ICUでも看護必要度A項目見直しへ、心電図モニターなどの項目集約や重み付け変更を求める意見も―入院医療分科会
2015.10.1.(木)
特定集中治療室管理料について、「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」のみで重症度、医療・看護必要度A項目3点を満たしている患者が5割以上もいる病院が一部にあることが分かり、2016年度の次期改定に向けて「項目の統合」や「項目の重み付けの見直し」などの見直しが行われる可能性が出てきました。
これは1日に開催された診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」で議論されたもので、特定集中治療室については「薬剤師配置」をどう評価していくかも論点に上がっています。
特定集中治療室管理料を届け出るためには、「特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要」(看護必要度)のA項目が3点以上で、かつ同B項目が3点以上の患者(重症患者)が常に入院患者の8割以上(特定集中治療室管理料1では9割以上)であることが施設基準で定められています。
処置などの状況を見るA項目には、▽心電図モニター▽輸液ポンプの使用▽動脈圧測定(動脈ライン)▽シリンジポンプの使用▽人工呼吸器の装着▽特殊な治療など(補助人工心臓やICP測定など)―などの9項目があり、このうち3項目に該当すれば「A項目3点」を満たすことができます。
一方、主にADLを見るB項目には、▽寝返り▽起き上がり▽座位保持▽食事摂取▽衣服の着脱―など7項目があり、ここから3点を満たす必要があります。入院分科会では「B項目を一般病棟、ICU、HCUで統一してはどうか」との中間まとめが行われています(関連記事はこちら)。
しかし、厚生労働省の調査結果からは、現在看護必要度にはいくつかの問題があることが浮かび上がってきました。
まず、問題点の1つは「A項目3点の患者」のほうが、「A項目2点以下の患者」よりも、医師による指示の見直しの頻度や看護師による看護提供の頻度が少なく、状態が安定しているという点です。理論上は「A項目3点の患者」のほうが重症なため、本来であれば、これらの頻度は「A項目3点の患者」のほうが高くなるはずですが、逆転現象が起きています。
問題点の2つ目は、「A項目3点の患者」のほうが、「A項目2点以下の患者」よりもDPCの包括範囲出来高点数が低い患者の割合が高いことです。これも上記と同様に逆転現象が起きています。
問題点の3つ目は、A項目のうち「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」のみで重症度、医療・看護必要度A項目3点を満たしている患者が5割以上もいる病院が一部にあることです。この3項目のみの患者が必ずしも軽症であるわけではありませんが、状態が安定し、資源投入量も小さくなっています。7割以上の病院ではこの患者割合が20%以下であることから、極端に割合が高い病院には何らかの問題がある可能性があります。
こうした状況を踏まえ、厚労省は「看護必要度の基準を満たすための条件」見直しを論点の1つに掲げています。
では、どのような見直しが考えられるのでしょう。
厚労省の分析では「心電図モニター」と「輸液ポンプ」との間には高い相関関係があることが分かっています。そこで、武井純子委員(社会医療法人財団慈泉会本部 相澤東病院開設準備室室長)は「心電図モニターと輸液ポンプとの集約化や、重み付け(例えば点数を現在の1点から0.5点に引き下げる)の変更」を提案しました。
安藤文英委員(医療法人西福岡病院理事長)も武井委員と同様に、「心電図モニターと輸液ポンプの統合」をしてはどうかと述べています。
具体的な見直し方向について、厚労省保険局医療課の担当者は「さまざまな意見をいただいた」と述べるにとどめており、詳細は中央社会保険医療協議会の議論に委ねる考えです。
前述のように「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」のみで重症度、医療・看護必要度A項目3点を満たしている患者割合が極端に多い状態は好ましいとは言えず。厚労省はこうした点を是正するという視点に立って、具体的な見直し内容を検討すると考えられます。
なお、筒井孝子委員(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)は「ICUでは心電図モニターと輸液ポンプの該当割合が9割以上で、『分布が最大値に偏り変数の効果が検出できなくなる』天井効果が生じている可能性がある。ハイケアユニット(HCU)でも同様で、こちらも見直す必要がある」と要望しました。しかし、厚労省保険局医療課の担当者は「検討する」と述べるにとどめています。
特定集中治療室管理料を届け出るためには、▽ICU経験5年以上の医師▽看護師▽専任の臨床工学技士―などの配置が必要となります。
ところで約半数
の特定集中治療室では、施設基準に定められていない「薬剤師」の配置を行っています。特定集中治療室に薬剤師を配置すると、▽医師・看護師の業務負担が軽減される▽副作用の回避や病床安定化に寄与する▽薬剤関連インシデントが減少する▽可避的な副作用の発生が減少する―といった効果があると考えられます。
このため、厚労省は「特定集中治療室に薬剤師を配置した場合の評価」を検討テーマの1つに掲げました。
薬剤師配置を診療報酬で評価する手法として、例えば(1)施設基準で薬剤師配置を規定し、点数を引き上げる(2)薬剤師を配置した場合の加算を設定する―ことなどが考えられます。
この点について、神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長)や池田俊也委員(国際医療福祉大学薬学部薬学科教授)、石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長)らは、後者の(2)の手法を用いて「薬剤師が特定集中治療室の業務どれだけ濃くかかわっているか」を評価するべきとの考えを述べました。
現在、薬剤師による病棟業務を評価する加算として「A244 病棟薬剤業務実施加算」がありますが、特定集中治療管理室管理料など特定入院料の届出病床では算定できません。この加算の算定対象を広げることなどが考えられそうです。
なお池端幸彦委員(医療法人池慶会理事長・池端病院院長)は、これに関連して「療養病棟などにおける病棟薬剤業務実施加算の算定可能期間を延長してほしい(現在は8週間まで)」と要望しています。