「子どもの医療費を助成した市町村国保の国庫負担減額」する現行制度、見直しへ―子ども医療制度検討会
2016.3.22.(火)
現在、子どもの医療費を市町村の単独事業として助成(負担軽減矢免除)した場合、市町村国保への国庫補助が減額されているが、この減額措置の見直しに向けた検討を早急にすべきである―。
こういった取りまとめ内容が、22日に開かれた「子どもの医療制度の在り方等に関する検討会」で概ね了承されました。
2017年度からの制度見直しに向けて、今後、政府内、さらに社会保障審議会の医療保険部会で検討が進められる見込みです。
公的医療保険制度では、▽小学校入学前までは2割▽小学校入学以降70歳になるまでは3割▽70-74歳は2割(段階的に3割に引き上げ)▽75歳以上は1割―といった具合に一部負担が定められています。
しかし市町村が独自の判断で「子どもの医療費を助成する」ことが可能で、すべての市町村で何らかの医療費助成が行われています。
この医療費助成は「少子化対策の一環として重要である」といった肯定的な捉え方をする声もありますが、「過度の受診を促している可能性がある」「単なる自治体間のPR合戦になりつつある」といった否定的な意見もあります。もちろん検討会でも両論が出されており(関連記事はこちら)、22日の会合では次のような意見が出されました。
▽小児医療助成制度は、子育て中の親の経済的・心理的不安を解消する役割があり、過度な受診を抑制するためには「医療へのかかり方に関する知識」の啓発で対応すべき(前田正子構成員:甲南大学マネジメント創造学部教授)
▽自治体間での給付拡大(減額措置の拡大)競争が進んでおり、過度な競争防止の枠組みが必要(小黒一正構成員:法政大学経済学部教授)
▽無償化すれば後戻りができないので、慎重に検討すべきである。日本はそもそもフリーアクセスが保障されており、ここに無償化を組み込むことは慎重に考えなければいけない(小野崎耕平構成員:日医療政策機構理事)
このように賛否両論があるため、検討会では医療費助成の是非については判断を避けていますが、「統一的な基準を示す必要があるとの声も高まっている」と付言しています。
このため、例えば「未就学児については現行の2割よりも負担率を下げる」といった医療保険制度(健康保険法や国民健康保険法)を見直す方向は示されていません。
では、「市町村が行う医療費助成は●●の基準で行う」といったラインを国が引くことはあるのでしょうか。この点について厚労省保険局総務課の渡辺由美子課長は、「そもそも市町村の単独事業であり、国が決める性質のものではない」とコメントしています。統一的なラインは、例えば市長会や町村会で決めるべきテーマと言えるでしょう。
ところで、市町村が独自に医療費助成を行う場合、市町村国保に対する国庫負担が減額されます(減額調整)。
医療費の自己負担は受診行動に一定の影響を与え、自己負担が減れば受診回数が増える(逆の現象もある)ことが知られています(いわゆる長瀬効果)。市町村の単独医療費助成制度は、まさに自己負担を軽減するもので、これによる受診回数の増加、ひいては医療費の増加が見込まれるのです。この医療費増加分は「市町村が独自の判断で自己負担軽減をした結果生じている」のであるから、市町村が負担増分を賄うべきと考えられ、市町村国保への国庫負担が減額されているのです。
この倫理については「妥当である」との意見もあります。例えば小黒委員は「減額調整(助成をした自治体の負担で賄う)の考え方は基本的に適切」と指摘しています。
しかし市町村側はこの減額措置に対し「少子化対策に逆行している」と強い不満を持っており、検討会でも常に「廃止すべき」との意見が出されています。22日にも山本圭子構成員(栃木県保健福祉部保健医療監)や宮崎望構成員(三鷹市子ども政策部調整担当部長)、宮澤誠也構成員(聖籠町保健福祉課長)ら、自治体関係者は改めて「減額調整の廃止」を要望しました(2018年度から国保の財政責任主体が都道府県となるため、市町村だけでなく都道府県も廃止を要望している)。
こうした状況を踏まえ、検討会では「一億総活躍社会に向けて政府全体で少子化対策を推進する中で、要求に見直すべきとの意見が大勢を占めた」とする取りまとめを了承しています。もっとも検討に当たっては次のような点も考慮する必要があることが付記されています。
▽医療費無償化による受診拡大などが医療保険制度全体の規律や医療提供体制に与える影響
▽負担能力に応じた負担とする視点や、過度な給付拡大競争の抑制
▽小児科のかかりつけ医の普及、保護者などへの啓発普及、他の子育て支援策の充実など併せて取り組むべき事項
▽必要となる公費財源や財源の有効活用など財政再建計画との関係
ところで、自治体サイドは減額調整の廃止を求めていますが、これは国庫負担が増えることを意味します(2013年度ベースで、未就学時についての減額調整を廃止すると79.2億円の国費増、小学生についても減額調整を廃止するとさらに35.7億円増)。渡辺総務課長は「廃止の是非」には言及していませんが、「一定の見直しは行う必要があるのではないか」との見解を示しています。
この点、見直し(例えば減額調整の緩和など)に止まってもやはり国庫負担が増えることから、財政的な裏打ちが必要となります。山本構成員ら自治体サイドは「2017年度からの措置(廃止や見直し)」を求めており、17年度予算の概算が固まる今夏(2015年夏)までに政府内で調整が行われることになりそうです。
また、医療保険制度に関係するテーマでもあるため、検討会の取りまとめ内容は社会保障審議会・医療保険部会にも近く報告される予定です。
なお検討会の取りまとめには次のような内容も盛り込まれており、今後の諸施策(例えば診療報酬改定や医療計画見直しなど)にも反映されることになります(関連記事はこちらとこちら)。
▽診療時間外や救急における医療のかかり方に対する保護者の理解向上などを目指し、「地域の保健師などによる保護者への情報提供や啓発」「小児救急電話相談事業」などの一層の普及や、小児科のかかりつけ医機能を充実することが重要である
▽小児医療へのアクセスに留意した上で、高度先進医療などのさらなる集約化を推進する
▽中核医療機関と地域の小児科のかかりつけ医などの連携をはじめ、医療・福祉・保健・教育などの多職種がチームで対応していくことが重要
▽医療的ケアが必要な子どもや保護者を地域で支援する体制の構築が必要
▽妊娠期から子育て期にわたるさまざまなニースに対して切れ目のない支援を行う子育て世代包括支援センター(日本版ネウボラ)の整備なども重要
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