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要介護高齢者の維持期リハ、規定どおり2016年4月から介護保険へ移行―中医協総会

2015.12.2.(水)

 要介護高齢者の維持期リハビリ(運動器、脳血管疾患等)を、規定どおり2016年4月から介護保険へ移行させるという前提で、維持期リハの見直しを行う―。厚生労働省は2日に開かれた中央社会保険医療協議会・総会に、こういった方針を提示しました。

 委員からは明確な反対意見は出されておらず、要介護高齢者の維持期リハはついに介護保険給付に移行することになりそうです。

 厚労省は、移行を円滑に進めるために「一定期間、医療保険と介護保険の併走を認める」考えも示しています。

12月2日に開催された、「第316回 中央社会保険医療協議会 総会」

12月2日に開催された、「第316回 中央社会保険医療協議会 総会」

介護保険への移行に向けた準備は整ってきている

 リハビリテーションは、期間で見ると大きく「急性期」「回復期」「維持期・生活期」に分けられます。

 このうち「維持期・生活期」のリハは、「改善は期待できないまでも、状態の維持を目的としたリハ」と位置付けられ、現在は、医療保険から給付を受けることができます。しかし、厚生労働省は「維持期・生活期のリハは本来、介護保険で給付すべきではないか」との考えの下、古くから介護保険への移行を提案してきましたが、思うようには進みませんでした。

 2012年度の診療報酬改定では、「要介護被保険者における維持期リハは、医療保険ではなく、介護保険からの給付対象とすべき」との考え方が明確にされ、「要介護被保険者における、脳血管疾患等リハと運動器リハのうち維持期リハについては、14年度以降は介護保険給付とする」ことが決まりました。

 もっとも2014年度の前回改定では、介護保険への移行が「2016年3月まで」に延期されました。この背景には、「医療機関におけるリハ患者の中で、要介護被保険者は、数も割合も増加している」「患者の心理的抵抗が大きい」「医療機関の半数超は、人員確保などが困難として、通所リハ(介護保険)開設に消極的である」といった状況がありました。

 厚労省が、2014年度診療報酬改定の影響を調査したところ、こうした状況に大きな変化はないようです(関連記事はこちら)。

 しかし、厚労省がより詳しく調査分析を行ったところ、▽介護保険への移行が困難な患者は減少している▽介護保険への移行に「心理的抵抗がある」とされる要介護高齢者は、ADLが高く、リハ開始後もADLが大きく変化していない▽医療保険の維持期リハが長期化している(脳血管疾患等リハでは3年以上が半数)―ことが分かりました。極論すれば「比較的元気な高齢者が、長期間のリハを医療保険から受け、介護保険への移行に抵抗を感じている」という状況です。

介護保険への移行が困難と考えられる、維持期リハを受ける要介護高齢者は減少している

介護保険への移行が困難と考えられる、維持期リハを受ける要介護高齢者は減少している

介護保険への移行に「心理的抵抗感がある」と答える要介護高齢者の中には、ADLが高く、かつリハ開始からADLが変化していない人が多い

介護保険への移行に「心理的抵抗感がある」と答える要介護高齢者の中には、ADLが高く、かつリハ開始からADLが変化していない人が多い

 また、介護保険のリハ提供体制については整備が進んでおり、維持期リハが介護保険に移行しても報酬額での大きな減少はないなど、移行に向けた基盤整備はかなり整ってきています。

介護保険のリハ事業所(通所、訪問)の整備が急速に進んでいる

介護保険のリハ事業所(通所、訪問)の整備が急速に進んでいる

医療保険の維持期リハから介護保険のリハに移行した場合でも、報酬額の変化は小さい

医療保険の維持期リハから介護保険のリハに移行した場合でも、報酬額の変化は小さい

 こうした状況を踏まえ、厚労省は「要介護高齢者の維持期リハを、規定どおり2016年4月から介護保険給付へ移行する」ことを確認しています。この点、明確な反対意見は診療側・支払側の双方から出されておらず、16年4月からの介護保険への移行が決定したと言えるでしょう。なお、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「介護保険への移行は延長が繰り返され、これが病院間でのリハの質のばらつきを生む要因の1つと考える。今回は移行をしっかり行ってほしい」と要望しています。

 ところで、65歳以上の高齢者のリハビリがすべて介護保険に移行するわけではありません。介護保険へ移行するのは、次の4つの条件を満たす患者だけです。

(1)維持期である(脳血管疾患等リハであれば180日超、運動器リハであれば150日超)

(2)脳血管疾患等リハ、運動器リハに限定される(心大血管疾患リハ、呼吸器リハは医療保険給付が継続される)

(3)入院中以外の患者が対象である(入院患者へのリハは医療保険給付が継続される)

(4)要介護被保険者である(65歳以上であっても、要介護認定を受けていなければ医療保険給付が継続される)

 したがって、例えば「維持期の脳血管疾患等リハを外来で受けている要介護高齢者であっても、同時に心大血管疾患リハを受けている」場合には、心大血管疾患リハのみが医療保険から受けられることになります。(※脳血管疾患等リハも医療保険給付が継続されるとの記載を行っておりましたが、誤りです。お詫びして訂正いたします)

 厚労省は例外規定を下表のように整理していますが、「ほかにも介護保険への移行の例外とする場合がないか」と精査する見込みです。

介護保険への移行対象となるのは、(1)維持期の(2)運動器リハ・脳血管疾患等リハで(3)入院中以外の(4)要介護被験者に提供されている―ものである(その1)

介護保険への移行対象となるのは、(1)維持期の(2)運動器リハ・脳血管疾患等リハで(3)入院中以外の(4)要介護被験者に提供されている―ものである(その1)

介護保険への移行対象となるのは、(1)維持期の(2)運動器リハ・脳血管疾患等リハで(3)入院中以外の(4)要介護被験者に提供されている―ものである(その2)

介護保険への移行対象となるのは、(1)維持期の(2)運動器リハ・脳血管疾患等リハで(3)入院中以外の(4)要介護被験者に提供されている―ものである(その2)

医療保険リハと介護保険リハとの併用認め、円滑な移行につなげる

 もっとも厚労省は、介護保険への移行を円滑に進めることが必要と考えています。

 医療保険と介護保険では介護保険が優先され、また同じ行為(ここではリハ)を診療報酬と介護報酬の両方で評価することはできないため。現在は、医療保険のリハを終了するまで、介護保険のリハを受けられません(例外あり)。患者にとっては「介護保険のリハはどのようなものだろう。十分なリハを受けられるのだろうか」という不安が生じるケースもあります。また医療保険のリハスタッフも「介護保険ではどのようなリハを提供されるのか」が明確でないまま、リハを計画・実施しなければならないケースも少なくありません。

 こうした不安が、介護保険への移行を阻んでいることも考えられるため、厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は、移行をより円滑にするため「一定の条件の下で、医療保険のリハと介護報酬のリハの併走を認めてはどうか」とも提案しています。

 具体的には、次の2つの提案を行っています。

▽脳血管疾患等リハ・運動器リハを実施している要介護者について、標準的算定日数(脳血管疾患等リハは180日、運動器リハは150日)の3分の1が経過する日までを目安に、医師が「機能予後の見通しを説明」し、「患者の生きがいや人生観などを把握」し、それを踏まえて必要に応じて「多職種が連携してリハビリテーションの内容を調整する」とともに、将来、介護保険のリハが必要と考えられる場合には、「介護支援専門員と協働して介護保険によるリハを紹介し、見学、体験などを提案」することを評価する

▽この紹介・提案などが行われた後は、介護保険によるリハを「体験として必要な程度」、医療保険のリハと併用できるようにする

 また宮嵜課長は、「前者の取り組みを行わない場合には、疾患別リハの点数を見直す(点数を引き下げる)」考えも示しています。

 医師が、早期に要介護高齢者の状態を把握して、リハの内容を調整することを打ち出しており、これは介護保険におけるリハの見直し(機能回復だけではなく、活動や参加を見据え、医師がリハをマネジメントしていくことなどを評価)とも通じる考え方です(関連記事はこちら)。2018年度に予定される診療報酬・介護報酬同時改定に向けた大きな布石と見ることができそうです。

介護保険では、高齢者リハビリの考え方を再整理し、機能回復にとどまらず「活動」や「社会参加」を見据えた内容とすべきと考えている

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訪問・通所リハのマネジメントを再構築、他職種によるカンファレンスやPDCAサイクル構築など

訪問・通所リハのマネジメントを再構築、他職種によるカンファレンスやPDCAサイクル構築など

 この併走案は、診療側・支払側双方の委員が方向性を了承しています。もっとも診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は「標準的日数の3分の1が経過した時点では、その後の状況をしっかりと把握することは難しいケースもある。また、地域の実情はさまざまである。まず試行から始めてはどうか」と提案しています。

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