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がん医療の臨床指標を定め、自院と他院のベンチマークすることで医療の質が向上―がん研有明病院とGHCが共催セミナー

2015.7.27.(月)

 がん医療の臨床指標を定めて自院と他院とのベンチマークを行うことで、がん医療の質を高めることができる―。全米屈指の優良病院であるクィーンズメディカルセンター(QMC、ハワイ州ホノルル)で外科部長兼がん委員会議長として活躍しているポール・モーリス医師が24日、がん研究会有明病院とGHCが共催した「国内外の先進事例に学ぶがん医療の質を向上する政策と臨床研究会」に登壇し、このような発表を行いました。

ハワイ、クィーンズメディカルセンターで外科部長兼がん委員会議長を務めるポール・モーリス医師、米国のがん臨床指標を詳しく解説

ハワイ、クィーンズメディカルセンターで外科部長兼がん委員会議長を務めるポール・モーリス医師、米国のがん臨床指標を詳しく解説

 またがん研究有明病院の門田守人名誉院長は、「がん医療の技術革新も重要だが、予後の良い早いステージでがんを発見すれば、現在の技術でも十分に対応できる」と述べ、今後のがん対策では「予防」「早期発見」に力を入れていくべきであると強調しました。

がん研究会有明病院の門田守人名誉院長、今後のがん対策では予防と早期発見に力を入れるべきと指摘

がん研究会有明病院の門田守人名誉院長、今後のがん対策では予防と早期発見に力を入れるべきと指摘

 なお、GHC会長のアキよしかわは、自らの体験を踏まえ、がん患者を総合的にサポートする「キャンサーナビゲーター」の資格を取得したことを発表しました。

「日本でも臨床指標を活用し、がん医療の質向上を」モーリス医師

 米国では、さまざまながんの臨床指標が設定されており、優れた病院では自院のパフォーマンスを公開しています。これにより患者は優れた病院を選択することができ、病院側には医療の質をより高めるインセンティブが働きます。

 GHCはかねてから「医療の質」の重要性を訴えており、今般、モーリス医師をハワイから招聘し、米国の取り組みを紹介していただきました。GHC社長の渡辺幸子は、「がん診療連携拠点病院の中でさえも大きなばらつきがある。臨床指標を活用し医療の質を高めることがわが国も必須の課題である」と強調しました。

GHC社長の渡辺幸子、わが国にも、がん医療の「質」を測定し、向上するために臨床指標導入の必要性を強調

GHC社長の渡辺幸子、わが国にも、がん医療の「質」を測定し、向上するために臨床指標導入の必要性を強調

 がん医療の質に着目した指標には、大きく(1)プロセス指標(2)アウトカム指標―があります。

 (1)のプロセスに関しては、▽CoC(米国外科学会がん委員会)▽NCCCP(米国国立がん研究所地域がんセンタープログラム)―などの団体がさまざまな指標を定めています。

 例えば乳がんでは、▽乳房温存手術後の放射線治療▽ホルモン受容体陰性乳がんに対する併用化学療法▽ホルモン受容体陽性乳がんに対する補助ホルモン療法―などがあります。CoCに加盟する米国の1500病院とQMCのパフォーマンスを比較すると、グラフのようになっており、QMCが優れた取り組みを行っている状況が伺えます。

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、乳がんの温存手術後の放射線治療を実施している

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、乳がんの温存手術後の放射線治療を実施している

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、ホルモン受容体陰性の性乳がん患者に対し化学療法を実施している

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、ホルモン受容体陰性の性乳がん患者に対し化学療法を実施している

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、ホルモン受容体陽性の乳がん患者に対してホルモン療法を実施している

クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟1500病院の平均に比べて高い割合で、ホルモン受容体陽性の乳がん患者に対してホルモン療法を実施している

 一方、若年のがん患者に対しては、がん治療が終了した後の生殖を可能とするために、精子や卵子の凍結保存などを行うケースが増えています。この妊孕性温存がどれだけ患者に説明されているのかを見ると、2014年にはQMCは0%であることが分かりました。モーリス医師は「この指標から患者に対して説明した記録をしっかりと残していないことが明らかになり、重要な学びを得た」と説明します。このように、臨床指標からは「自院の課題・改善すべき点」を把握することも可能になるのです。

クィーンメディカルセンターでは、「若年のがん患者に対して妊孕性温存の説明を実施していない(記録に残していない)」という課題が明らかになった

クィーンメディカルセンターでは、「若年のがん患者に対して妊孕性温存の説明を実施していない(記録に残していない)」という課題が明らかになった

 (2)のアウトカムに関しては、NSQIP(米国外科学会手術の質向上プログラム)などが指標を設定しています。例えば、▽術後呼吸器合併症▽術後尿路感染症▽術後30日以内の予期せぬ再手術▽ステージ別の5年生存率―などがあります。

 このうち「術後尿路感染症」に関する治療費については、米国では現在、償還の対象になっていません。これは「術後に尿路感染症の発生を防止することは病院の当然の義務で、それを怠ることは医療の質が低い」との考えに基づくものでしょう。下図のようにQMCは、NSQIPに加盟する病院全体の中でも優れた結果を残していることが分かります。他の指標でも同様の結果が出ています。

術後尿路感染症の発生割合は、クィーンズメディカルセンターでは米国の有力病院に比べてはるかに低い

術後尿路感染症の発生割合は、クィーンズメディカルセンターでは米国の有力病院に比べてはるかに低い

ステージ別に見た乳がん患者の5年生存率、クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟病院よりも良い成績を残している

ステージ別に見た乳がん患者の5年生存率、クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟病院よりも良い成績を残している

ステージ別に見た大腸がん患者の5年生存率、クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟病院と同程度あるいはそれ以上の良い成績を残している

ステージ別に見た大腸がん患者の5年生存率、クィーンズメディカルセンターでは、CoC加盟病院と同程度あるいはそれ以上の良い成績を残している

 さらにモーリス医師は、医師やケア・コーディネーターの関与が、治療成績に大きな影響を及ぼすという研究結果も発表しました。「医師の関与」や「ケア・コーディネーターの関与」の度合いを5つのレベルに区分し、治療成績との関係を分析したところ、「医師の関与が最も高い5レベルであると、低いレベル(1・2)に比べて2.13倍治療を早く開始できている」「ケア・コーディネーターの関与が高いレベル(4・5)では、低いレベル(1)に比べて死亡率が0.28倍にとどまる」ことなどが分かったのです。モーリス医師は「こうした指標を用いて自院の取り組みを見直すことで、がんの死亡率をより減少させることが可能になる」と見通しています。

モーリス医師の研究によれば、「医師の関与」や「ケア・コーディネーターの役割」が高いほど、良い治療成績に結びついている

モーリス医師の研究によれば、「医師の関与」や「ケア・コーディネーターの役割」が高いほど、良い治療成績に結びついている

 このような米国の状況を説明した上で、モーリス医師は「医療の質の責任は医師が負うべきだが、医師と事務部門との協力が極めて重要である」と訴え、日本においてもがん医療の臨床指標を設定して活用することで、より医療の質が向上すると期待を寄せました。

「がんの予防と早期発見が極めて重要」門田名誉院長

 研修会では、厚生労働省のがん対策推進協議会の会長でもある、がん研究会有明病院の門田守人名誉院長から「がん対策の歩みを振り返って」と題した講演も行われました。

 わが国のがん対策は、現在、第2期のがん対策推進基本計画に基づいて進められています。近く第3期の計画を策定するため、現行計画の中間評価が6月に行われ、門田名誉院長はその内容を詳しく紹介しています(関連記事はこちら)。

 門田名誉院長はその中で、「欧米では、組織型のがん検診が実施された1990年頃から乳がんの年齢調整死亡率が如実に減少しているが、わが国では上昇している」と指摘。これを改善するためには「早期発見」や「予防」に力を入れる必要性があると強く訴えました。

欧米では、乳がんに対して組織型健診を実施した1990年頃を境に死亡率が減少しているが、わが国では増加を続けている

欧米では、乳がんに対して組織型健診を実施した1990年頃を境に死亡率が減少しているが、わが国では増加を続けている

 また「わが国では、予後の芳しくないステージの高いがんについて、新たな治療法の研究開発が進んでいる(下図の1)。これは間違ってはいないが、若いステージでがんを発見すれば、現在の治療法で十分対処できる(下図の2)。こうした点をもっと重視するべきではないか」と指摘しました。

門田名誉院長は、ステージIVの治療成績を上げる技術開発も重要(1)だが、現在の技術で高い治療成績を挙げられるステージI、IIの患者を早期発見することがはるかに重要(2)と強調

門田名誉院長は、ステージIVの治療成績を上げる技術開発も重要(1)だが、現在の技術で高い治療成績を挙げられるステージI、IIの患者を早期発見することがはるかに重要(2)と強調

 さらに「予防に勝るがん治療はない」とも強調し、喫煙をはじめとする生活習慣の改善をより強力に推進し、がんの発症リスクを除去しなければならないとも訴えています。

GHCのアキよしかわ、日本初のキャンサーナビゲーターに

 研修会では、GHCの会長で、米国グローバルヘルス財団の理事長であるアキよしかわが、「がんの臨床指標の重要性」を訴えるとともに、GHCが医療の質の向上に取り組む病院をこれまで以上に支援することを発表しました。

GHC会長のアキよしかわ、がん治療の傍ら「キャンサーナビゲーター」の資格を取得し、今後ますますがん医療の質向上に向けた支援を行っていく考えを力説

GHC会長のアキよしかわ、がん治療の傍ら「キャンサーナビゲーター」の資格を取得し、今後ますますがん医療の質向上に向けた支援を行っていく考えを力説

 ところでアキは、昨年大腸がんであるが分かりました。11月にがん研有明病院で手術を受け、今年に入ってから米国在住の家族も来院しやすいハワイ州ホノルルにあるクィーンズメディカルセンターで化学療法を受けました。東京で仕事をした後、ホノルルに向かい化学療法を受け、また仕事のために東京に戻る。このハードスケジュールを半年近く繰り返したアキですが、「思っていたよりも厳しかった」と笑顔で報告しました。現在、無事すべての治療を終了しています。

 アキは講演の中で「自分ががん患者になって初めて分かったことがたくさんある。例えば、日本と米国では情報量の差がとても大きい。今後は日本でも、がん患者自らが情報を得られる環境を整備していく必要があるのではないか」と訴え、今回のセミナーを通じて「臨床指標を設定し、各病院がそれに基づいて自院のパフォーマンスを公開していく」ことの重要性を強調しました。

 さらにアキは、がん患者に対するサポートが極めて重要であることを痛感したといいます。米国の優れた病院では、がん患者をサポートするために「キャンサーナビゲーション」という、いわばコンシェルジュを配置しています。特別の研修を受けたナビゲーターが、患者の不安を察知して和らげたり、また経済的な支援が必要な患者には社会サービスの紹介などを行っています。

 アキは、このシステムに感銘を受け、クィーンズメディカルセンターで外来化学療法を受ける傍ら、研修に参加し、日本人で初めてキャンサーナビゲーターの資格を取得しました。「自分の闘病経験や研修で得た知見などを生かして、日本のがん医療の質向上にこれまで以上に貢献していきたい」と今後の抱負も熱く語りました。

キャンサーナビゲーター資格を取得したGHC会長のアキよしかわ(後段向かって左)と研修の同窓生一同。中央の胸像はクィーンズメディカルセンターを創設したエマ女王

キャンサーナビゲーター資格を取得したGHC会長のアキよしかわ(後段向かって左)と研修の同窓生一同。中央の胸像はクィーンズメディカルセンターを創設したエマ女王

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