短期滞在手術等基本料3の「水晶体再建術」、両眼と片眼で点数設定を分離―中医協総会
2015.10.14.(水)
短期滞在手術等基本料3(短手3)のうち、水晶体再建術やヘルニア手術(15歳未満)・腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(15歳未満)の点数設定を細分化することや、人工腎臓の点数を包括範囲から除外する―。こういった方向が、14日に開かれた中央社会保険医療協議会総会で概ね固まりました。
2014年度の前回診療報酬改定で、水晶体再建術など一定程度治療法が標準化し、短期間で退院可能な手術・検査について、入院5日目までに行われたすべての医療行為を包括して支払う仕組み(短期滞在手術等基本料3)が導入されました。ごく一部を除き、全包括の点数が設定されていることから、「DRG/PPSの本格導入の先駆け」とも評されています。
中医協の下部組織である「入院医療等の調査・評価分科会」では、16年度の次期診療報酬改定に向けて短手3をどのように考えていく、詳細なデータを基にした議論が行われ、「人工腎臓を出来高評価としてはどうか」「出来高実績にばらつきのある手術などは点数設定を細分化してはどうか」といった意見が出ていました(中間とりまとめ、関連記事はこちら)。
14日の中医協総会では、入院医療分科会の中間とりまとめかをベースにした議論を行い、次のような方向が概ね固まりました。
(1)診療報酬改定時に、出来高実績点数に応じた設定を行い、引き続き診療内容の標準化と効率化を図る
(2)水晶体再建術について、「両眼の手術」と「片眼の手術」に対する評価を分ける
(3)年齢により出来高実績点数の大きな差のみとめられる手術について、年齢によって評価を分ける
(4)人工腎臓は包括範囲から除外する
(5)新たに「経皮的シャント拡張術」「体外衝撃波腎・尿管結石破砕術」「ガンマナイフによる定位放射線治療」を短手3に加える
米国ではDRG/PPSが、わが国でもDPC/PDPSが導入されたことで、医療機関のコスト意識が急速に高まり、診療内容の標準化や効率化が進んでいます。
全包括評価の短手3が導入された結果、標準化・効率化は進んでいるのでしょうか。この点について厚労省の調査では「改定前後に、医療提供が一定程度効率化された」ことが明らかとなり、(1)のように今後も標準化・効率化を進める方向が決まっています。
具体的な点数設定は、DPCのように医療機関における診療内容(出来高実績)を基に行われることも明確となりました。したがって、効率化の進展によって短手3の点数はDPCと同様に全体としては下がっていくことになるでしょう(関連記事はこちら)。
もっとも一部の手術については、「点数設定が診療実態にマッチしていない」という医療現場からの指摘もあります。
たとえば水晶体再建術では、「両眼」「片眼」で同じ点数が設定されていることから、資源投入量(コスト)の大きな「両眼」手術はほとんど行われていません。このため、「長期間の入院」あるいは「複数回の入院」を余儀なくされている患者さんもおられます。
また、ヘルニア手術(15歳未満)や腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(15歳未満)については、患者の年齢によって資源投入量(コスト)が異なることも分かりました。
このため厚労省は、(2)と(3)のように点数設定の細分化を行う考えです。
なお、入院医療分科会では「乳腺腫瘍摘出術では、全身麻酔と局所麻酔の患者で資源投入量が異なる」というデータも出ましたが、次期改定では細分化は行われない見込みです。診療実態にマッチした点数設定はもちろん重要ですが、これらをすべて認めれば「診療内容の標準化」が行えません。将来的には、患者の状態などを見た上で、いずれかの麻酔に収れんしていくことが期待されていると考えることができそうです。
(4)は「人工腎臓は出来高算定を認める」ということです。この点について厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は「短手3の患者は最大で5日間入院することになるが、透析患者では、その入院期間中に1度は透析を受けることになる。すると、その医療機関では人工腎臓のコスト(1580点から2330点)を負担しなければならない」という事情を説明しました。
厚労省の調査でも、透析患者に対する短手3の出来高実績は、全体に比べて高くなっており、また、地域包括ケア病棟入院料などでも人工腎臓は包括外であることから、診療現場のニーズに応える見直しと言えそうです。
(5)は、新たな技術を全包括評価とするものです。▽在院日数のばらつきが小さい(平均+1SDが5日以内)▽診療内容のばらつきが小さい(入院5日以内の包括範囲出来高実績点数のばらつきが小さい)▽入院症例数が一定以上ある―という要件を満たした3つの技術が該当しました。
ただし、3技術のうち「経皮的シャント拡張術」について万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)は、「ほかの2技術に比べて、出来高実績のばらつきが大きい。14年度改定で導入した技術の中にも水晶体再建術のようにばらつきが大きく、次期16年度改定で細分化を行う項目があるようだが、その反省を生かして慎重に検討すべきではないか」と注文を付けています。
万代委員のほかに、短手3の見直しについて異論を唱えた委員は診療側、支払側ともにおられません。また、入院分科会では(1)から(5)以外の論点などは示されていないため、例えば「人工腎臓以外の出来高評価項目」や「(5)の3技術以外の新規技術」ながど今後浮上する可能性は極めて低いと考えられ、「見直し方向が概ね固まった」と言えそうです。
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