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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

医療経済学者がキャンサーナビゲーターになった(2)―「戦場を失くした戦士」

2015.7.29.(水)

 医療経済学者で米国グローバル財団理事長のアキよしかわは、米国ハワイ州のクイーンズメディカルセンターによるキャンサーナビゲーターの養成プログラムで、がん患者を支援するのに不可欠な基本的な内容から、化学療法の副作用などかなり踏み込んだ内容までを学びました。6日間に及ぶ講義はどのような内容だったのでしょうか。

2015.7.29GHCをウォッチ アキさん アキによると、講師と研修生が互いにレイ(花輪)を掛け合うなど、初日こそ南国ハワイらしい和やかな雰囲気でスタートを切ったということですが、その後は毎日、基本的な事柄からがんに関するかなり踏み込んだ内容まで、午前8時から午後5時近くまでみっちり学んだということです。

 プログラム初日の内容は、キャンサーナビゲーターに不可欠なノウハウが主なテーマでした。

 それでは、キャンサーナビゲーションとはそもそもどんな仕事なのでしょうか。一言で言うと、がんの患者と家族を支えるのが役割です。がんとの闘いはとても長く、最適な治療を受けられる医療施設が近くになかったり、経済的に困窮してお金を払えなかったり、精神的なショックが大きくて治療に差し障ったりと、いろいろな障壁にぶつかるケースが出てきます。例えばお金がなくて十分な治療を受けられないケースでは、ナビゲーターたちは経済的な支援を受けられる公的なツールを患者や家族に紹介し、治療につなげます。

 米国では、がんの拠点病院にはナビゲーターの配置が求められていますが、診療報酬による裏付けはなく、職種や院内での位置付けはさまざまです。例えば急性期病院に勤務しているか、それとも後方支援病院に勤務しているかによって仕事の内容は大きく変わります。

 今回の養成プログラムを主催したクイーンズメディカルセンターは、全米でも有名ながん診療の拠点病院です。それだけに、ここで働くナビゲーターたちにもかなり踏み込んだ臨床面の知識が求められます。これに対して、同じハワイ州にある「カピオラニ病院」のキャンサーナビゲーターたちは、主にソーシャルワーカー的な役割をカバーしているといいます。

 ただ、がん患者が適切な治療を受けられるよういわば道案内する点では共通していて、治療内容に関する合理的な判断を促すための情報提供が大切な役割です。

■ネット情報、「何にでも効く」は要注意


 がんの患者と家族を支えるといっても簡単なことではありません。例えば、化学療法を終えた段階が患者にとって大きな節目になります。半年近くにわたる治療を一通り終えるとドクターとコミュニケーションを取る機会が激減し、それから先、何をすればいいのかが分からずに大きな不安に襲われがちです。

 「この段階のがん患者は、いわば“戦場を失った戦士”のような状態」とアキは話します。キャンサーナビゲーションでは、こうしたタイミングでどのような支援を展開するかが問われます。「とても難しいけど、大切な課題だ」(アキ)。

 このような概念は「キャンサーサバイバーシップ」と呼ばれ、キャンサーナビゲーターたちは、患者ががんと共に生きていくためのさまざまなサポートを展開します。患者ごとにケアプランを立てて生活を支えるだけでなく、インターネット上に氾濫する情報の見極めもナビゲーターの仕事です。養成プログラムでは、実在する医薬品などに関する情報をインターネットで集めて、情報のソースを確かめたり、内容の真偽を判断したりする課題が出されました。

 特に要注意なのは、「何にでも効く」などと科学的な裏付けを伴わない情報を含んでいたり、論文からの引用が一切なかったりするサイトです。キャンサーナビゲーターは、有益な情報だけでなく、こうしたサイトを「アクセスすべきでないリスト」に位置付け、リストにして患者たちに伝えます。

 このように、キャンサーナビゲーターによる支援は広範囲にわたります。患者にとってはこの上なく頼れる存在なだけに、患者から過度に依存されたり、ときには恋愛の対象になったりすることもあるようです。しかし、キャンサーナビゲーターが自分自身を守る観点から、こうした関係は禁物です。そのため、患者との最後の一線を引くことがキャンサーナビゲーターに不可欠な心構えだといいます。

 日本と米国で培われた医療の文化の違いにも、アキはしばしば驚かされたようです。例えば、プログラムの4日目にテーマになった緩和医療のとらえ方。日本では、終末期医療に近い意味でこの言葉がしばしば使われますが、米国では、患者の痛みを和らげる緩和医療の概念が、手術などがん治療の初期の段階から重視されます。

 治療の手立てがなくなってから緩和医療に切り替えるという日本型の発想ではなく、一連の治療のプロセスを通じて緩和医療のウエートが少しずつ高まるイメージです。

■「キャンサーナビゲーションを日本にも」


 医療経済学者として、若いころから米国でキャリアを積んできたアキにとっても、キャンサーナビゲーターの養成プログラムを受けたことは新鮮な経験だったようです。

 「想像以上に初めて知ることばかりで、毎日エキサイティングだった」

 今回、共にプログラムを修了した8人のうちアキを除く7人は、ナースとして医療現場で活躍したり公衆衛生に携わったり、何らかの形でがん患者と接点のある人たちでした。一方、講師陣はがん医療の第一線に携わる医師やナースたちが中心で、中には大切な肉親を脳腫瘍で失い、がんの撲滅を誓って全米を講演に飛び回る元米軍幹部もいました。

 「研修中に講師が涙ぐんで2-3分間、言葉を詰まらせることが何度かあった。講師たちも研修生たちも、自分のミッションを非常に強く認識していた」とアキは振り返ります。

 もちろん、アキもその1人。日本初のキャンサーナビゲーターとして、今回の経験をどう生かそうと考えているのか―。現時点での構想を聞くと、こんな答えが返ってきました。

 「がん患者に対するもっと専門的な支援が日本でも必要だと思う。ハワイでも最初は、ナビゲーターが自分たちに近い役割をカバーすることに、ドクターたちが反対した。それでもなぜこういうことを実現できたかというと、数人の著名なドクターがリーダーシップを取ったからだ。同じことを日本でもできるように、医療現場の皆さんに理解を訴えたい」

 アキとGHCのこれからの活躍にご期待ください。

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