がん死亡率減少目指し、「予防・早期発見」や「均てん化」などの取り組みを加速化―がん対策推進協議会
2015.9.17.(木)
がん対策を加速化させするための新たなプラン(がん対策加速化プラン)を2015年内に策定するため、がん対策推進協議会では提言書のとりまとめに向けた議論を進めています。加速化プランは、(1)がんの予防・早期発見(2)がんの治療・研究(3)がんとの共生―という3つの柱で構成されることが決まっており、具体的にどういった取り組みを行うべきか調整が進められます。
17日に開かれた協議会では、厚生労働省から骨子案と論点が示されましたが、門田守人会長(がん研究会理事・名誉院長)や堀田知光会長代理(国立がん研究センター理事長)から「加速すべき項目・ターゲットを絞るべきではないか」という意見が出されています。
今年6月に開かれた「がんサミット」で、安倍晋三首相が「がん策を加速化させるプランを策定する」よう塩崎恭久厚生労働大臣に指示しました。塩崎厚労相は、(1)がんの予防・早期発見(2)がんの治療・研究(3)がんとの共生―という3つの柱を立てることを決定。さらに、がん対策推進協議会が、この3本の柱に沿ってどのような取り組みを行うべきかを塩崎厚労相に提言することになっています。
がん対策推進基本計画では「がんの年齢調整死亡率を2005年から15年にかけて20%減少させる」という目標が掲げられましたが、現時点では目標達成が難しい状況です(関連記事はこちら)。安倍首相はこの現状を厳しく受け止め、加速化プラン策定を指示したものと考えられます。
17日の協議会には、厚労省が加速化プランの骨子案と論点が提示。骨子案は次のとおりです。
(1)がんの予防・早期発見:(a)がんの早期発見(b)がんの教育・普及啓発(c)たばこ対策の推進(d)感染症などによるがん予防
(2)がんの治療・研究:(a)がん医療の均てん化(b)希少がんの対策、難治性がんの対策(c)「がん研究10か年戦略」に基づく研究開発の推進(d)ライフステージを意識したがん対策の充実(e)がんに係るゲノム医療の推進
(3)がんとの共生:(a)緩和ケアの推進(b)がん患者の就労支援
(1)の「予防・早期発見」は、死亡率減少に向けた最重要視点です。門田会長は、がん研有明病院とGHCとの共催セミナーで「早いステージでがんを発見すれば、現在の治療技術でも十分に対応できる。今後は予防と早期発見に力を入れていくべき」と強調しています(関連記事はこちら)。
「予防・早期発見」は、極論すれば「生活習慣の改善」と「検診受診」の2点をどう進めていくかに集約できます。厚労省は具体的な論点として、▽がん検診受診率の向上▽保険者の提供するがん検診の位置づけの明確化▽文部科学省が進める「がん教育」の全国展開に当たっての課題・対応策▽受動喫煙防止対策―などを掲げました。
委員からは「たばこ対策」の重要性を指摘する意見が相次ぎました。中川恵一委員(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)は「喫煙率が十分に下がらなかったことが、死亡率減少目標未達成の大きな要因となっている」と指摘し、たばこ対策を強力に推進すべきと訴えました。
ところで、政府は成人年齢を18歳に引き下げる方針を固めており、そこでは「たばこと飲酒の18歳解禁」論も出ています。この点について、厚労省健康局がん対策・健康増進課の正林督章課長は「本日の自民党の厚生労働・文部科学合同部会で、たばこと飲酒の18歳解禁に反対する声明が採択された」ことを紹介しています。
(2)の「治療・研究」については、厚労省から次のような論点が示されています。
▽がん診療連携拠点病院で標準治療が実施されている割合は4-8割程度と推計されており、必ずしも均てん化が図られていない。拠点病院を中心とした医療の質向上をどう考えるか
▽がん研究の予算は薬剤開発に比重が置かれているが、「がん患者と家族のニーズに応じた苦痛の軽減」「予防・早期発見」「共生」などに資する研究を、研究者・医療者・患者などの関係者が一体となって強化するためにどのような施策が考えられるか
▽小児がんの医療提供体制、AYA(Adolescent -Young Adult)世代(思春期と若年政治を包括した世代)のがん患者に対する医療・支援をどう考えるか
▽がん領域におけるゲノム医療の推進をどう考えるか
さらに(3)の「共生」に関しては、就労支援の充実とともに、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」や「副作用や合併症の軽減のための研究」「標準治療の普及」などが論点として掲げられました。
このうち緩和ケアについて「わが国では欧米に比べて医療用麻薬の使用が少ない」と指摘されます。この点について細川豊史委員(京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座教授)は、「諸外国では、ほとんどの医療用麻薬をがん治療以外に使用している。また放射線を用いた疼痛除去や神経ブロック注射の活用などで、医療用麻薬の使用を大幅に軽減することが可能である」ことなどを紹介し、「大雑把に『わが国は医療用麻薬使用が少ない』と指摘すべきではない」と厚労省に注文を付けています。
このように加速化プランの策定に向けて厚労省からは大量の論点が提示され、あわせて委員からもさまざまな要望が出されています。
こうした状況に対し、堀田会長代理は「加速化プランは、17年6月策定予定の第3期がん対策基本計画につなげるもので、せいぜい1年から1年半のものだ。そこに多くの項目を盛り込めんでも実行できないばかりか、事後評価もできなくなる。例えば、たばこ対策であれば『たばこ税率の引き上げ』など実効性の見える項目にターゲットを絞り込む必要がある」と指摘。門田会長もこの指摘に賛同し、「今のがん対策の流れをスピードアップする項目に絞ってほしい」と厚労省に指示しました。
厚労省は、こうした意見を踏まえて項目立てと論点の内容を見直し、10月23日に開かれる予定の次回会合に加速化プランの素案を提示する考えです。さらに次回会合の議論を踏まえ、11月の会合で提言書が取りまとめられる見込みです。
【関連記事】