は、「ガイドライン作成には一定の時間がかかる」と説明しており、中間まとめの後に専門部会に報告される見込みです。

QALYを基本とする考え方に鈴木委員から異論も

 費用対効果評価の「効果」はどのように測るべきでしょう。

 英国では「QALY」(質調整生存年、健康状態を加味した生存年数)という指標が用いられており、わが国でも「QALY」が基本指標となる見込みです。もっとも、QALYは短期的な効果の測定を得意としているため、例えば余命の延長などのように「長期的に見て、初めて効果が判定できるので、QALYでは不十分なケース」もあるかもしれません。そうした場合に備えて厚労省は「疾患や医薬品などの特性などに応じて、その他の指標も用いることができる」としてはどうかと提案しています。具体的には、▽生存年(LY)▽臨床検査値▽治癒率▽重症度▽発生率▽死亡率―などです。

1QALYは、例えば「完全な健康状態が1年間継続する」と考えられる。また、「健康状態が0.5の状態が2年間継続する」場合も1QALYとなる

1QALYは、例えば「完全な健康状態が1年間継続する」と考えられる。また、「健康状態が0.5の状態が2年間継続する」場合も1QALYとなる

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(1)

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(1)

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(2)

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(2)

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(3)

費用対効果の「効果」を測る指標として、QALYがよく用いられている(3)

 したがって、メーカー側は対象製品に関する「QALY」を必ず提出し、必要があれば別の指標を用いた効果を提出することも認められます。

 この点について診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「ドイツではQALYを費用対効果評価に用いることが違法と判断されたと聞く。また、QALYは短期的な効果しか把握できないなどの欠点もあるという」と述べ、QALYの導入には依然、慎重な姿勢を崩していません。

 また支払側の白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)も「QALYは万能ではない」と鈴木委員の見解に理解を示した上で、「QALY以外の指標も活用して効果を判断する方向性は好ましい」と厚労省の提案に賛成しています。

 今年秋の中間まとめを議論する際に、効果指標についてはあらためて論争が起こる可能性も否定できません。

費用に「生産性損失」を含めるべきか、支払側は慎重意見

 一方、費用対効果評価の「費用」はどのように測るべきでしょうか。厚労省は、「公的医療費」を原則とした上で、▽公的介護費▽生産性損失(仕事や家事ができないことによる生産性の損失)―を費用に含めた分析の提出も認めてはどうかと提案しました。

 ここで、生産性損失のデータは、費用と効果だけでは判断できない社会的事情などを勘案する「アプレイザル」の段階で費用の一要素として用いられるケースが多いと考えられます。この場合、▽生産性損失の設定如何でデータ提出者に有利になり得る▽生産性損失が莫大な額になる可能性がある―ことから、「費用の範囲を見直した追加分析」を行ってはどうかと厚労省は考えています。

 この生産性損失を費用に含めるべきか否かでは、診療側と支払側で意見の対立があります。支払側の白川委員や石山惠司委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療改革部会部会長代理)は「生産性損失は定義があいまいであり、評価を歪める可能性がある」と述べ、慎重姿勢を見せています。

 一方、診療側の万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)は、「医師は生産性が損なわれないことを目指して医療を提供している」と述べ、費用へ含めることに積極的です。

 なお、福田敬参考人(国立保健医療科学院統括研究官)はこの点について「生産性損失を費用に含める場合でも、ガイドラインに具体的な範囲などを明記しておく必要がある」とコメントしています。中間まとめに向けてさらなる調整が行われることでしょう。

「費用」として医療費を考える場合には、当該技術だけではなく、入院・外来や検査なども含めて考えるのが一般的

「費用」として医療費を考える場合には、当該技術だけではなく、入院・外来や検査なども含めて考えるのが一般的

「費用」を考える際には、継時的な部分も含める必要がある

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