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【衝撃スライド】欧米では当たり前の「日帰り手術」、日本で普及しない理由

2015.3.9.(月)

 欧米では当たり前のように行われている「日帰り手術」。しかし、日本ではこの普及が大きく遅れています。その理由と今後の方向性を、GHCコンサルタントの簗取萌が解説します。

credit: Mercy Health via FindCC

credit: Mercy Health via FindCC

欧米諸国との比較、「衝撃の結果」

 「日帰り手術」という言葉をご存じでしょうか。手術と言えば、最低でも2泊3日の入院が必須というイメージがありますが、手術の種類にもさまざまあって、必ずしも入院が必要な手術ばかりではありません。代表的な例は、重症度が比較的高くない白内障の手術などです。

 欧米では、「Ambulatory SurgeryもしくはDay Surgery」と呼ばれており、手術の当日に来院して、その日か翌日の午前中には帰宅できる手術のことを指します。

 日帰り手術は、宿泊代や食事代などの出費がないため、患者の費用負担を最小限に抑えることができます。多忙なビジネスマンや子育て中の女性にとっては、拘束時間を大幅に縮められるため、病状を放置せずにすぐ手術を受ける後押しにもなります。

 こうした日帰り手術の日本、欧米諸国(ベルギー、独、スペイン、仏、スウェーデン、英)の実施状況を簗取が調査してまとめました。その結果を見て簗取は、「圧倒的な格差に何よりも衝撃を受けた」といいます。

「日帰り=質低い」は誤り


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 調査したのは、代表的な日帰り手術と言える白内障、扁桃切除術、腹腔鏡下胆嚢摘出術、鼠径ヘルニア術、心臓カテーテル検査の5つの術式。例えば、白内障では日本と独を除く6か国ではおよそ8-9割とほとんどが日帰り手術なのに対して、日本では日帰り手術の比率は約4割にとどまっています。米国は9割、スウェーデン6割、仏2割とばらつきがある扁桃切除術は、日本での実施率は0%です。

 簗取はこう指摘します。

 「米国ではすべての術式で日帰り手術の比率が高い。『経済合理性を重視する米国だから』と考えがちだが、米国では『医療の質』が病院の収益に直結する制度設計なので、術後の患者の状態を院内できちんと確認した上で帰宅させている(関連記事『「EDRGを日本にも」米メイヨー・スモルト氏が提言―GHCの10周年感謝祭で来日講演』)。日帰り手術だから医療の質に問題があるとは必ずしも言えず、実際、高福祉で有名なスウェーデンでも、調査した術式の日帰り手術の実施比率は高い傾向にある」

目前の利益より政策の先取りを

 梁取は、日本で日帰り手術のウエートが低いのは「病院経営という観点から考えると、日帰り手術を実施するための診療報酬上のインセンティブが働いていないため」とも。術後にすぐに帰宅させず入院させた方が、その分、病院の実入りが多いので、そのため普及が進んでいないというわけです。

 ただ、2012年度と14年度の診療報酬改定では、こうした状況にメスが入りました。一部の手術や検査で、入院が長引くと診療報酬が一気に下がる「隠れDRG(点数設計D方式」と「短期滞在手術等基本料3」が導入されたのです(関連記事『GHCアキ「集患めぐる競争の時代に」-今度は全日病学会でデータ分析実演』)。

 「平均在院日数を現状の17日から9日に短縮するのが国の方針とも言われている。隠れDRGや短期滞在手術等基本料3のように、診療報酬体系に米国のDRGの要素を多分に取り入れようとしていて、こうした流れは今後も続くと予想される。目の前の収益を追うよりも、政策動向の大きな流れを先取りし、それに対応できる体制を整えることの方が中長期的には重要」と簗取は話しています(関連記事『病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと』)。

解説を担当したコンサルタント 簗取 萌(やなとり・もえ)

yanatori 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。看護師、経営学修士(MBA)。
国立看護大学校看護学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。ナショナルセンター集中治療室の勤務を経て、MBA取得後現職。DPC環境下における病院戦略、クリニカルパス、看護必要度等データに基づいた実証的分析、クリティカルケア領域の経験を踏まえた実践的な分析などを得意とする。名古屋第一赤十字病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「AERA」などの雑誌(掲載報告はこちら)、新聞への取材協力多数。「月刊ナースマネジャー」にて「一歩先を行く! 師長のための医療看護トレンドナビ」好評連載中。
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