設備投資行えない赤字病院、自院の機能を根本的に見直すべき―福祉医療機構
2015.11.27.(金)
2014年度における医療法人の医業収益は、前年度に比べて3.3%増加したものの、医業費用がそれを上回る3.9%増となったため、医業収益対医業利益率は0.5ポイント低下した(増収減益となった)ことが、福祉医療機構(WAM)が先ごろ公表したリサーチレポートから明らかになりました。
WAMでは、減価償却費の増加がないにもかかわらず赤字に転落した法人について、「収益の減少」→「設備投資が行えない」→「さらに収益が減少する」という悪循環に陥っている可能性を指摘し、「自院の機能を根本的に見直す必要がある」と訴えています。
リサーチレポートは、WAMが貸し付けを行っている医療法人の財務諸表データを用いて分析した結果です。
調査対象は1414法人ですが、2013年度と14年度の状況を比較するために、両年度のデータがある同一法人間(1210法人)で比較を行っています。
それによると、14年度の医業収益は平均で32億1017万9000円。前年度に比べて1億380万1000円・3.3%増加しました。14年度には、消費増税対応分を含めて0.1%のプラス改定が行われたことなどが影響していると見られます。
一方、14年度の医業費用は平均で31億2223万8000円。前年度に比べて1億1790万8000円・3.9%の増加となりました。
費用増の内訳を見ると、▽人件費は3.9%増▽経費は5.9%増▽医療材料費は1.7%増―となっています。また従事者1人当たりの人件費は0.8%(4300円)増に止まる一方で、1法人当たりの従事者数が3.0%(10.1人)増加しています。こうした点から、消費増税に伴う経費の増加や、人件費の増加が医業費用増の大きな要因になっていることが分かります。
収益増を費用増が上回ったため、増収減益となりました(医業収益対医業利益率は0.5ポイント低下し2.7%に)。
ちなみに従事者数増加の背景には、▽医師事務作業補助体制加算の見直し▽看護職員夜間配置加算の新設▽療養病棟における在宅復帰機能強化加算の新設―などに伴い、看護職員、医療クラーク、理学療法士などの配置を充実させたことがあると考えられます。
次にWAMは、2013・14年度のデータがある1210法人について、医業収益に着目して4つに区分した分析を行っています。
そこからは、医業収益規模の大きな法人は、いわゆる「高度急性期」の医療を多く提供している傾向が強いため医療材料などの使用量が多く、経費の絶対額も大きいため、消費増税の影響を強く受けている可能性のあることが分かりました。
14年度改定では、初診料・再診料・入院料などの点数を引き上げることで、消費増税に対応しましたが、補填にアンバランスが生じている可能性がありそうです。
さらにWAMは、2013・14年度のデータがある1210法人を黒字法人(969法人と赤字法人(241法人)に分けた比較分析も行いました。そこからは、次のような状況が明らかになっています。
▽赤字法人では医業収益増加率が低く、費用の増加を収益で賄えていない
▽医業収益規模が小さいほど、収益増加の幅が小さく、結果として医業利益率が悪化している
また、2013年度黒字決算を計上し、14年度に赤字に転落した法人(119法人)に着目すると、減価償却費が平均で22.1%と大幅に増加していることが分かりました(医療法人全体でみると3.7%増加)が、減価償却費の増加は「一時的な設備投資」に起因しているとWAMは推測しています。
逆に、減価償却費の増加がないにもかかわらず赤字に転落した法人については、「収益の減少」→「設備投資が行えない」→「さらに収益が減少する」という悪循環に陥っている可能性があるとして、「今後、各都道府県が策定する地域医療構想の中で必要とされる役割を意識し、自院の機能を根本的に見直す必要がある」とWAMは強調しています。
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