治癒率の低下や予期せぬ再入院の増加、在院日数短縮とは無関係―DPC評価分科会
2015.3.24.(火)
「治癒率の低下」や「予期せぬ再入院の増加」は、平均在院日数の短縮などによる粗診粗療の結果ではないことが厚生労働省の調査から明らかになりました。しかし、「病院間で治癒率にばらつきがある」「予期せぬ再入院が増加している原因は特定できていない」ことから、さらなる調査を行う方向が、23日に開かれた診療報酬調査専門組織のDPC評価分科会で固まっています。
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DPC制度のような包括支払方式では、「粗診粗療」や軽症患者のみを選別する「クリームスキミング」の発生が懸念されます。そのため厚生労働省は毎年度、「退院患者調査」を実施して、患者が治療半ばでの退院を強いられていないか、不十分な治療によって予期しない再入院が増加していないかなどをチェックしています。
ところで、2013年度の「退院患者調査」結果からは、▽「治癒」による退院が減少している▽予期しない再入院が増加している-ことが分かりました。この点、DPC評価分科会では「『治癒』は退院後の外来治療が一切ない状態と定義されており、何らかの外来通院の可能性があれば現場の医師は『治癒』とせず、『軽快』とする。『治癒』と『軽快』を合わせたものを1つのアウトカム指標としてモニタリングすることが妥当」との見解を示していました。
しかし、中央社会保険医療協議会からは「「『治癒』と『軽快』は独立した指標と考えるべきである」「『予期しない再入院』の増加は、平均在院日数の短縮が限界に来ているのではないか」といった指摘がありました。
そこで厚労省は、この日の分科会に(1)治癒・軽快(2)予期しない再入院―に関する詳細な分析結果を示し、あらためて議論を行いました。
まず(1)の治癒・軽快に関する分析結果を見ると、次のような状況が伺えます。
▽治癒率が高い疾患(精神作用物質使用による精神・行動の障害、分娩の異常など)を見ても、治癒率は低下傾向にある
▽治癒の定義をしっかりと把握していない病院もあるようだが、その数は減少傾向にある
▽治癒率と平均在院日数には相関関係はない
この点、工藤翔二委員(公益財団法人結核予防会理事長)は「『治癒』の定義が浸透してきたことや、入院から外来へのシフトが進んでいることから、退院後の外来治療が一切ない『治癒』症例が減少しているのではないか」と指摘。瀬戸泰之委員(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学教授)や美原盤委員(脳血管研究所附属美原記念病院長)もこの指摘に賛同しています。
ただし、治癒率がゼロ%の病院が多い一方で、35%を超える総合病院もあることから、「医療機関のばらつきの原因を調べる」ために、厚労省保険局医療課の佐々木健企画官は、中医協の指摘に応えるため「治癒率の高い病院や低い病院に対し、アンケートやヒアリングなどの調査を行う」ことを提案し、了承されました。近く、中医協に諮られる見込みです。
福岡敏雄委員(倉敷中央病院総合診療科主任部長)は「例えば転院後や外来移行後に『治癒』『軽快』などの評価をしてはどうか」と提案しましたが、過去の統計データとの比較ができなくなるため、定義変更となるこの提案の採用は難しそうです。
(2)の予期せぬ再入院は、▽予期せぬ原疾患の悪化・再発▽予期せぬ原疾患の合併症併発▽予期せぬ併存症の悪化▽新たな多疾患発症―などが原因で生じます。
厚労省は、予期せぬ再入院率が上昇しているDPCコードとして(a)胆管(管内外)結石、胆管炎(b)分類不能(c)体液量減少症(d)心不全(e)手術・処置等の合併症▽ヘルニアの記載のない腸閉塞―をピックアップし、分析を行いました。しかし上昇の原因は特定できず、引き続き調査を行うこととなっています。なお、予期せぬ再入院と平均在院日数に相関関係はなく、「粗診粗療が生じている」とは考えにくい状況です。
ところで、12年度改定では「7日以内の再入院であって、再入院の契機となった病名(DPC診断群分類の上2桁)が、前の入院で最も医療資源を投入した病名(DPC診断群分類の上2桁)と同じ場合には、入院期間を通算する」こととなりました(従来の「3日ルール」を「7日ルール」に改正)。これは、「いったん患者を退院させて入院期間をリセットし、再び高い点数を算定する」という不適切な事例への対策を強化するものです。
ただし、「尿閉」や「その他の慢性疼痛」など一部の疾病については、再入院が止むを得ないものとして7日ルールの対象外となっています。厚労省の調査では、この仕組みを不適切に利用した再入院が増加している可能性があることも示唆されました。小山信彌分科会長(東邦大学医学部特任教授)は「次期改定での見直し」を求めており、厚労省保険局医療課の担当者も「不適切な事例はすべて監視している」ことを強調しています。DPC制度も保険料や公費を財源としており、不適切な請求は厳に慎むべきでしょう。