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「紹介状なしの大病院受診患者」への新たな定額負担、厚労省は「最低額を定め、個別病院設定」する案を提示―中医協

2015.9.30.(水)

 2016年4月から、特定機能病院などでは、紹介状のない患者などに対して定額の別途負担を求めることになりますが、その金額について「最低額を定め、医療機関の判断に委ねる」こととしてはどうか―。こういった提案が、30日に開かれた中央社会保険医療協議会に厚生労働省から行われました。

 定額負担の額や、徴収する医療機関の範囲などについて、今後、さらに中医協で議論が続けられます。

9月30日に開催された、「第304回 中央社会保険医療協議会 総会」

9月30日に開催された、「第304回 中央社会保険医療協議会 総会」

特別料金徴収の制度設計は中医協で行う

 厚労省は、外来医療についても、「一般の外来は診療所や中小病院が担い、大病院は主に専門・紹介外来を担当する」という機能分化を進めたいと考えています。その背景には、軽症の患者が大病院外来を多く受診することで、大病院が本来果たすべき役割(重症者の治療)に専念できず、また大病院に勤務する医療従事者の負担が過重になっている現状を是正する狙いがあります。

 現在、「「200床以上の大病院において紹介状を持たない初診患者への選定療養導入」「紹介率・逆紹介率の低い大病院における初診料等の減額(12・14年度診療報酬改定)」などの措置を取られていますが、厚労省はさらに今般の健康保険法等改正の中で「特定機能病院などの大病院において、紹介状を持たない患者などに対して、定額の別途負担を求めることを義務化する」ことを規定しました(関連記事はこちらこちら)。

外来における機能分化を進めるために、紹介状なしに大病院を受診する患者に対して、16年度から定額の別途負担徴収を義務化する

外来における機能分化を進めるために、紹介状なしに大病院を受診する患者に対して、16年度から定額の別途負担徴収を義務化する

 この新たな定額別途負担について、具体的な制度設計を中医協で議論することになったのです。厚労省は30日の中医協総会に、新たな定額負担を考えるに当たっての5つの論点を提示しました。

(1)新たな定額負担は、療養担当規則を改正し「一定規模以上の医療機関について、定額の徴収を責務とする」こととする

(2)定額負担を求める大病院の範囲を、地域医療支援病院の中でも大規模(500床以上)などとする

(3)定額負担を求めないケースを設定する

(4)定額負担を「全国一律の最低金額」として設定する

(5)新たな定額負担を導入した場合の、初診料・外来診療料の評価などをどうするか

療養担当規則を見直し、大病院では特別負担徴収を義務化

 (1)は、現在の「200床以上の大病院における特別料金」(選定療養)を、一部の大病院について義務化するものです。したがって、仮に一部の大病院を500床以上とすると、紹介状を持たない患者について、▽200-499床の病院では「病院の定める特別料金」を徴収することができる(徴収しなくてもよい)▽500床以上の病院では「定められた特別料金」を徴収しなければならない(義務)―という体系になります。

 この点について中医協委員から反論は出ていません。

特定機能病院と、500床以上の地域医療支援病院が候補

 (2)について厚労省は、「特定機能病院」(健保法に規定)のほか「一定規模(例えば500床)以上の地域医療支援病院」を対象としてはどうかと提案しました。

 地域医療支援病院は「かかりつけ医などの支援」を行うことが求められており、指定基準に紹介率・逆紹介率が規定されているためで、中医協委員もこの提案に賛成しています。

特定機能病院や地域医療支援病院には「紹介率・逆紹介率」が指定要件に盛り込まれている

特定機能病院や地域医療支援病院には「紹介率・逆紹介率」が指定要件に盛り込まれている

 厚労省の調べによれば、500床以上の地域医療支援病院は15年4月時点で187施設あり、うち160施設・85.6%で「紹介状のない初診患者」から特別料金を徴収している(86の特定機能病院では100%)ので、大きな混乱はなさそうです。

 もっとも、「逆紹介をしたにもかかわらず大病院を受診する再診患者」から特別料金を徴収しているのは、特定機能病院では17施設・19.8%、500床以上の地域医療支援病院では23施設・12.3%にとどまっており、こちらについてはトラブルも予想されます。

特定機能病院では100%、500床以上の地域医療支援病院では85.6%の施設が、紹介状のない初診患者に特別料金を課しているが、再診患者に課している所は少ない

特定機能病院では100%、500床以上の地域医療支援病院では85.6%の施設が、紹介状のない初診患者に特別料金を課しているが、再診患者に課している所は少ない

救急患者などから特別料金を徴収しないが、軽症者の扱いが課題

 (3)では、「緊急やむを得ない事情がある場合には、新たな定額負担の徴収は行ってはならない」こととする考えが示されました。具体的には、▽救急で来院した患者▽公費負担医療制度の受給対象者▽無料低額診療事業の対象患者▽HIV感染者―が対象となります。現在の「200床以上の大病院を紹介状なしに受診する場合の特別料金」を徴収できない規定にならったものです。

 ただし「救急で来院した患者」のうち、軽症者については対象から除外、つまり特別料金を徴収すべきではないかと厚労省は考えています。

 この点について診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)は「軽症かどうかは診療してみなければ分からない」と指摘し、除外規定を盛り込む提案に慎重な姿勢です。

 また万代委員は「制度開始後に、どのような救急患者が来院しているのかを調べ、その結果をもとに見直しを検討してはどうか」「健診で異変が見つかり外来を受診した場合などは、特別料金の対象から除外すべきではないか」とも提案しています。

厚労省は、最低基準定めた上で、金額は個別病院に委ねたい考え

 (4)の金額については、厚労省から初診の場合には▽3000円▽5000円▽1万円、再診の場合には▽1000円▽初診時の特別料金の4分の1―などが例示されました。

厚労省は、さまざまなデータをもとに「考えられる特別料金」の一例を提示

厚労省は、さまざまなデータをもとに「考えられる特別料金」の一例を提示

 13年の厚生労働科学特別研究事業(研究代表者:菅原琢磨・法政大学経済学部教授)では「特別の患者負担が5000円以上となると、軽症時に、紹介状なしに大病院の受診を控える可能性がある」ことが示唆されています。具体的な金額については、さらに慎重な検討が進められます。

厚生労働科学特別研究によれば、「5000円を超える特別負担」を課すことで、軽症患者が紹介状なしに大病院を受診する行動を抑制できる可能性がある

厚生労働科学特別研究によれば、「5000円を超える特別負担」を課すことで、軽症患者が紹介状なしに大病院を受診する行動を抑制できる可能性がある

 ところで厚労省は、これまで「全国一律」と考えられてきた特別料金について「全国一律の最低額」を設定してはどうかとの提案も行っています。現在の選定療養についても、東京都内、大都市圏、その他の地域で特別料金の設定が異なっていることを受けたもので、厚労省保険局医療課の担当者は「最低額を定め、医療機関が独自に金額を設定する」仕組みはどうかと説明しています。

東京都内、大都市圏、その他の地域で、特別料金の設定水準が異なっている

東京都内、大都市圏、その他の地域で、特別料金の設定水準が異なっている

 この点について診療側の鈴木委員や万代委員は「地域の実情」を考慮すべきと述べ、厚労省の提案に近い考えを持っていることを表明しました。

 一方、支払側の白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は「地域別の特別料金などは患者に分かりにくいが、大学病院と地域医療支援病院など、機能ごとの特別料金は理解しやすい」との考えを述べました。

 厚労省は、こうした意見も踏まえて制度の詳細を練っていきます。

 また(5)は、診療報酬上の「紹介率・逆紹介率の低い大病院における初診料や外来診療料の減額措置」などを継続すべき、かというテーマです。鈴木委員や万代委員は「現行の仕組みを継続すべき」との考えを示しています。

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