看護必要度、A項目に「無菌治療室での治療」を追加か―入院医療分科会
2015.8.5.(水)
一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)のA項目に「無菌治療室での治療」を追加する案が浮上してきました。5日に開かれた診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」に、厚生労働省が論点の1つに盛り込んでいます。
さらに、看護職員以外の実施した処置なども看護必要度の中で評価する方向や、10対1病棟でもDPCデータの提出を義務化する方針なども示されました。
現在、7対1病棟では看護必要度のA項目が2点以上、かつB項目が3点以上の患者(以下、重症患者)を常に15%以上入院していなければいけません。急性期医療を担うことが期待されている7対1病棟では、重症患者を一定程度受け入れることが求められるためです。
しかし厚労省の調査では、▽開胸手術直後でも重症基準を満たす患者は50%程度で、術後3日目には25%を下回る▽全身麻酔手術を多く実施している医療機関の方が、少ない医療機関よりも重症基準を満たす患者の割合が低い▽救急搬送患者のうち、重症基準を満たす患者は最大でも30%程度―ことなどが明らかになりました。
ここから「現在の看護必要度では、明らかに重症と考えられる患者が十分に評価されていない」可能性が導かれ、厚労省は看護必要度の項目を見直すべきではないかと考えています。
7月16日の分科会では、厚労省から具体的な見直し案は示されませんでしたが、この日は「無菌治療室管理加算を算定している場合など」をA項目に追加してはどうかとの論点が提示されています。これは7対1病棟において、ある診療報酬項目を算定した患者のうち60%以上が「医師による指示の見直し頻度が1日1回以上必要」である項目をピックアップした中から浮上してきたものです。
無菌治療室治療の対象患者は、例えば白血病で骨髄移植を受けたり、多量の抗がん剤投与を受けるなどして、免疫力が極めて低下した人です。厚労省保険局医療課の担当者は、「抗がん剤の投与をした当日は、看護必要度のA項目に該当するとカウントされるが、無菌治療室に入り、抗がん剤投与を一時的にストップして感染症管理を行っている場合にはカウントされない」と述べ、この点の不合理を是正する必要性を指摘しました。
この追加案には神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長)や嶋森好子委員(慶應義塾大学元教授)らから「血液疾患の患者を重症患者にカウントするもので好ましい」と賛成意見が出ています。
また神野委員は「ICUやHCUで評価されている中心静脈圧測定や観血的動脈圧測定も評価対象に加えるべき」と主張しており、今後、中央社会保険医療協議会で行われる項目追加論議の結果が待たれます。
ところで、「医師による指示の見直し頻度が1日1回以上必要」な患者には、「手術直後の患者」(麻酔管理料や閉鎖循環式全身麻酔などの算定患者)や、「救急搬送直後の患者」(夜間休日救急搬送医学管理料などの算定患者)なども含まれます。これらは7月16日の分科会で藤森研司委員((東北大学大学院医学系研究科・医学部医療管理学分野教授)から「A項目追加が望ましい」と提案されたものと合致します。
ただしこの点について嶋森委員は「手術直後であるから重症者であると評価するのは短絡的ではないか」と指摘しました。
嶋森委員は、現場のナースにヒアリングをしたところ「開胸手術後はICUなどで管理を行い、状態が落ち着いてから7対1病棟に来る患者も多い。開胸手術後の重症患者が50%という数字は妥当なものである」との答えが返ってきたことを紹介。その上で「どのような手術を行ったのか、どのような麻酔を行ったのかなど、細かく見ていく必要がある」と提案しています。
なお、神野委員は「現場の負担を考慮すると、A項目に『せん妄』を追加すべきではないか」と提案していました。これを踏まえて厚労省が分析をしたところ、「『せん妄』の有無は、B項目に追加予定の『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』と強い関係がある」ことが分かったため、看護必要度項目への追加は見送られそうです。
また厚労省は、「看護必要度の評価の対象となる処置などの実施者」を、看護職員以外の薬剤師やセラピストなどにも広げてはどうかとも提案しています。
現在、看護必要度の評価対象は、看護職員が実施した「専門的な治療・処置」や「口腔清潔」などに限られていますが、例えば、薬剤師が薬剤使用に関する指導などを行った場合も評価対象とするものです。
この提案に明確な反対意見は出ていませんが、嶋森委員は、病棟間で判断がずれないように研修などを実施する必要があると注文を付けました。
分科会では「看護必要度の記録を付ける看護師の負担が大きい」とし、DPCデータなどから把握できるような仕組みを構築すべきとの指摘が数多く出ています。
現在、DPC対象病院・準備病院のほかに、7 対1入院基本料と地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料を含む)を届け出ている病院ではDPCデータの提出が義務付けられています。しかし、その他の病院ではDPCデータは任意提出であるため、網羅的なデータ収集は不可能な状況です。
この点について藤森委員や本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は「段階的に10対1入院基本料の届け出病院でもDPCデータの提出を義務化してはどうか」と提案しましたが、石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長)は「DPCデータの作成体制を敷くだけでも大変である」と慎重姿勢を見せています。
7月16日と、この日の分科会の議論をまとめると、看護必要度については現在、次のような見直し方向が固まっており、2016年度の次期改定で大きな変化が生じそうです。
(1)A項目に「開胸・開腹手術後2-3日であること」「無菌治療室での治療」などを追加する
(2)重症患者を「A項目2点以上かつB項目3点以上」に加えて、「A項目が一定以上(例えば3点)」(B項目は不問)とする
(3)B項目から「起き上がり」「座位保持」を除くと同時に、新たに「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」を追加し、さらにICU・HCU・一般病棟でB項目を追加する(重症患者の基準点数は、例えば一般病棟3点以上、HCU4点以上、ICU3点以上などとする)
(4)評価対象に「薬剤師の行う薬剤使用に関する指導」や「歯科衛生士の行う口腔内清潔に関する評価」などを加える
このうち(1)と(2)では、重症と評価される患者の数が増えることになるので、現在の「重症患者が15%以上」という基準が引き上げられる見込みです。しかし安藤文英委員(医療法人西福岡病院理事長)は「A項目は外科領域に偏るなど開発途上である。これを前提に15%の基準を引き上げるのは危険である」と訴えています。
なお、嶋森委員らは「どの病棟にどのような状態の患者が入院しているかを把握するために、全病棟で看護必要度の基準を統一すべき」と再度提案しましたが、厚労省保険局医療課の担当者は「看護必要度の見直しに当たっては、病棟ごとに期待される役割(どのような医療を行うべきか)も勘案しなければならない」との考えを説明し、理解を求めました。
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