新専門医制度で地域の医師偏在が進まないよう、専門医機構・都道府県・国の3層構造で調整・是正―専門医の在り方専門委員会
2016.3.28.(月)
新専門医制度において医師の地域偏在が生じないよう、国と都道府県が専門医研修プログラムをチェックし、必要があれば是正を促す―。
このような方針が、25日に開かれた社会保障審議会・医療部会「専門医養成の在り方に関する専門委員会」で厚生労働省から報告されました。
「専門医資格の標準化を行い、より質の高い医療提供を行ってもらう」という方針の下、来年(2017年)4月から新たな専門医の養成が開始される予定です。
専門医の養成プログラムを認証と、専門の認定を行う公正・中立な第三者機関「日本専門医機構」では、新制度の開始に向けた準備を進めており、現在、大学病院などの基幹施設から養成プログラムの申請を受け付けています。
しかし、病院団体などから「養成プログラムを見ると、連携施設となる基準が厳しすぎる。これでは地域医療の現場から、専門医を目指す若い医師が離脱してしまい、地域の医師偏在が拡大してしまう」との指摘が出てきました。このため社会保障審議会・医療部会は2月18日に、日本専門医機構から状況報告を受けましたが、一部委員から「地域の医師偏在是正が不十分である。新専門医の養成開始は延期すべき」との強い意見が出されたため、部会の下に「専門委員会」を設置し、課題解決に向けた議論を行うことになったのです。
25日に開かれた専門委員会の初会合では、厚労省から「医師偏在を生じさせないための調整方針」が報告されました。そこでは、大学病院などから申請された養成プログラムについて(1)日本専門医機構(2)都道府県(3)厚労省―の3層構造で「地域の医師偏在の有無」を検証し、調整することが明確にされました。
(1)の日本専門医機構では、プログラムの審査にあたり▽大病院のみ・特定の医療グループのみというプログラムは認めず、是正を求める▽必要な「地域医療の研修」が含まれていることを確認し、調整する▽「過去5年間に研修実績のある医療機関」が連携施設から漏れていないかを確認し、調整する▽診療領域ごとに、研修施設のない2次医療圏が出ないように調整する▽都市部に専攻医が集中しないよう募集定員を調整する―といった取り組みを行います。
(2)の都道府県は、日本専門医機構から養成プログラムの申請状況などについて報告を受け、大学・基幹施設・連携施設・医師会・病院団体・都道府県などの関係者で構成される「協議会」において、▽地域医療確保の観点から必要な施設が漏れていないか▽プログラムの改善が必要ないか―などを議論。そのうえで日本専門医機構に必要な改善などを求めます。
(3)の厚労省は、都道府県からの報告を受け、専門委員会で「基準の見直しが必要ないか」を検討するとともに、日本専門医機構や都道府県の調整を支援します。
(2)の協議会については、1月18日に都道府県宛てに通知が出されていますが、全国衛生部長会の調べでは、開催済が16自治体、場の設置(未開催)が13自治体、未設置が18自治体となっています。このため厚労省医政局医事課の渡辺真俊課長は「再度、」都道府県に宛てて協議会の設置などを求める通知などを発出したい」と説明しています。
25日の専門委員会には、日本専門医機構から(1)の取り組みについて具体的な内容が報告されました。
例えば外科領域では、▽連携施設でも最低6か月以上の研修を必須とする(基幹施設だけでの研修は不可)▽これまで外科学会の修練施設のうち申請プログラムの含まれていないところには照会とプログラムへの参加仲介を行う▽専攻医受入上限数が少ない小規模病院へ配慮した定員調整を行う▽研修施設のない2次医療圏(当初は14医療圏)について、これまで外科学会の修練施設であったところに「連携施設となることの希望」の有無を照会する▽500床以上の大病院のみのプログラムに対し地域の中小病院と連携するよう勧告する―といった地域医療への配慮がなされています。
また産婦人科領域では、▽産婦人科医師の不足地域では、専門医が1名いれば連携施設として認める(通常は指導医1名以上の常勤が必要)▽これまでに研修指導施設であったところが、プログラムから漏れている場合には、追加募集の案内や個別確認を行う▽専攻医の大都市集中が進まないように「過去の実績に見合った募集定員」となるよう調整する―といった取り組みが行われています。
さらに整形外科領域では、▽地域医療施設での3か月間の研修を必須とする▽地域部の募集定員を都市部よりも優遇する(都市部は過去5年間実績の1.2倍まで専攻医を募集できるが、地方部では過去5年間実績の2倍までの募集を認める)―など、地域の医師偏在を進めないような配慮をしています。
専門委員会では、今後、他の領域(総合診療専門医など)からも状況報告を求める考えです。
このような「地域の医師偏在」への配慮が報告されていますが、専門委員会では厳しい意見が出されています。
森隆夫委員(日本精神科病院協会常務理事)は、「学会の会員からも異論が出ている。日本専門医機構はその声を真摯に受けとめてほしい」と強い口調で指摘。
今村聡委員(日本医師会副会長)や山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)らは「都道府県が地域偏在是正の支援をする方針だが、都道府県には温度差がある」と指摘。これに対し厚労省医政局の神田裕二局長は「県の担当者に協議会の設置や、プログラムの要請に積極的に乗り出してもらうよう強く要請している」ことを説明した上で、厚労省の調整に尽力する考えを強調しています。
また末永裕之委員(日本病院会副会長)は、「新専門医制度の目指すところには誰も異論がないはずだ」とした上で、「大学病院と地域の中小病院では『地域医療』に対して、少し視点が異なる部分があるようだ。これを補完するために都道府県に協議会が設置されてきているが、まだ懸念は払しょくできていないのではないか」とコメントしています。
新専門医についてはボタンの掛け違えから感情的な議論になってしまう面もありましたが、25日の専門委員会では全体としては「課題を是正し、よりよい制度にしていこう」という建設的な議論を行う方向に流れが向いているようです。神田医政局長は「行政は『出過ぎない』ようにしているが、専門委員会でコンセンサスが得られるよう調整の労を厭わない」と述べており、今後もより「建設的な議論」が行われるよう期待したいところです。
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