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相澤病院の3つの“失敗”(上)理想の追求か、安定経営か

2015.11.4.(水)

 民間病院として地域医療支援病院の承認をいち早く受け、陽子線治療などの高度で先進的な医療提供に向けた施設を積極的に整備してきた相澤病院。今や急性期病院のお手本のような存在だが、そんな相澤病院にとってもこの時代の病院運営は容易ではない。理想の医療を追求すべきか、それとも安定的な経営を優先すべきか? 相澤病院を運営する社会医療法人財団慈泉会の相澤孝夫理事長が、これまでの3つの“失敗”を語った。

急性期病院のお手本のような相澤病院にとっても、この時代のかじ取りは試行錯誤の連続のようだ。相澤理事長が語る3つの“失敗”とは?

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■地域ニーズに応えるほど経営は不利に

 相澤病院を運営する上で、近年、とても大きなジレンマに陥っています。わたしたちはこれまで急性期病院としての機能を積極的に高めてきましたが、地域医療の観点からは、高度な医療を提供するだけでなく、困ったときにいつでも診察してくれる病院が1つは絶対に必要です。

 例えば開業医の立場からは、在宅療養中の患者さんの容態が急変して入院が必要だと判断した際、受け入れを断られない病院があるかないで事情は大きく変わってきます。相澤病院が地域医療支援病院としての体制を整備するまで、この地域の開業医たちは幾つもの病院に受け入れを断られながらなんとか乗り越えてきました。

 わたしたちはそれを知っているので、救急車の受け入れ要請やほかの医療機関からの紹介はすべて受け入れると、相澤病院のビジョンに掲げてきました。そういうスタンスだからこそ、現在は軽症から重症のさまざまな患者さんを受け入れています。地域医療に貢献できているのはとてもうれしいことですが、こうして受け入れる患者さんの大半は誤嚥性肺炎などで、相澤病院の「重症度、医療・看護必要度」や「診療密度」はどんどん下がります。これではDPC病院II群を目指したくても実現できない。

 しかも、こうした患者さんは入院が長引くケースが非常に多く、平均在院日数は延びる一方です。DPC対象病院の1日当たりの診療報酬は入院が長引くと減るため、相澤病院ではものすごく多忙なわりに思うように収入を確保できていません。

 要するに現在の診療報酬体系は、重症者の受け入れを単純に増やすほど経営的に有利な構造だということです。地域ニーズに応えようと多様な症例を受け入れるほど、経営は逆に苦しくなってしまう。

 「われわれは重症患者しか診ない」と地域の中で宣言してしまえばこうしたことにはならないし、大病院の中には、重症者のみに受け入れを絞るケースも実際にあります。そうすると経営的には潤うでしょうが、地域医療のためにはならないでしょう。

 国とわたしたちのスタンスのどちらが間違っているのかは分かりませんが、少なくとも現在の仕組みは、地域の要請からは明らかに懸け離れている。それではわたしたちは、理想の追求と経営の安定のバランスをどう取るべきか―。完全なジレンマです。

■相澤病院の機能を一部分離、「在宅療養支援病院」新設へ

 相澤病院の敷地内では現在、16年2月の開院に向けて「相澤東病院」(42床)の建設工事が進んでいます。新病院は、急性期の治療を終えた患者さんの在宅復帰を支援する「在宅療養支援病院」という位置付けで、ご高齢で軽症の救急患者さんもこちらで受け入れます。

 相澤病院のビジョンでは、「ER方式を取る救命救急センターとして、24時間365日すべての救急患者を受け入れる」と謳ってきました。これは1996年ごろのものがベースで、マイナーチェンジはしても基本的なスタンスは変えていませんでした。

 地域ニーズと経営のギャップは当時から感じていましたが、かつてはそれほど大きくはなかった。しかしその後、いろいろな病院の形態が国によってつくられ、それぞれに報酬が付けられました。その上最近では「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」といった医療法上のキーワードや、「地域包括ケア病棟」という診療報酬上の概念も出てきて、一体何がどうなるっているのか、全然分からない。こうした混乱が大きくなるにつれて地域の医療ニーズに応えることが難しくなっている印象で、工夫するのがこれまで以上に大変になりそうです。

 こうした中でわたしたちは2015年4月、慈泉会と相澤病院のビジョンの改定に踏み切りました。すべての患者を受け入れる方針は、慈泉会全体としては維持しますが、相澤病院のビジョンには「ERの初期救急医療から救急病棟・集中治療病棟まで」と、受け入れ範囲を書き込みました。さらに、急性期機能の向上のみを掲げてきた従来のスタンスを見直して、回復期リハビリテーションを充実させる方針も加えました。

 「在宅療養支援病院」を新しく造るのは、相澤病院の代わりに軽症の患者さんをカバーしたり、相澤病院での治療を終えた患者さんを受け入れたりする後方支援病院が近くにないので、一部の機能を切り離して自前で用意しようということです。こうでもしなければ地域ニーズに応えながら経営を安定させるのは難しいという危機感からですが、これには建物だけで億単位の投資を伴います。人手も今以上に必要で、その上、うまく運営できるかどうかは開院してみないと分かりません。

 言ってみれば、国のスタンスとのギャップを放置してきたために新たな投資と大きなリスクを背負い込むわけで、経営的に大失敗です。ほかの病院のようにもっとうまい戦略を最初から採用していたら、こんなことにはならなかったのにと反省しています。本当は、それもちょっと違うような気もしますけど。

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