臨床研究中核病院を機能評価係数IIで評価する厚労省案、一部委員は猛反発―DPC評価分科会
2015.11.16.(月)
医療法上の臨床研究中核病院について、高機能であることが担保されているので、DPCの機能評価係数II「地域医療指数」で評価してはどうか―。こういった提案が、16日に開かれた診療報酬調査専門組織のDPC評価分科会で、厚生労働省から提案されました。
これは臨床研究中核病院には「革新的な医薬品・医療機器を安全に使用できる体制が整っている」「日常診療においてもエビデンスに基づいた診療が行われる」など、質の高い保険診療を行う体制が整備されていることを根拠にした提案です。
しかし、一部委員は「臨床研究中核病院と優れた診療とのエビデンスが示されていない」「治験をはじめとする臨床研究の多くの症例は、実際には協力病院で扱われている」という理由を挙げ、厚労省案に強く反対しました。
2016年度の次期診療報酬改定でこうした評価が導入されるのか、調整が続けられます。
16日のDPC分科会では、「II群の実績要件に、内保連(内科系学会社会保険連合)の提唱する『特定内科診療』の診療実績を追加する」ことや、「後発医薬品指数における後発品シェアの上限値を70%に引き上げる」「EF統合ファイルに『重症度、医療・看護必要度』の生データを記載する」などの検討結果を盛り込んだ「中間とりまとめ」を行いました。
詳細は別途お伝えすることとし、今回は、「機能評価係数IIで臨床研究中核病院を評価すべきか」というテーマに焦点を合わせたいと思います。
臨床研究中核病院は、革新的医薬品・医療機器の開発を推進するために「国際水準の臨床研究」などの中心的な役割を担う病院です。▽医師主導治験が過去3年間に4件以上、または医師主導の臨床研究が過去3年間に80件以上▽臨床研究に関する論文数が過去3年間に45件以上▽診療科を10以上設置し、病床数が400床以上▽臨床研究支援・管理部門に医師や薬剤師、看護師、臨床研究コーディネーター、生物統計家などを一定数配置―という要件を満たしたすことを最低条件に、厚生労働大臣が承認します。これは医療法第4条の3に規定されており、従前の「予算上の臨床研究中核病院」(臨床研究品質確保体制整備病院)とは異なります。
ところで厚労省は、保険診療を行う上で「高度な機能を備えている」病院については、DPCの機能評価係数IIなどで評価することが適当と考えています。具体的には、次の4つの機能です。
(1)病院長を中心とした強力な管理体制が構築されていることで、革新的な医薬品・医療機器を安全に使用できる体制が整備されている
(2)医薬品・医療機器の最新の知見を有した医療従事者(医師・薬剤師・看護師など)が配置されていること、および薬事承認審査機関経験者などの専門的人材が配置されていることから、革新的医薬品・医療機器を安全に導入することができる(例えば、臨床治験段階から関与していることが多いため、ほかの医療機関と比べて革新的な医薬品など使用経験が長い)
(3)診療ガイドラインの根拠となるような質の高い臨床研究論文が発表されており、日常診療においてもエビデンスに基づいた診療が行われる
(4)患者相談にあたっての窓口の明確化や、相談業務を行うにあたっての規約の整備がされているなど、革新的な医薬品・医療機器の使用を伴う医療を患者が安心して受けられるような、患者相談窓口が設置されている
厚労省は、こうした「高度な機能」を有しているかどうかを判断する指標として「臨床研究中核病院の承認を受けているか」に注目し、今般、「機能評価係数II(うち地域医療指数の体制評価指数)で評価してはどうか」と提案しているのです。厚労省保険局医療課の眞鍋馨企画官は、「高い機能を発揮するための体制を整えることで、地域医療にも波及効果があると考えられる」とし、「保険医療の質の高さ」を評価する点を強調。臨床研究中核病院の承認要件に盛り込まれた「治験の実施状況」や「論文数」「研究の内容」などを評価するのではないと説明しています。
この提案に対し、DPC分科会では一部の委員から猛烈な反対意見が出されました。
美原盤委員(公益財団法人脳血管研究所附属美原記念病院長)は、「臨床研究中核病院は革新的な医薬品などの開発に向けた『治験』の中心的な役割を担う。これ自体を評価する方向は良いが、実際に治験の対象症例をフォローしているのは協力している地域の病院である。臨床研究中核病院のみを評価するのは適切ではないのではないか」と批判しました。
また小林弘祐委員(北里大学学長)は、「生物統計家などの数は限られており、例えば、ほかの体制は整っているが生物統計家の配置要件だけが満たせないという病院もあるかもしれない。現時点では、臨床研究中核病院になるにはそういった『ボトルネック』があり、これが解消されない段階での評価は時期尚早ではないか」と指摘しています。
これに対し厚労省保険局医療課の担当者は、「治験の実施状況や体制などを機能評価係数IIで評価するものではない。あくまで保険診療における質の高さを評価しようと考えている」と説明しています。
また石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長)は、「臨床研究中核病院には、今年(2015年)10月時点で4病院(国立がん研究センター中央病院、同東病院、大阪大学病院、東北大学病院)しか承認されていない。そのわずかな病院を機能評価係数IIで評価することに意味があるのだろうか。現段階で4病院が地域医療の質を底上げしたというエビデンスは承知していない。現時点で導入に賛成できない」と指摘しました。
この指摘に対し厚労省の眞鍋企画官は、「革新的医薬品・医療機器を安全に使用できる体制が整っており、臨床研究中核病院とそれ以外の病院とでは入院患者に提供する医療の質に差が出ると考えられる。4病院だけではあるが、評価したい」と説明した上で、資料を準備して改めて導入の目的などを提示する考えを示しました。
一方、川上純一委員(浜松医科大学医学部附属病院教授・薬剤部長)は「臨床研究中核病院には、『他病院からの相談』など地域における重要な役割が期待されており、これを地域医療指数の一部で評価することにも一定の説明ができる」と理解を示しています。
このように厚労省案に対して、委員の意見はまとまっておらず、中には猛烈な反対意見もあります。もっとも「治験に対する評価」といった誤解も一部の委員にあるため、DPC分科会では、2016年度の次期診療報酬改定で導入するか否か、引き続き議論していくことしています。
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