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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

相澤病院の3つの“失敗”(下)急性期リハビリの線引きどこに?

2015.11.5.(木)

 急性期リハビリテーションの概念を読み誤ったのも大きな失敗でした。「急性期と回復期のリハビリをどこで線引きすべきか」は多くの医療関係者にとって永遠のテーマのようになっていて、誰に質問しても明確な答えは返ってきません。

 わたしたちは、手術や救急搬送後にできるだけ早く高密度なリハビリを提供して、相澤病院からできるだけ直接、在宅に帰すのが理想だと一生懸命取り組んできました。ほかの病院の回復期リハビリ病棟を経て在宅に帰るよりも、相澤病院で手厚いリハビリを提供する方がトータルでの入院期間は短くて済むことが、データ分析で分かっていたためです。

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 1日も早く在宅復帰していただこうと、相澤病院ではほかの回復期リハビリ病院を上回る体制で土日や休日も毎日リハビリを提供していますが、現在の診療報酬体系は「急性期病院にそこまでのリハビリは必要ない」と言わんばかりです。診断群分類ごとに決められた1日当たりの診療報酬は、入院が長引くとどんどん下がる。リハビリの報酬は1日当たりの点数に包括されませんが、入院を受け入れているといろいろなコストが掛かるので、入院期間III以降は間違いなく「赤字期間」です。

 トータルでの入院期間など気にせず、回復期リハビリ病棟を造ってそちらに患者さんを移した方が明らかに有利です。わたしたちはかつて、こうしたやり方を批判してきましたが、現実には急性期病棟で入院期間IIIにリハビリを提供していても診療報酬上は全く評価されません。それどころか、「急性期病院失格」の烙印を押されて、急性期病棟に点数が付かなくなりかねない。

■目指すは“人生を豊かにする”生活期リハ

 そのため相澤病院では、従来の方針をやむなく転換して、14年6月に急性期の1病棟を回復期リハビリ病棟(15年10月現在50床)に切り替えました。

 点数設定の高い「回復期リハビリテーション病棟入院料1」を算定できれば、急性期病棟で入院期間IIIにリハビリを提供するのに比べて収入が増えてコストは減るので、明らかに増益です。ただ、入院料1を算定するには入院料3、2と段階を踏んでそれぞれ6か月間の実績を踏む必要があるので、ここにたどり着くまでにはまだ1年以上かかります。

 国のスタンスに疑問もありますが、医療を提供していくには経営を安定させなければなりません。国が正しいかどうかはともかく、少なくともわたしたちのそれまでの判断が甘かったと、もっと早くに気付くべきでした。

 介護保険サービスを含む生活期のリハビリをどうとらえるかも非常に悩ましい課題です。従来は運動機能や生活機能の維持・向上のみを重視していましたが、今ではもっと広く、いわば豊かな人生を送るための社会的機能を高めることが大切だと感じています。高齢者がいろんな場所でいろんな人と話したり、散歩や旅行に出掛けたりすることも重要な社会的機能でしょう。運動機能だけでなく、こうした機能も高めるのが生活期のリハビリだという考え方で、これに沿って慈泉会全体の体制を見直しています。

 高齢者の社会参加の機会を増やしてリハビリにつなげるのなら、高齢者を自宅から外に引っ張り出すための仕掛けが不可欠です。これまでは、高齢者の運動機能を高めようと訪問リハビリをどんどん提供してきましたが、これだと高齢者はどうしても自宅に引きこもって、訪問してくるスタッフにすっかり依存してしまう。スタッフが訪問するのを自宅でただ待っていて、スタッフが帰るとまた引きこもってしまい、結局、運動機能の維持・向上もままなりません。

 そうではなく、より良い人生を送ろうと夢を持つためには、高齢者はご自宅に閉じこもっていたら駄目なんです。これこそが、生活期のリハビリを提供する上でわれわれにこれまで欠けていた考え方です。デイサービスに専門家を配置してきちんとリハビリを提供していけば、運動能力と生活能力を高められるだけでなく、高齢者の人生まで豊かにできる。そのことが、これまでの実践を通じてだんだん見えてきました。

 こんなことはわれわれが昔からずっとやってきたことですが、きちんとした仕組みにはなっていませんでした。介護現場には、ともすればデイサービスはリハビリではなくレクリエーションという考え方があるようですが、楽しむことを前面に押し出すと運動機能を高めるリハビリの役割がおろそかになってしまう。運動機能や生活機能を高めることと、高齢者に生きがいを提供することは本来、つながっていて、どちらかをおろそかにしたら結局、どちらも達成できません。

 「デイサービスにリハビリの専門職を配置するなんてもったいない」などと言われますけど、わたしたちは、これら2つの役割を一連のものとして専門職が見る体制にシフトしつつあります。

■医療、介護の垣根を超えてこその“総合確保”

 国は最近、「医療介護総合確保」というキーワードを盛んに使います。医療と介護の関係者が、保険制度の垣根を超えて協力することこそが総合確保のカギだと思いますが、そこはまだまだうまくいっていません。介護現場では医療関係者の介入をすごく嫌がりますし、医療現場ではレクリエーション的な取り組みを重視してきませんでした。

 わたしたちはこれまで、国の方針を理解しないまま地域ニーズに応えようとして新たな投資とリスクを背負い、さらに急性期リハビリテーションの概念を読み誤りました。それだけでなく、生活期リハビリの役割を果たしながら収入を確保するための工夫を怠って、これまで訪問リハビリに一生懸命に取り組んできた。それで「なかなか成果が上がらない」と頭を悩ませてきたのが現実です。昔は当然のように理解していた生活期リハの神髄を忘れたのが3つ目の失敗です。

 わたしたちの目指す生活期リハビリに評価が追い付くかどうかも大切ですが、国は成果に対して評価を付けるのですから、まずは地道に成果を出し続けなければなりません。とはいえ経営は継続させなければいけないので、理想の追求との狭間にまた立たされるんでしょう。

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