がん患者の不安と徹底して向き合い導く「キャンサーナビゲーション」って何だ?
2015.3.20.(金)
1981年以来、日本人の死因トップである「がん」。がん患者は、死への恐怖や家族への負担などさまざまな不安を抱えながら日々、闘病しています。こうした不安に徹底して向き合い、質の高い患者支援サービスを提供する「キャンサーナビゲーション」が今、米国で注目を集めつつあります。
米国ハワイ州にあるモロカイ島。右乳腺がんの「Stage3A」と診断されたある低所得者層のシングルマザーは、自身の置かれた環境では治療を継続するのは難しいと考え、死への恐怖に支配されたまま、ただ悲しみに暮れる日々を過ごしていました。
そんなある日、彼女を訪れたキャンサーナビゲーションのナビゲーターは、彼女の潜在意識の「心の声」に耳を傾け続けました。そして、彼女が抱くがん治療への誤解を一つ一つ紐解いていきました。
英語を話せないために感じていた「言葉の壁」は、すべての場に通訳が同席することで乗り越えることになりました。また、精神的な苦痛を支える専門家を紹介し、家族へ具体的な支援内容も説明。さらに保険の見直しや地域の支援団体への橋渡しを行い、治療後の手厚いサポートまでしっかりと理解できたことで、この患者治療の再開を決めました。
キャンサーナビゲーションを展開するクイーンズメディカルセンター(ハワイ州)の研修に2月に参加したGHCコンサルタントの八木保は、「顕在しているニーズだけではなく、潜在ニーズを引き出す能力に大きな価値がある」と、キャンサーナビゲーションの特徴を解説します(関連記事『優れた医療を日本に-全米屈指のクイーンズメディカルセンターでGHCが研修(1)』)。
米国立がん研究所(NCI=National Cancer Institute)によると、キャンサーナビゲーションは「医療の消費者(患者、生存者、家族、医療提供者)に対し、ヘルスケアシステムを通して患者の進路を指し示し、質の高いケアに対する障壁をなくす支援」と定義されています。
「医療の消費者」には医療提供者も含まれ、医療サービス以外の「移動」「経済的支援」「周囲とのコミュニケーション」なども加えた総合的な支援を行う点が、キャンサーナビゲーションを理解する上で重要なポイントです(図)。
キャンサーナビゲーションが生まれた背景について、八木はがん医療における課題がいくつかあると説明します。
まず1つには、がん患者の置かれる治療環境が極めて複雑だということがあります。がんは他の多くの疾病のように、投薬して回復したり、手術を受けて退院したりするような一定期間の決まった経過をたどる疾病ではありません。回復までの期間は長く、時には完治しないこともあります。手術、放射線・化学療法など治療法の選択肢も多く、再発や転移があれば、初期診断の状況に戻って治療し直します。
患者が必要としているものも複雑です。玉石混交の膨大な情報の中から本当に必要なものを見極めるのは困難で、医療サービスにアクセスするための判断に迷ったり、移動に苦痛を感じたりすることもあります。治療を継続するためにメンタル面の支援を求めていたり、医療提供者との信頼関係に悩んでいたりするかもしれません。
必要な医療サービスが高額だったり、医療機関の責任者が不明確だったりと、そもそも患者だけでは乗り越えられないハードルも多く存在しています。
キャンサーナビゲーションがほかの患者支援サービスに比べてユニークなのは、「がん患者の支援を職務範囲に縛られず、医療から生活まで広い範囲で影響を及ぼすことができるリーダー的な存在になっている点」だと八木は解説しています。
キャンサーナビゲーションの効果は患者支援にとどまりません。病院にとっても、がん医療の質やブランド力の向上による集患と、それによる収益拡大にとつながることが確認されています。
がん診療連携拠点病院の指定の見直しをめぐる議論で、専任・専従のスタッフによる相談支援センターの整備が指定要件に組み込まれるなど、がん患者のサポートは日本国内でも重要性を増し求めています(関連記事『がん診療連携拠点病院の空白地域、わずかだが減少の見込み―厚労省検討会』)。
増加の一途をたどるがん患者を社会全体で支え、医療機関の経営改善につなげるためにも、「キャンサーナビゲーション」はいずれ、日本でも注目を集めるキーワードになるかもしれません。
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