「病棟の機能」の再議論望む声相次ぐ―地域医療構想GL検討会
2015.11.26.(木)
病床機能報告制度について、「何をもって『機能』とするのか」「『病院の機能』と『病棟の機能』の混在を避けるべきではないのか」を明確にするべきではないか―。こういった指摘が、26日に開かれた「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」で相次ぎました。
厚生労働省はこの日、「医療機関が報告をする際」あるいは「地域医療構想調整会議などで議論を行う際」に、各機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)がどのようなものであるのかがを把握しやすくするための目安を設けるために、分析を始めてはどうかと提案しましたが、委員からは「そもそも」論が相次ぎ、改めて検討を行うこととしています。
地域医療構想策定ガイドラインが今年(2015年)4月に固まり、現在、各都道府県で構想の策定が進められています(後述)。
その一方で、一般病床・療養病床を持つすべての病院・有床診療所は、毎年、自院の病棟がそれぞれどういった機能を持つのか、またどのような体制を敷き、どういった医療を提供しているのかを報告することになっています(病床機能報告制度)。
病床機能報告の中身と、地域医療構想との間には当然、隔たりがあり、これを地域の実情に合わせて2025年までに10年ほどかけて埋めていく作業が進められます。
ところで、2014年度に行われた第1回病床機能報告の内容を見ると、「同じ機能(例えば高度急性期や急性期)を選択した病棟でも、医療の内容は必ずしも同等ではない」ケースや、逆に「同程度の医療内容と思われる医療機関でも、異なる機能を選択している」ケースが散見されるなど、報告内容にはバラつきがあります。
例えば、高度急性期機能を選択した病院であるのに、経皮的冠動脈形成術(PCI)実績がないケースや、地域包括ケア病棟1の一部で慢性期機能を選択したケース(2.7%のみ)などです。
病床機能の報告に当たり、機能は病院が自主的に選択するので、上記のケースを「不適切」とまでは言い切れませんが、バラつきがあることから「病院が機能選択で迷っている」状況が伺えます。
そこで厚労省は、「病床機能を選択する際に目安となるもの」を策定する必要があると考えています。この「目安」は、地域医療構想策定後に、地域の「地域医療構想調整会議」で議論を行う際には重要な役割を果たします。ちなみに、この「目安」が、いわゆる定量的基準となるのかどうかは、今後の検討に委ねられています(定量的基準を策定しないことも考えられる)。
この「目安」を策定するにあたり、まず▽病床規模別に報告内容を分析する▽全身麻酔手術や悪性腫瘍手術の提供状況を分析する―ことなどを始めてはどうかと提案したのです。
しかし、これに対し委員からは「そもそもの議論をすべきではないか」との指摘が相次ぎました。
中川俊男委員(日本医師会副会長)は、「何をもって、例えば高度急性期とするのか、急性期とするのか、という議論をしていない」と指摘。武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)も「急性期は何か、回復期は何かという定義をはっきりしなければいけない」と述べています。
また相澤孝夫委員(日本病院会副会長)は、「例えば救急患者の受け入れや手術は『病棟』ではなく『病院』が行うものである」とし、病院の機能と病棟の機能を今一度整理する必要があると指摘しました。さらに「レセプトデータやDPCデータから、どの患者にどのような医療を提供しているかを把握できる。これらをベースに『急性期は何か』といった点の合意を得ないと議論が進まない」と提案しています。
こうした指摘を受け、厚労省医政局地域医療計画課の迫井正深課長は「もっともだと感じる指摘もあった。よりよい制度にしていくため、改めて省内で検討したい」とコメントしています。「目安」策定に向けてどのような分析を進めるのか、もう少し調整が必要なようです。
26日の検討会では、都道府県が地域医療構想を策定した後、どのようにして現状(病床機能報告の結果)との隔たりを埋めているのか、その取り組み状況を把握する方向が固まりました。
まず、医療機関が機能転換などをどのように進めるのかを把握するため、▽地域医療介護総合確保基金の活用状況▽どのような施策で何床転床したのか―などを病床機能報告制度の中で追加報告してもらうことになります。ただし、「前年度報告以降に機能変更をした、あるいは次回報告までに機能変更を予定している医療機関」のみが報告します(変更しない場合には、当然、報告する必要はない)。
また、機能転換を都道府県がどのようにサポートしているのかを把握するため、▽調整会議の開催状況など▽機能変更をした医療機関数と病床数▽変更につながる取り組みの事例▽基金の活用状況▽地域の医療機関の変更事例―などについて、厚労省が都道府県に報告を求めることになります。
もちろん、地域医療構想策定後でなければ把握できないため、報告は構想策定後となります。例えば2015年度に構想を策定した都道府県の医療機関では、早ければ16年度から、16年度に構想を策定した地域の医療機関では、早ければ17年度から、前述の内容もあわせて病床機能を報告することになります。
これに関連して相澤委員は、「構想区域間の患者流出・流入をどう考えるのか明確にする必要がある」と強く指摘しました。例えば、A区域では回復期が不足していたとします。この場合、隣接するB区域の回復期病床に患者が流出するでしょう。しかし、地域医療構想の中で「A区域に回復期病床を増床する」ことになり、これが達成されると、A区域からの回復期患者の流出が止まり、B区域の回復期を持つ病院の経営に大きな打撃となる、と相澤委員は訴えます。さらに相澤委員は、「A区域のα病院と、B区域のβ病院との間で患者移動しているというのが実態であり、より細かく患者の流出・流入を把握する必要がる」とも指摘しました。構想区域間での患者流出・流入については都道府県が調整を行う必要がありますが、どう調整すればよいのか答えが見つかっていない状況のようです。
なお、山口育子委員(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)らは、「住民への情報提供」の重要性を指摘し、厚労省が都道府県を啓蒙するよう求めています。
厚労省は都道府県において、地域医療構想の策定に向けた進捗状況なども報告しています。それによると、2015年度中に構想策定予定が千葉など20府県(43%)、2016年度半ば予定が東京など21都道府県県(45%)、16年度中予定が長野など4県(8%)、未定が新潟・・兵庫の2県となっています。
また各都道府県における地域医療構想策定会議などの開催状況も報告されました。
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