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中小規模病院の看護管理者向けに能力向上支援ガイド、課題をメリットと捉え魅力ある組織の構築を―厚労省

2016.2.25.(木)

 わが国の病院の82%を占める300床未満の中小規模病院では、大規模病院に比べて「職員数が少ない」「職員の年齢層が高い」などの課題・特徴がありますが、これは見方を変えれば「変革を起こしやすい」「経験が豊富である」というメリットでもあり、生き生きとした魅力ある組織を構築できる―。厚生労働省は24日に、「中小規模病院の看護管理能力向上を支援するガイド」(支援ガイド)を公表し、このような提案を行っています(厚労省サイトはこちら)。

 中小規模の病院では、地域住民に身近な医療機関として今後の地域包括ケアシステムの中でも非常に重要な位置を占めます。看護管理能力をより高めることで、今以上に質の高い医療を提供できると厚労省は期待しています。

「職員数が少ない」ことは「変化を起こしやすい」ことにつながる

 支援ガイドは、研修などを受ける時間的余裕のない中小規模病院の看護管理者を対象に、その能力を今以上に高めることを目指して作成されました。さらに支援ガイドを活用し、病院長や事務部門長などの院内からの支援、自治体や職能団体、グループ病院などの院外からの支援にも期待を寄せています。

 中小規模病院には、大規模病院に比べて「職員数が少ない」「職員の年齢層が高い」といった課題や特徴がありますが、見方を変えることを支援ガイドは提案します。例えば「職員数が少ない」「職員の年齢層が高い」といった点は、次のように読み替えることが可能です。

▽変化を起こしやすい(院長や他職種との距離が近く、変化を起こしやすい、組織の方向性を決めて即実行できる)

▽見えやすい、柔軟性がある(職員数が少ないから一人ひとりの声が聞こえる、現場で起こっていることを敏感に察知できる、組織の柔軟性が高い)

▽人を育てやすい(人数が少ないのでキャリア志向を捉えやすい、多様な人材の働く意味や価値を活かすことができる、新人看護職員の成長をみんなで感じることができる)

▽他部門と距離が近い(他部門との距離が近いので、一旦協力が得られれば連携が促進し、成果をあげることができる、他部門と協働する研修は、組織の一員としての学びの場になる)

▽離職は病院の課題を明確にし、地域看護に人材を循環させること

▽経験豊富なスタッフが多く、中途採用者が多い(中途採用者から自身の病院の組織文化に気づく機会が得られる、経験豊富な人材は、緊急時に動じず、対処できる強みを持っている、豊かな経験は看護実践をより向上させる核になる)

 さらに中小規模病院には、「地域、住民の生活に近く、住民から顔が見えやすい」「看護部長と院長・事務部門・他部門との距離が近く、他部門を含めた病院の方向性を決め、実践していく機会が多い」といった特長もあります。

 支援ガイドは、組織や人の強みに焦点を合わせることで、生き生きとした、元気がでる組織開発が可能になると強調しています。

中小規模病院の「特徴から特長へ」見方の転換の例

中小規模病院の「特徴から特長へ」見方の転換の例

ちょっとした声かけの実践で、スタッフとの信頼関係を構築

 このような中小規模病院ならではの特長・メリットを把握した上で、看護管理者にはどのような能力が求められるのでしょう。

 支援ガイドは次の4点がポイントになると指摘します。

(1)スタッフの身近にいて一人ひとりが力を発揮し成長していけることを目指す

(2)組織の中で看護職が専門職としての機能を発揮できるようにする

(3)看護管理のぶれない軸を持つ

(4)多様な人と繋がり、自ら仕事の経験を通して学ぶ

 (1)の「スタッフの身近にいる」という点に関しては、▽一人ひとりのスタッフを大切にし、安心できる信頼関係を築く▽スタッフそれぞれが、「看護が楽しい」と感じて働けるようにする▽看護の仕事にどんな能力が必要かを考えて、辛抱強く育てる▽多様なスタッフを大きなまとまりで捉えてみる▽スタッフが辞めないで働き続けることの大切さを理解し働きやすい職場をつくる▽スタッフの成長を信じて、地域で人を育てる―という具体的な留意点を挙げました。

 さらに、スタッフとの信頼関係を築くために「ラウンドの際に直接声をかけて近況をきく」ことや「休憩時間にのぞいて共通の趣味の話をする」など対話の機会を努めて持つことが重要と強調しています。看護管理者は極めて多忙ですが、こうしたちょっとした努力が信頼関係構築の上で非常に重要となります。

 また、多様なスタッフが長く働けるように工夫することも重要です。支援ガイド作成に当たりインタビューを行ったある病院では、「介護を理由に退職する人が増えないよう、高齢の親と一緒に車で出勤し、病院のデイケアセンターで1日を過ごせる」ような取り組みを行っているといいます。

「看護管理者」としてのぶれない軸を持つ

 (2)の専門職としての機能を発揮するためには、▽組織を大きな(マクロの)視点で捉え、その病院で仕事をする意味をつむぐ▽看護職が最大限能力を発揮できるように人材の配置を行う▽多職種の中で看護専門職の能力を発揮する仕事の仕方を作り出す▽実践経験を通してスタッフを育てる教育者の役割を果たす▽実践の場でマネジメントができる看護管理者を育てる―ことが重要と指摘します。

 また(3)の看護管理のぶれない軸については、▽病院の理念に基づく看護を提供することを常に考える▽自分を信じて毅然と意思決定する▽スタッフに語れる確固とした看護観を持つ▽人を大切にする―という視点を掲げました。

 スタッフとの信頼関係を築くことの重要性は述べるまでもありませんが、それはスタッフに迎合したり、受容的に接することを意味するものではありません。時には組織全体の統制や本人の成長を考え厳しく対応することも必要です。その際、管理者の言動がぶれてしまってはスタッフからの信頼は得られません。支援ガイドでは「確固とした看護観と経営の指針となる病院の理念の深い理解を基盤に、多角的な視点から情報を緻密に集めて状況をできるだけ正確にとらえること」が重要と強調しています。

外部からの訪問型支援体制を地域で構築することも重要

 看護管理者の能力を高めるためには、院内・院外からの支援も重要となります。たとえば院外の支援として、日本看護協会や都道府県の看護協会が開催する研修への参加などが考えられますが、人手不足の中小規模病院では難しいのも実際でしょう。

 そのため、中小規模病院において、看護管理者の能力向上に向けた支援を行うにあたり、「臨床の現場からなるべく離れることなく教育の機会が得られる」「臨床の現場で求められる能力やスキルに着目し、継続的に活用できる教育内容を考える」「看護管理者育成のための教育体制の基盤つくりを一緒に考える」という3つの視点が重要になります。

 支援ガイドではこの視点に立って、「看護管理の領域に知識のある看護教員や、支援に関心のある看護管理者」が3-5名のグループ(外部支援者)を作って中小規模病院を訪問し、看護管理者のニーズに合った組織開発をするとともに、課題解決の支援を行うという「訪問型の支援」を提案しています。地域によっては既にこういった取り組みが運用されており、日本全国でこういった支援体制が根付くことが期待されます。

中小規模病院の看護管理能力向上のための支援モデル

中小規模病院の看護管理能力向上のための支援モデル

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