地域がん拠点病院や小児がん拠点病院、診療報酬で評価する方向固まる―中医協総会
2015.10.21.(水)
2016年度の次期診療報酬改定では、がん対策を充実させるため「地域がん診療病院」や「小児がん拠点病院」を診療報酬で評価することや、がん性疼痛緩和指導を「緩和ケア研修を受けた医師が実施した場合」のみに限定することなど検討してはどうか―。このような論点が、21日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会に厚生労働省から提出されました。
がん対策推進協議会では、第2期のがん診療推進基本計画の中間評価を行い、そこでは「がんにかかる年齢調整死亡率減少の目標値を達成できない」可能性が極めて高いことが明らかになっており(関連記事はこちら)、がん対策の充実は次期改定でも重要テーマの1つなることでしょう。
「居住地域に関わらず、質の高いがん医療を受けられる」(がん医療の均てん化)を目指して、01年から「がん診療連携拠点病院」の整備が進められていますが、拠点病院のない二次医療圏(空白医療圏)も存在します。このため厚労省は、拠点病院の要件を一部緩和した「地域がん診療病院」などを新設しました。これにより空白医療圏は104か所(15年3月1日時点)から84か所(同年4月1日時点)に減少しました。
また、小児がんの症例を集積し、効果的な研究・治療を行うために、全国に15の「小児がん拠点病院」が整備されています。
「地域がん診療病院」と「小児がん拠点病院」については、DPCの機能評価係数II(地域医療指数の体制評価)の中では評価されていますが、診療報酬上の評価はありません。この点、拠点病院に準じた診療報酬を設定することで経済的なサポートが得られ、さらなる地域がん診療病院などの整備が進み、空白医療圏が減少すると期待できます。
そこで厚労省は今般、「地域がん診療病院」と「小児がん拠点病院」の体制を評価してはどうかと提案しているものです。診療・支払双方の委員とも、この提案を歓迎しています。
なお、拠点病院については「原則として二次医療圏に1か所程度」を目安に整備が進められていますが、診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は「空白医療圏は人口の少ない地域が多い。すべての二次医療圏に整備すべきだろうか」との問題意識を表明しました。
これに対し、厚労省健康局がん・疾病対策課の佐々木健課長は「空白医療圏について拠点病院を整備するのか、他医療機関との連携によって対応するのかという課題だ。地域の状況を勘案しながら検討する」と述べ、機械的な対応はしない考えを明らかにしています。
がん医療については、予防や治療法の研究などと合わせて「緩和ケアの推進」も重要テーマの1つとなっています。
諸外国の研究によれば、「早期から専門的な緩和ケアチームが関わることで、患者のQOLのみならず、生命予後も改善する」ことが分かっています。そこで、診療報酬でも緩和ケアの推進に資する取り組みを評価しており、16年度の次期改定でも次のような対応を取ることが厚労省から提案されました。
(1)「がん性疼痛緩和指導管理料」を、緩和ケア研修を受けた医師が実施する場合のみ算定できることとする
(2)終末期に近いがん患者について、「外来から在宅への連携」を評価する
(3)緩和ケア病棟における「地域連携の取り組み」などを評価するとともに、「短期間の入院」をより高く評価する
(1)の「がん性疼痛緩和指導管理料」は、現在▽緩和ケア研修を受けた医師が指導管理を行った場合(管理料1:200点)▽それ以外の場合(管理料2:100点)―に区分されています。この点、わが国のがん対策のベースとなるがん対策推進基本計画では「17年6月までにすべての医療従事者に緩和ケア研修を実施する」という目標を掲げ、研修修了者が増加していることから、より質の高い緩和ケアの実施を目指し、管理料2を廃止してはどうかと提案されているのです。
しかし、14年度の社会医療診療行為別調査によれば、14年6月に管理料1は1万8763件、管理料2も1万157件算定されています。こうした状況を受け、診療・支払双方ともに「すぐに管理料2を廃止すべきではない」と指摘。厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長も経過措置の設定に理解を示しています。
化学療法の外来化が進む中で、抗がん剤治療を諦め、在宅で終末期医療を受けるケースもあります。がん患者では終末期に移行してから、死亡するまでの期間が短いことが知られていますが、外来治療から在宅緩和ケアへの移行が円滑に進まなければ、人生の最終段階を安らかに過ごすことが難しくなります。
そこで厚労省は(2)のように「外来から在宅への連携」を評価することを提案しているのです。
また(3)は、在宅で緩和ケアを受ける患者が急変した場合などの後方病床として緩和ケア病棟を活用することを評価することが狙いです。終末期のがん患者についても「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現することが期待されます。
これらの厚労省提案に対し、診療・支払双方が賛成しており、今後、具体的な制度設計が厚労省内部で進められます。
また、効果的な抗がん剤の開発を目指し、医師主導治験における治験医師・医療機関の負担を軽減するために、「同種同効薬の投薬・注射の費用を保険外併用療養費の支給対象とする」方向も21日の中医協総会で了承されました。
医師主導治験においては、現在、「治験薬」と「同種同効薬」について治験実施者(つまり医師や医療機関)がその費用を負担しています。
しかし、抗がん剤などの治験では、複数の同種同効薬を同時に投与・注射することが多く、これが治験実施者に重い負担になっているとの指摘があります。
そこで、この負担を軽減するために「同種同効薬」を保険外併用療養費の支給対象とすることを厚労省が提案しました。この提案にも異論は出ていません。