費用対効果評価、試行段階では社会的影響を評価する特別ルールは定めず―費用対効果評価専門部会
2015.10.29.(木)
2016年度の次期診療報酬改定において試行導入される「費用対効果評価」では、倫理的・社会的影響などに関する視点での評価は、特別のルールを定めず、個別技術ごとに考えていく―。このような方針が、28日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会に報告されました。
医療保険財政が厳しさを増す中で、医療技術(医薬品、医療機器を含む)の価格を「効果」に基づいて設定する仕組みが注目されています。中医協では「新規技術の保険収載の可否や値決めについて、費用対効果を評価する」手法を、2016年度の次期診療報酬改定から試行導入することを決めました。
現在、具体的な制度設計に関する議論が進んでおり、8月26日の専門部会では中間報告を取りまとめ、「保険収載後一定期間の経った医薬品や医療機器を対象とし、評価結果に基づく再算定を行う」など制度の大枠が固められています(中間報告、関連記事はこちら)。ただし、次の6項目については、「更に議論が必要である」とされ、15年内に検討を重ねていきます。
(1)選定基準の具体的な要件
(2)試行的導入において用いるガイドライン
(3)費用対効果評価専門組織(仮称)の構成員
(4)アプレイザルにおいて考慮すべき要素
(5)費用対効果評価に基づく再算定の具体的な方法
(6)新規収載時に求めるデータ提出に係る取り組み
28日の専門部会では、(3)「費用対効果評価専門組織(仮称)の構成員」と(4)「アプレイザルにおいて考慮すべき要素」の2項目が議題となりました。
ここで、費用対効果評価の流れを確認しておくと、次のように整理できます。
(A)費用対効果評価の対象品目の選定基準を設定し、これに基づいて対象品目を選定する
↓
(B)企業(製薬メーカーや医療機器メーカー)が、対象品目に関する費用と効果のデータを提出する
↓
(C)提出データについて、公的な専門家で構成されるグループ(再分析グループ)が費用と効果の再分析を行う
↓
(D)中医協に設置される費用対効果評価専門組織(仮称)において、科学的、倫理的な妥当性や社会的影響などに関する総合的な評価(アプレイザル)を行う
↓
(E)費用対効果評価結果を踏まえて、医薬品や医療機器の保険償還価格などに反映させる
(1)は、(D)にある「費用対効果評価専門組織」の委員構成や審議などをどう考えるべきかという問題です。
厚労省は、諸外国の事例も参考して、▽委員構成は「医療関係者」「保険者・患者関係者」「経済学などに関する有識者」とする▽審議は非公開とする―ことを提案しました。
この提案に特段の反対意見は出ていませんが、「中医協委員の一部を専門組織に加えるべき」(鈴木邦彦委員:日本医師会常任理事)、「薬価算定組織や保険医療材料専門組織との関係を整理しておくべき」(白川修二委員:健康保険組合連合会副会長)といった注文が付きました。なお、この専門組織では、後の述べるように「倫理的・社会的視点からの検討」も行われるので、その方面の専門家も委員に加わる見込みです。
(2)は、やはり(D)にある「総合的な評価(アプレイザル)」をどのように行うべきかという問題です。
総合的な評価(アプレイザル)では、▽企業などが行った費用対効果評価の分析結果(BとC)に対する科学的な視点からの検証▽倫理的・社会的影響などに関する視点からの検証―という2つの側面からの検討が行われます。
前者の「科学的な視点からの検証」により、例えば「データが不足しており、標準的な手法による分析では不十分である」「分析手法の選択が好ましくない」と判断されるケースも出てくるでしょう。この場合、企業などに差し戻しを行い、改めて分析しなおす必要がありますが、「明らかにデータが不足しているケース」や「分析手法の選択が難しいケース」では、「専門組織に事前に相談する」ことができれば効率的です。
諸外国でも事前相談制度が設けられていることから、厚労省は「必要に応じて、分析手法などについてあらかじめ費用対効果評価専門組織の合意を得た上で、分析を開始する」というルール設定を提案。委員もこれを了承しました。
後者の「倫理的・社会的影響に関する視点からの検証」とは、例えば「疾患の重症度(重症な疾患を治療する技術は、優先的に保険収載すべき)」、「保険財政全般への影響(保険財政が厳しい中では、あまりに高額な医療技術の保険収載は困難)」などといった事項を考慮することを意味します。
費用と効果だけを勘案すると、必ずしも費用対効果が優れていない医療技術であったとしても、「治療が極めて困難であった疾患に大きな効果がある」場合には保険収載を優先的に考える必要があるでしょう。
また相対的に費用対効果が優れた医療技術であっても、あまりに高額な場合には「償還価格の引き下げ」を勧告する必要も出てきそうです。
ただし、こうした「倫理的・社会的影響」に関する項目は多岐にわたるため、厚労省は「ルール化できる共通項目をあらかじめ明らかにすることは難しい」と判断。今後、事例を蓄積しながら検討していくことになりました。
したがって16年度からの試行的導入では、個別技術ごとに「社会的な影響を評価するために、●●の項目を勘案してはどうか」という具合に評価を進めることになりそうです。
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