陽子線がん治療、年に3000件近く実施-保険適用を検討へ、重粒子線治療も
2015.1.28.(水)
保険診療の医療技術と保険外による最新技術の併用を例外的に認める「先進医療」の枠組みを使って全国で実施された陽子線治療の件数が、2013年7月からの1年間で3000件近くに上ることが、厚生労働省の調べで分かりました。同省では、16年度に実施する診療報酬改定に向けてこれからの取り扱いを検討するとしていて、中央社会保険医療協議会による今後の話し合いでは、保険適用も視野に入れた意見が交わされます。
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陽子線治療は、放射線の一種の陽子線を使ったがんの治療法です。前立腺がんや肝臓がん、一部の脳腫瘍などが対象で、関連学会が保険適用を申請しています。外科手術など従来の治療法に比べて身体への負担を軽減できるとされていますが、費用対効果の観点でほかの治療法よりも優れていることを示す十分なデータがなく、12年度と14年度の2回の報酬改定で保険適用が見送られました。
厚労省の集計結果によりますと、全国の医療機関が13年7月から14年6月に掛けて実施した陽子線治療の件数は2916件と、この1年間で3000件近くに上ることが分かりました。陽子線治療と同じように放射線の一種を使った重粒子線治療も1639件実施されていました。
これらの集計結果は28日に開かれた中医協総会で報告されました。同省保険局の佐々木健・医療課企画官は総会で、「適切なタイミングで、中医協で保険収載に向けた議論をしていただく」と述べ、これらの技術の保険適用を引き続き検討する考えを示しました。また、厚労省の担当者は「陽子線治療は小児がんに、重粒子線治療は骨軟部腫瘍に効果があるという指摘もある」と話していて、対象を限定した形での保険適用を模索する可能性もありそうです。
先進医療は、有効性や安全性が認められるかどうかや、どれだけ普及しているかを見極めた上で、保険適用の医療技術と最新の技術との併用を認めます。先進医療の対象とされた技術は将来的に保険適用を目指すことが前提で、実際に保険適用を認めるかどうかは、先進医療の対象とされている期間に集めた有効性、安全性などのデータで判断します。
厚労省の集計では、この1年間に陽子線治療を実施した医療機関は全国で8か所のみでした。重粒子線治療を実施している医療機関も4か所と少なく、厚労省によりますと、関連学会にも協力をあおいで、保険適用の判断に必要なだけのデータを集めています。
先進医療には、薬事承認済みの医薬品や医療機器を使うなど安全性が比較的高い技術が対象の「先進医療A」と、薬事未承認のものを使うなど安全性のエビデンスが少ない技術の「先進医療B」があります。厚労省の報告によりますと、これらを合わせた先進医療の対象技術は14年6月末現在、計95種類(うち56は先進医療A)で、13年7月1日の109から14減りました。全国の571か所(同469か所)の医療機関が計2万3925人(同2万2726人)の患者に、これら95種類の先進医療を実施していました=表=。
先進医療Aでは、13年7月時点で対象だった65種類の技術のうち8つが、16年度の報酬改定で保険適用になりました。また、この1年間には4種類が新たに先進医療の対象になりましたが、一方で、実施件数が少ないことなどから5つの技術は対象から外されました。