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購買費の削減効果、米国は年間4.5兆円―コスト削減の切り札「GPO」(1)

2015.10.9.(金)

 病院が大量購入する医療材料や薬剤。それらを米国では複数の病院で共同購買し、病院単独の購買より大幅なコスト削減を実現していることをご存じですか。その削減効果は、年間約4.5兆円(378.4億ドル※1ドルは120円換算)と推定されています。

 「医療GPO(Group Purchasing Organization=共同購買組織)」と呼ばれる莫大な額のコスト削減を実現するための仕組みは、米国では病院にとって必須の、なくてはならない存在として定着しています。本連載では、病院のコスト削減の切り札と言えるGPOを知るための基本的な知識や、米国GPO市場の現状と役割などを解説します。

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「規模の経済」生かした手法

 2009年4月に発表された共同購買の効果について調査した論文「The Value of Group Purchasing – 2009:Meeting the Needs for Strategic Savings」(Eugene S.Schneller博士)によると、共同購買による直接的なコスト削減額は全米ベースで年間約4兆3200億円(360億ドル)。コスト削減額の内訳は、医薬品が約8160億円(68億ドル)、手術機材や循環器科・整形外科関連の医療材料・機器が約1兆3488億円(112.4億ドル)、その他(医療機器その他、コンピュータ、食品など)が約2兆1600億円(180億ドル)などとなっています。

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 さらに、GPOを利用することによる人件費の削減額が約2160億円(18億ドル)あります。つまり、計4兆5408億円程度が、GPOの利用でコスト削減されていると、この論文では報告されています。

 この論文の数値は推定額で、6年前に発表されたため、GPOによる最新のコスト削減額と乖離(かいり)があると思われます。しかし、GPOが莫大な規模のコスト削減効果が期待できる手法であることは間違いないでしょう。

 医療GPOは、病院などの医療関連事業者らが共同購買組織を設立し、それを母体にメーカーとの価格交渉を行います。共同購買という形を取ることでスケールメリットを生かし、交渉を有利に進め、その結果としてコスト削減を図ることが目的です。対象となるのは、医薬品、医療材料・機器、事務用品など、病院で利用する不動産以外のすべての物品です。

国内でも注目される背景に病院大再編時代

 規模の経済を生かした手法なので、一般の流通における「規模の経済」と同じように、確実に安く購買できます。米国のGPO協会である「Healthcare Supply Chain Association」によると、全米の病院の96―98%程度がGPOを活用しています。また、全病院が購入する医薬品や医療材料・機器などの約72%は、GPOを通じて購入しているとされます。

 米国では病院の物品購入にもスケールメリットを生かす手法として当然のように定着していますが、GPOはこれまで、日本では一般的ではありませんでした。米国でGPOが普及した大きな要因の1つに、「DRG」(1入院当たりの包括報酬支払制度)の導入があります。日本では現在、DPC(入院1日当たりの包括報酬支払制度)が導入されていますが、1入院当たりで報酬が決まる米国に比べ、1日当たりで報酬が決まる日本は、米国ほどシビアなコスト意識が要求されない環境だと言えます。

 ただ、日本でも「地域医療構想」をベースに病院大再編時代が到来すると予想されています。17年4月から消費税が10%に増税されることで「損税(控除対象外消費税)」が拡大すれば、医療機関の経営に大きな影響を及ぼします。こうした中、コスト削減意欲が高まり、米国流のGPOが日本の医療界でも注目されるようになってきました。病院の機能分化、連携、再編という流れの中で、共同購買によるコスト削減は最も成果を出しやすく、成果は「○○円削減」などと数字で示すことができるため分かりやすく、再編を促進する1つの切り口としても注目されています(関連記事『結果を出しやる気も高める「本気のコスト削減」7つのステップ』)。

 米国では、GPOを利用する組織として病院ネットワークである「IDS」(Integrated Delivery System:統合型医療提供システム)の存在が目立ちます。IDSには、複数の病院の完全統合から、複数の病院が一部で協力し合う緩やかな連携までさまざまな形態があります(関連記事『手掛けた病院統合は50件、米国のプロが語る日本の病院大再編の未来』)。日本よりもシビアなコスト意識を持たざるを得ない米国では、病院同士の連携や統合は驚くほど進んでおり、こうしたつながりを一層強化するツールとして、GPOは存在しています。

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 病院の機能分化、連携、再編が進む日本の医療界。地域の医療提供体制がどのように変化するかが注目される一方で、莫大な額の医療関連コストを削減する可能性を秘めるGPOがどのような影響を与えるのかも、今後の医療界を左右する大きなポイントだと言えそうです。

※GHCは11月7日、米メイヨークリニックの購買責任者と5大GPOの経営幹部を招いたコスト削減セミナーを開催します。厚生労働省の技術総括審議官も登壇します。ぜひ、以下の開催概要をご確認ください。

GPOで医療材料費を最適化せよ―米国の現状と日本での展望

連載◆コスト削減の切り札「GPO」
(1)購買費の削減効果、米国は年間4.5兆円
(2)実は100年の歴史、日本で普及しないわけ(予定)

解説を担当したコンサルタント 本橋 大樹(もとはし・だいき)

motohashi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
米国ウィスコンシン大学経済学部卒業。外資系医療機器会社、医療系コンサルティング会社を経て、入社。医療データサイエンティストの育成や病床機能分化の実行支援、医療材料や委託コストの削減などコスト削減ソリューション全般を得意とする。足利赤十字病院(事例紹介はこちら)、津島市民病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、コスト削減に関する社内の新規プロジェクトチームのリーダーを務める。
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