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介護職員処遇改善加算Iを届け出た事業所、要件上回る1万3170円の給与増―介護給付費分科会

2016.3.30.(水)

 2015年度の介護報酬改定で新設された「介護職員処遇改善加算I」を届け出た事業所は、要件となっている「加算II(従前の加算I)の給与増に加え、さらに1万2000円相当の給与増」を超える1万3170円の給与増を行っている―。

 このような調査結果が、30日に開かれた社会保障審議会の介護給付費分科会、および分科会の下に設けられた「介護事業経営調査委員会」に報告されました。

3月30日に開催された、「第128回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

3月30日に開催された、「第128回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

加算Iは1万2000円の給与増が必要で、実際には1万3170円の給与増に

 一般に「介護職員の給与は労働内容に比べて低い」と指摘され、これが介護人材の確保・定着を難しくする一因になっていると考えられます。厚生労働省もこの点を重視し、2009年10月から、介護職員の給与を1万5000円程度引き上げることを条件に支給される補助金「介護職員処遇改善交付金」を設置。さらに2012年度の介護報酬・診療報酬同時改定で、交付金を引き継ぐ形で「介護職員処遇改善加算」が新設されました(関連記事はこちら)。

 2015年度の介護報酬改定では、さらなる雇用の確保・定着を狙って、より手厚い「介護職員処遇改善加算I」が新設されています。この加算Iを算定するためには、加算II(従前の加算I、1万5000円程度の給与増が必要)よりも、さらに1万2000円程度給与を引き上げることが必要となります(都合、加算を算定していない状況から2万7000円程度の給与増が必要となる)。

介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された

介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された

 厚労省は今般、2015年度の「介護従事者処遇状況等調査」を実施し、加算の算定状況や実際に介護職員の給与がどう変化したかなどを調べています。30日に報告された調査結果によれば、加算Iを算定している介護施設・事業所では、改定前(2014年9月)と改定後(15年9月)で平均給与額(基本給+諸手当+賞与の1か月相当分)が1万3170円増加したことが分かりました(改定前27万4250円、改定後28万7420円)。

 この結果を受けて厚労省老健局老人保健課の佐原康之課長は、分科会で「加算Iの要件を上回る給与引き上げがなされており、全体として効果が出ている。また、要件を上回る給与増(1170円分)は施設・事業所の努力によるもの」とコメントしています。

 分科会・調査委員会の委員も概ね同様の意見で、「全体として効果が出ている」と加算Iの効果を評価しています。

 また加算I-IV(介護職員処遇改善加算は4区分ある)を算定している施設・事業者全体で見ると、給与増は1万2310円(改定前27万2100円、改定後28万4410円)となっています。

介護療養では処遇改善加算の算定は6割強にとどまる

 介護職員処遇改善加算は、全体の88.5%の事業所で算定されていますが、サービス種類によってバラつきがあり、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設、97.7%)や認知症対応型共同生活介護(95.8%)、介護老人保健施設(93.1%)では高いことが分かりますが、介護療養型医療施設では63.1%に止まっています。後述するように「対象者の制約」がハードルとなっている可能性があります。

 加算を算定している事業所について、どの加算を算定しているのかを見ると、加算Iが最も多く75.1%、加算IIが20.8%、加算IIIが1.2%、加算IVが1.6%という状況です。特養ホームでは「加算Iが84.9%、加算IIが12.4%」、介護療養では「加算Iが58.3%、加算IIが36.0%」となっているほかは、サービスによる大きな差はありません。

定期昇給、手当の引き上げなどを行っている施設・事業所が半数超

 介護職員処遇改善加算を算定するためには、前述のように給与を引き上げたり、職場環境を改善することが必要です。

 調査では給与などの引き上げをどのように行っているのかも調べています。それによると、「定期昇給」が最も多く59.8%、次いで「手当の引き上げ、新設」50.3%、「賞与などの引き上げ、新設」19.1%、「給与表の改定」17.9%(複数回答)という状況です。

 ただし伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は「一時金を引き下げ、それを原資に給与引き上げを行うことで加算Iを算定しているケースもあると聞くが、趣旨に合わない」と強く指摘しています。

多職種が従事するサービスでは、「介護職員だけの給与増」が困難な面も

 このように介護現場で広く算定されている介護職員処遇改善加算ですが、全体では1割弱(介護療養では35.4%)が算定していません。

 その理由について調べたところ、▽事務作業が煩雑(45.4%)▽対象の制約(32.1%)▽利用者負担増(36.7%)―などが理由として挙げられています(複数回答)。

 このうち「対象の制約」とは、例えば介護療養などさまざまな職種が従事しているところにおいて、介護職員のみの給与を引き上げることは困難といった内容です。調査委員会では、千葉正展委員(福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループグループリーダー)は「職種限定で給与引き上げを求めるという枠組みが困難になっているのかもしれない」と指摘し、今後、詳細が分かるような調査設計をすることを提案しました。

 このテーマは、事業所内だけでなく、同一法人内の事業所間で問題となる可能性があります。調査委員会で藤井賢一郎委員(上智大学准教授)は、「社会福祉法人では介護事業以外にも、保育事業などを展開しており、介護事業所だけの給与増が難しい面もあるのではないか」と指摘しています。

 こうした意見は、2018年度の次回改定で介護職員処遇改善加算を見直す祭に、極めて重要な視点となりそうです。

加算Iの最大のハードルは「キャリアパス要件I」、今後、詳細に分析

 また前述のように、加算を算定している施設・事業所の4分の3は加算Iを算定していますが、逆に言えば4分の1は加算Iの算定に何らかのハードルがあると感じていることが分かります。

 ちなみに加算Iを算定するためには、給与引き上げのほか▽職位・職責・職務内容に応じた任用要件・賃金体系の整備(キャリアパス要件I)▽資質向上のための研修実施や機会の確保(キャリアパス要件II)▽職番環境改善(職場環境等要件)―のすべてを満たすことが必要です。

介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された

介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された

 このうちどの要件が難しいのかを調べたところ、もっとも多いのがキャリアパス要件Iで60.0%、次いでキャリアパス要件II(21.0%)、職場環境等要件11.5%(複数回答)となっています。

 厚労省は、今後、より詳細な分析を進め、例えば「キャリアパス要件Iの中で、具体的に何がハードルになっているのか」などを可能な限り洗い出す考えです。

 これに関連して、給与など以外にどのような処遇改善が行われているのかを見ると、資質向上については「介護福祉士を目指す人への実務者講習受講支援」などを66.7%の施設・事業所が実施、労働環境などについては「事故・トラブルへの対応マニュアル作成と責任所在の明確化」(79.3%)、「個々の職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善」(78.4%)、「健診や休憩室の整備など」(75.1%)などを行っている施設・事業所が多いことも分かりました。さらに、非正規職員から正規職員への転換も67.7%の施設・事業所で進められています。

介護福祉士とそうでない介護職員、一律に「介護職員」と捉えるべきか

 ところで調査委員会では、「介護職員を一括りにして処遇改善を検討すべきなのか」という点での議論も行われました。

3月30日に開催された、「第17回 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会」

3月30日に開催された、「第17回 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会」

 藤井委員は「介護職員の中には専門性の高い人と、そうでない人といるのが実際で、両者が一体として処遇改善の対象となっている。介護福祉士の資格を保有している介護職員にとって、一連の処遇改善は納得のいく内容となっていない可能性がある」と指摘。

 また堀田聰子委員(国際医療福祉大学大学院教授)は、「専門性の発揮を評価する仕組みは重要である。しかし、現在は介護福祉士の資格と、現場で発揮することが求められている能力との間にギャップがある可能性がある」と述べ、今後、より精緻な議論をしていく必要があるとしました。

 一方、分科会では齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)から「介護職員処遇改善加算の趣旨は雇用の確保・継続にある。給与増だけでなく、雇用状況がどうなっているのかも検証する必要があるのではないか」との指摘が出されました。加算の効果を測定する指標について、より趣旨・目的に即したものとすべきとの提案です。

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