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自宅や高齢者向け住宅への退棟促すため、在宅復帰率の計算式見直し―入院医療分科会

2015.8.6.(木)

 7対1病棟や地域包括ケア病棟などから「自宅などへの退院」をこれまで以上に進めるために、在宅復帰率の計算方法を見直してはどうか―。このような検討が、5日に開かれた診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」で行われました。

 「自宅」や「高齢者向け集合住宅」などへの退院と、「回復期リハビリ病棟」や「在宅復帰機能強化加算を届け出ている療養病棟」などへの退院を分け、前者の評価を高く(後者の評価を低く)することなどが考えられます。

8月5日に開催された、「平成27年度 第7回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

8月5日に開催された、「平成27年度 第7回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

計算式見直し、「自宅」「高齢者向け集合住宅」への退棟を高く評価

 2014年度の前回診療報酬改定では、7対1病棟や地域包括ケア病棟の施設基準に「在宅復帰率」という考え方が導入されました。

 7対1病棟では、▽自宅や高齢者向けの集合住宅など▽他院の回復期リハビリ病棟▽他院の地域包括ケア病棟▽他院の在宅復帰機能強化加算を届け出ている療養病棟▽在宅強化型・加算型の老人保健施設―への退棟患者が、死亡退院などを除いた退院患者のうち75%以上でなければいけません。

7対1病棟の在宅復帰率計算では、「自宅や高齢者向け集合住宅」のほか、「他院の回復期リハ病棟」「他院の地域包括ケア病棟」なども高く評価されている

7対1病棟の在宅復帰率計算では、「自宅や高齢者向け集合住宅」のほか、「他院の回復期リハ病棟」「他院の地域包括ケア病棟」なども高く評価されている

 また地域包括ケア病棟では、自宅や高齢者向けの集合住宅など▽他院の在宅復帰機能強化加算を届け出ている療養病棟▽在宅強化型・加算型の老人保健施設―への退棟患者が、死亡退院を除いた退院患者のうち70%以上でなければいけません。

地域包括ケア病棟の在宅復帰率計算では、「自宅や高齢者向け集合住宅」のほか、「他院の在宅復帰機能強化加算を届け出いている療養病棟」「在宅強化型の老健施設」なども高く評価されている

地域包括ケア病棟の在宅復帰率計算では、「自宅や高齢者向け集合住宅」のほか、「他院の在宅復帰機能強化加算を届け出いている療養病棟」「在宅強化型の老健施設」なども高く評価されている

 厚生労働省の調査では、ほとんどの7対1病棟・地域包括ケア病棟が「在宅復帰率」の基準をクリアしていることが明らかになりましたが、退棟先を詳しく見ると、「自宅」や「高齢者向け集合住宅」への退棟割合はそれほど高くありません。

7対1から「自宅」「高齢者向け住宅」に復帰している割合は78%にとどまる

7対1から「自宅」「高齢者向け住宅」に復帰している割合は78%にとどまる

地域包括ケア病棟から、「自宅」「高齢者向け住宅」への復帰割合は78%にとどまる

地域包括ケア病棟から、「自宅」「高齢者向け住宅」への復帰割合は78%にとどまる

 こうした状況を踏まえ、更なる在宅復帰の推進を図るには、2つの考え方があります。

(1)在宅復帰率の基準値(7対1は75%以上、地域包括ケア病棟は70%以上)を引き上げる

(2)在宅復帰率の計算方法を見直し、「自宅」や「高齢者向け集合住宅」への退棟をより高く評価する

 このうち(2)では、現在「在宅復帰」にカウントされている▽他院の回復期リハビリ病棟▽他院の地域包括ケア病棟▽他院の在宅復帰機能強化加算を届け出ている療養病棟▽在宅強化型・加算型の老人保健施設―への退棟を、死亡退院などと同様に扱うことなどが考えられます。

 120名の退院患者がいる7対1病棟で、▽自宅・高齢者向け集合住宅への退棟が60名▽他院の回復期リハ病棟などへの退棟が40名▽自院の他病床への転棟が5名▽死亡退院が5名▽他院の一般病棟などへの退棟が10名―であったと仮定しましょう。

 現在の在宅復帰率の計算方法は、(「自宅・高齢者向け集合住宅への退棟患者数」+「他院の回復期リハ病棟などへの退棟患者数」)/(全退院患者数-「死亡退院数」-「自院の他病床への転棟患者数」)なので、設例では(60+40)/(120―10)=90.9%となります。

 ここに上記の見直し(他院の回復期リハビリ病棟などへの退棟を死亡退院などと同様に扱う)を行うと、計算方法は、「自宅・高齢者向け集合住宅への退棟患者数」/(全退院患者数-「他院の回復期リハ病棟などへの退棟患者数」-「死亡退院数」-「自院の他病床への転棟患者数」)となるので、60/(120-40-10)=85.7%になります。

 このように(2)の見直しを行うと、相対的に「自宅」や「高齢者向け集合住宅」への退棟がより高く評価されることが分かります。また、この見直し行うと各病院の在宅復帰率は設例のように低下するため、(1)の基準値の引き上げを実施すべきなのかをあらためて検討する必要が出てくるでしょう。

退院支援を促す診療報酬項目、次期改定で整理の可能性

 ところで、在宅復帰を促すためには病院側が「退院支援」に向けた体制を整備し、効果的な取り組みを行うことが重要です。診療報酬でも、体制(ストラクチャー)や取り組み(プロセス)、さらに退院支援の結果(アウトカム)に着目した評価が行われていますが、「総合評価加算」や「退院調整加算」など一部を除いて、算定回数は低迷しています。

退院支援について、診療報酬では▽ストラクチャー▽プロセス▽アウトカム―のさまざまな視点から評価している

退院支援について、診療報酬では▽ストラクチャー▽プロセス▽アウトカム―のさまざまな視点から評価している

総合評価加算、退院調整加算(一般病棟)、介護支援連携資料料を除き、退院支援を評価する診療報酬は算定回数が少なく、増加もしていない

総合評価加算、退院調整加算(一般病棟)、介護支援連携資料料を除き、退院支援を評価する診療報酬は算定回数が少なく、増加もしていない

 厚労省は、この背景に「退院支援を促す診療報酬項目の要件が複雑で、重複した内容もある」ためではないかと見ています。

 さらに厚労省の調査分析によると、▽専従・専任の退院支援職員の配置▽退院支援室の設置▽早期退院に向けた多職種のカンファレンス実施―を行うことで、より早期に、より多くの患者に対して退院支援を行うことができるという結果も明らかになりました。

 16年度の次期診療報酬改定では、こうした分析結果も踏まえて「退院支援に関する診療報酬項目」を整理する可能性が強くなっています。

 この点について神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長)は、「退院支援職員は、病棟勤務だけではなく、地域の在宅医療を行う診療所や介護サービス事業所との連携をしっかり行う必要がある。専従では病棟の外での業務を行うことが難しくなってしまうので、専任とすべき」と訴えています。

 なお、退院が難しい理由の中には「本人や家族が希望しない」という点があります。藤森研司委員((東北大学大学院医学系研究科・医学部医療管理学分野教授)は、「患者・家族に行動を変えてもらう必要がある」と述べ、診療報酬による医療機関へのインセンティブ付与だけでは退院支援は難しいとの考えを示しています。

他医療機関受診の減額措置、分科会では批判相次ぐ

 この日は、入院患者が他医療機関を受診した場合の減額措置も検討テーマとなりました。

 減額措置は10年度の診療報酬改定で整理されたもので、入院患者がほかの医療機関を受診した場合、▽出来高病棟では入院基本料の30%▽特定入院料算定病棟では費用の70%―が減額され、DPC病棟では「他医療機関分も含めてDPC病棟が請求し、合議で精算する」ことになりますが、それにより診断群分類が変わる可能性もあります。

2010年度診療報酬改定で整理された、「入院中の他医療機関受診」の場合の診療報酬算定ルール

2010年度診療報酬改定で整理された、「入院中の他医療機関受診」の場合の診療報酬算定ルール

 この減額措置については多くの委員から「廃止」「緩和」を求める意見が出されました。安藤文英委員(医療法人西福岡病院理事長)は「機能分化と減額措置は矛盾する」と指摘、石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長)は「良い医療のために他医療機関を勧めるとペナルティを受けるおかしい仕組みだ」と批判しています。

 親組織である中央社会保険医療協議会での判断が待たれます。

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