医療ICTの診療報酬評価、コストではなく意義や効果に着目―中医協・基本小委
2015.7.23.(木)
ICTを通じた診療について、診療報酬でどのような評価を行っていくべきか―。2016年度の次期診療報酬に向けて、こうした視点からの議論が行われます。
22日に開かれた中央社会保険医療協議会の診療報酬基本問題小委員会では、ICT導入のコストではなく、「文書などを用いた既存の方法と、同等またはそれ以上の意義や効果を有することを評価する必要がある」との考えを示しています。
医療分野でも電子カルテやオーダリングシステムなどのICT化が進んでいます。先進的な事例としては、地域の医療機関が電子カルテのすべての情報(画像、検査、治療内容、診療録)を共有し、診療に役立てる地域医療ネットワークの構築などがあります(長崎県の「あじさいネット」や、島根県の「まめねっと」)。
しかし、一部の文書には医師の記名・押印が必要とされるなど、電子化が十分に進んでいない部分もあります。例えば、訪問看護を提供する際に必要な医師の指示書(訪問看護指示書)には、医師の記名・捺印が必要なため、全く電子化されていない状況です。
このため、訪問看護を行う場合には、医療機関側が電子カルテを導入していても、医師が指示書をわざわざプリントアウトし、これに記名・捺印を行い、訪問看護ステーションに郵送するなどし、それを待ってからサービスが提供されています。
こうした状況について、厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は「訪問看護指示書の電子化が進めば、負担軽減と迅速なサービス提供につながる可能性がある」と説明しています。
一方、ICTの活用が進んでいる分野の1つに「遠隔診療」があります。厚労省は「直接の対面診療」を原則とした上で、▽離島・へき地の患者などで、対面診療が困難な場合▽慢性期疾患など病状が安定している患者で、療養環境の向上が認められる診療を行う場合―には遠隔診療を認めており、診療報酬上の評価も一部行われています。
このようなICTの利用は医療の質の向上にもつながるため、前回14年度改定の附帯意見にも「ICTを活用した医療情報の共有の評価の在り方を検討する」ことが盛り込まれました。
また、今年6月30日に安倍内閣が決定した改訂「日本再興戦略」には、400床以上の病院における電子カルテの全国普及率を20年度までに90%にすることが、同じく「規制改革実施計画」には、遠隔診療の評価を検討する方針が示されています。
この点について診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は「インフラ整備には莫大なコストが掛かり、地域医療介護総合確保基金などでは初期費用はカバーできても、ランニングコストが賄えない」と述べ、診療報酬上の対応を求めました。
しかし、厚労省はコストではなく医療上の意義や効果に着目し、「文書などを用いた既存の方法と、同等またはそれ以上の意義や効果を有すること」を評価する必要があるとの考えを示しています。
また、この日の基本小委では、全DPC病院に対して「持参薬の取り扱い」状況を調査することが了承されました。厚労省は、早ければ7月中にも調査票を送付する考えです。
一部のDPC病院では、「入院治療に必要な薬剤を外来で処方し(出来高算定)、それを患者に持参させている」との報告がありました。DPC点数には、入院基本料や検査、投薬などの費用が包括されているため、この事例では薬剤費を2重に請求している形です。
前回14年度の診療報酬改定では、こうした「持参薬」が問題となり、次のような対応が行われました。
▽入院の契機となる傷病の治療に係るものとして、あらかじめ当該またはほかの病院などで処方された薬剤を患者に持参させ、当該病院が使用することは特別な理由がない限り認められない
しかし、この対応には「例えば高血圧を治療中の患者が、がん治療で入院した場合、高血圧の薬を持参してもらってもよいのではないか」との指摘があり、次期改定で見直すべきか否かを検討する素材として、今回、実態調査が行われるものです。
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