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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

データで医療改善、世界をリードする基盤作りが未来を拓く―慶大・宮田氏が語る20年先のビジョン

2015.7.17.(金)

 GHCは10日、慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室の宮田裕章教授を講師に招き、全体会議を開きました。宮田教授の講演は、医療の質向上を支えるプラットフォームの構築がテーマでした。専門医制度と連携したナショナルクリニカルデータベース(NCD)などのデータベースの活用を軸にした良質な医療基盤を数年以内に構築して、世界の医療をリードできるかどうかが日本の医療を持続可能にするためのカギになると強調しました。
2015.7.17GHC、新時代医療をウォッチ 宮田教授講演①
 NCDは、日本外科学会などが中心になって立ち上げた手術症例のデータベースで、全国の医療機関からのデータ収集が2011年にスタートしました。関連学会による働き掛けを強めたり、専門医制度とリンクさせたりすることで、現在では全国の4000以上の医療機関がデータを提供していて、国内の外科手術の症例のほぼ全数をカバーしています。近年では多くの内科領域も参加し始めています。

 宮田教授は07年ごろから臨床現場と連携した研究・実践に取り組み、膨大なデータを分析して医療の質改善に取り組んできました。勤務医の労働環境の改善と、治療成績の質向上につなぐための政策検討がその1つです。

 完全休養を取れなかったり、高い専門性に見合うだけの待遇を確保できなかったり、過酷な労働環境を嫌って勤務医が相次いで病院を退職する「立ち去り型サボタージュ」が社会問題化したのを受けて、宮田教授らは心臓外科医の負担を減らすための医療提供体制の再編の検討に07年ごろ、着手しました。

 負担減の具体策を固める過程では心臓外科医の増員も候補に浮上しましたが、他職種との連携や分業による対応を決めたということです。心臓外科の領域で代表的な冠動脈バイパス手術(CABG)の治療成績を病院ごとに分析すると、死亡率を安定的に引き下げるのに必要な症例数は1施設当たり年40症例以上が目安だと分かりましたが、仮に症例を増やせずに医師だけを増やすと、1人当たりの症例数を引き下げてしまう恐れがあったためです。

 NCDのベンチマーク分析は、外科症例の死亡率や合併症の発症率、再発率、在院日数などが対象で、リスク調整した後の術後感染症の発症率や死亡率といったデータをリアルタイムで参加病院に提供しています。これによって臨床現場では、自分たちの課題を把握できるようになり、例えば患者の死亡や合併症の発症が続いたら、それが患者の重症度によるものなのか、病院の設備や治療法に問題があるのかを検証するのにも役立てられます。

 こうしたデータを地域間で比較すれば、最適な医療提供体制を構築する道筋が見えてきます。

 感染症や合併症の発症率が下がり在院日数の短縮が進めば、医療費の削減も見込めます。このため宮田教授は「より良質な医療を安く提供することが可能だ」と述べる一方、日本の医療の現状については「投入コストに対する意識に課題があり、データに基づいた検討が進めば、改善幅は大きい」との認識を示しました。

■データで見いだすwin-winの政策

 日米のデータを比較するなど国際的な共同研究も進んでいます。これまでの研究では、日本の医療が世界でもトップクラスのパフォーマンスを発揮している一方で、コスト面に課題があることも見えてきました。

 日本のNCDと米国の外科学会のデータ(いずれも11-12年のデータ)を比較分析した結果では、膵頭十二指腸切除術でのリスク調整後の死亡率は、米国の2.35%(6180症例)に対して日本は1.32%(1万7606症例)とかなり優秀でした。ただ、外科手術の症例の平均在院日数を比較すると、日本は米国のおおむね3倍程度の長さで、膵頭十二指腸切除術では30日前後に上ることが分かりました。

 平均在院日数の長さは、病床の稼働率を高めることで収益を増やそうという病院側の事情が一因だと考えられますが、宮田教授は「高齢の患者では、長く入院し過ぎるとADL(日常生活動作)が下がることが指摘されている。病院に長く入院すると安全であるとは限らない」と指摘しました。例えばNCDの詳しい臨床データを活用すれば、患者1人1人の病状に考慮して「退院日可能日」を設定でき、それよりも早く退院させられたら診療報酬で評価する仕組みを設計することで、臨床現場と医療財政の両面に成果がもたらされる可能性があるということです。

 宮田教授は「在院日数の短縮が進めば医療費を圧縮できるだけでなく、病院が良質な医療を提供しやすくなる。臨床現場主導で、現場の実践に結び付く信頼性の高いデータを収集することで、こうしたwin-winの政策もたくさん打てるようになる」と述べました。

■医療市場の衰退を見越した20年先のビジョン

 宮田教授は講演で、急速な高齢化によって医療財源がひっ迫する中、何も手を打たず無計画に過ごせば、日本は危機的な状況に陥るとの見方を示しました。ただ、高齢化に伴う急激なニーズの増加を見込めるため、これから「2025年」にかけての10年間は、「医療にとって成長のチャンスでもある」とも述べました。その上で、医療の産業化を進めて世界をリードすることが、日本の医療を持続可能にする上でカギになると強調しました。

 それには、最善の医療を持続的に提供できるだけのプラットフォームをまず国内に作り上げる必要があり、そのためにNCDの膨大なデータを活用するという考え方です。

 医療を産業化して世界をリードする考え方は、宮田教授がメンバーとして参画した「保健医療2035」の報告書や、政府が6月末に閣議決定した「骨太方針2015」にも盛り込まれました。25年のさらに10年先を見据えたビジョンです。

 25年を過ぎると、やがては医療や介護のニーズは減少に転じるとみられていて、宮田教授は「医療資源の消費が最も盛んな時期に合わせて日本をデザインしてしまったら、20年先の日本にとって最悪な回答になりかねない。やがて来る市場の縮減を見越しながら、医療の持続可能性を見いだすことがとても大切」と述べました。

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