適切なケアマネジメントの推進に向け、「特定事業所集中減算」の是非も論点に―介護保険部会
2016.4.22.(金)
「自立支援」「公正中立」「総合的かつ効率的」な視点に立った適切なケアマネジメントを確保するために、どのような方策が考えられるか。また、重度かつ医療ニーズに高い要介護者のケアマネジメントにおいて、専門職種や専門機関を有機的に結びつけるのはどのような方策をとればよいか―。
22日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会では、このような点についても議論が行われました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また適切なアマネジメントに関連し、の介護報酬における「特定事業所集中減算」について、委員らは廃止を強く求めています。
目次
ケアマネの公正性・中立性などを確保するため、どのような方策があるか
介護保険制度では、介護支援専門員(ケアマネジャー)が要介護者の状況(身体的、精神的状況に加えて、家庭環境などの社会的状況も勘案する)やニーズ、地域のサービス提供体制などを総合的に勘案したケアプランを立て、このプランに沿ってサービスが提供されます。
しかし「ケアマネジャーは自身の資質・能力に不安を感じている」「ケアマネジャーは利用者本位のケアプランを作成できていないと感じている」「適正なケアプランかどうかのチェックが必ずしも十分に行われていない」といった指摘がなされています。
中には「居宅介護については区分支給限度基準額があるため、利用者自身が定めたケアプラン(セルフプラン)に沿ってサービス提供を進めても問題ないのではないか」といった、いわば「ケアマネ不要論」すら唱える識者もいます。
しかし、介護保険は財政論のみで考えるべきでなく、利用者の自立支援を第一に考えた「適切なケアマネジメント」の必要性はいささかも揺らぐものではありません。
このため厚生労働省老健局振興課の辺見聡課長は、より適切なケアマネジメントを推進するために次の検討課題(論点)を掲げました。
(1)自立支援、公正中立、総合的かつ効率的なサービス提供の視点に基づく適切なケアマネジメントを確保するための方策
(2)市町村が保険者として、地域の中で適切なケアマネジメントの確保を一層進めるための方策
(3)医療介護等の連携のために、ケアマネジメントにおいて、専門職種や専門機関を有機的に結びつけるための方策
(4)給付管理や書類作成等の業務負担も踏まえたケアマネジャーの業務のあり方
(1)では、介護報酬にある「特定事業所集中減算」をどう考えるかという具体的な検討課題が提示されています。
これは、例えば「ケアマネジャーが自身の所属する事業所のサービスに偏ったケアプランを立てる」ような事例を是正するために設けられているもので、「正当な理由なく、特定の事業所の割合が80%を超える場合に居宅介護支援費を200点減算する」という仕組みです。2015年度の介護報酬改定で▽集中率を90%から80%に引き下げる▽対象サービスの限定を外す―という強化が行われました。
しかし、会計検査院はこの減算について「合理的で有効な施策ではない」「むしろ一部で集中割合の調整を行うなどの弊害を生じさせる要因となっている」と指摘し、見直しを求めています。
また鈴木邦彦委員も、「一部の事業所では、減算が生じても自事業所にサービスを集中させたほうが結果として収益が高くなると考えている。悪質な事業者は排除できていない」「良質なサービスを提供している事業所に集中するのは当然」と指摘し、早急な廃止を要望しています。
介護報酬の見直しは、社会保障審議会の介護給付費分科会で議論しますが、辺見振興課長は「適切なケアマネジメントの推進に必要であれば介護保険部会でも議論してもらう」旨の考えを述べています。
また黒岩祐治委員(全国知事会社会保障常任委員会委員、神奈川県知事)の代理で出席した小島参考人は、「中立性・公正性のベースには『ケアマネジャーの独立性』担保が必要で、報酬の引き上げ」を考慮すべきと提案しています。これに関連して「居宅介護支援費に利用者負担を導入すべきか」というテーマも浮上しており、今後も議論される見込みです。
市町村によるケアプランの点検、「専門家の協力」が必要ではないか
(2)については、現在でも市町村がケアプランの点検(介護給付費適正化事業の一環)を行っていますが、これをどのように充実していくかが重要な論点となります。
この点について鈴木委員や内田千惠子委員(日本介護福祉士会副会長)らは、「形だけの点検では意味がない。行政と介護支援専門員協会が協力し、専門的な視点で点検していくべきである」と指摘しています。
ケアマネジャーと医療との連携、医師会の協力が必要不可欠
(3)は、医療ニーズのある重度の要介護者のケアプランを作成する際には、きわめて重要となる点です。しかし、特に福祉系のケアマネジャーでは医療の知識が不足しており、また医療との連携に躊躇する面があると指摘されています。
この点について桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)は「医師会の協力」を要請。鈴木委員もこれを快諾しています。
ケアマネジャーと専門職との連携という点では、地域ケア会議も有効です。多職種が集まり、専門的な視点で利用者の課題を洗い出し、自立に向けて必要となるケア・サービスを検討する会議です。会議に出席したケアマネジャーの7割は「ネットワーク構築や能力の向上、ケース支援に効果があった」と答えています。
鈴木委員は「地域ケア会議への出席義務を検討してはどうか」と提案しています。
また(4)は、ケアマネジャーの事務負担を軽減し、アセスメントやプラン作成、自身の能力向上により時間的資源を投入するためにどうすればよいかというテーマです。この点、土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は「ICTを活用する」ことを提案しました。例えばタブレット型PCの利活用などが考えられそうです。
介護保険施設などの総量規制、メリット・デメリット考慮して検討
この日は、辺見振興課長から「保険者機能を強化するための、サービス供給への関与」という議題も提示されています。
現在、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)や特定施設入居者生活介護などには、「介護サービスの供給量をコントロールするために、指定拒否を可能とする」総量規制の仕組みが導入されています。
一方、創設から時間が経過してない定期巡回随時対応サービスなどでは、サービス確保に向けて「公募制」や「市町村協議制」といった仕組みが設けられています。競合先を少なくし、一定の事業所経営を担保することが狙いです。
辺見振興課長は、「これらの仕組みのあり方をどう考えるか」との論点を掲げましたが、「制度の大枠を見直してほしいという意味ではない」旨のコメントをしています。
これらの仕組みには、「介護サービスの供給量(給付費や保険料につながる)をコントロールしやすくなる」というメリットがある一方で、「適切な競争を阻害する(質の悪いサービスが淘汰されない)可能性がある」というデメリットもあります。両者のバランスを考慮した上で検討していく必要があります。
この点について齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)は「事業者の状況を確認することが必要ではないか」と述べ、サービスの質確保にも配慮する必要があると指摘。また岩村正彦委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「事業者の評価を行い、悪質なとこには改善や指導、最終的には介護保険からの退出命令などを行う仕組みを組み合わせることが必要」と述べたほか、「他によりよい仕組みがないのかも検討すべき」と要請しています。
【関連記事】
「あるべきでない地域差」是正に向け、市町村へのインセンティブ付与などを検討―介護保険部会
在宅医療・介護連携の推進、市町村と医師会との連携が不可欠―社保審・介護保険部会
軽度の要介護者への生活援助サービス、介護保険から地域支援事業に移行すべきか―社保審・介護保険部会
社会保障費の伸び「年0.5兆円」は“目安”に後退―骨太2015を閣議決定