Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 病院ダッシュボードχ zero

支払基金の改革案に批判続出、「審査支払い能力に問題」の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会

2016.5.24.(火)

 社会保険診療報酬支払基金から(1)徹底した効率化を通じた審査支払の充実(2)ビッグデータを活用した健康増進、疾病予防への貢献(3)ICTを活用した成果の最大化―という3本を柱とした改革案が、23日に開かれた「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」に示されました。

 しかし構成員からは、「数値が実際と大きく異なっている可能性がある」「改革実現までの期間が明示されていない」などの批判が続出。一部構成員からは「支払基金には審査支払を担うにあたっての能力に問題があるのではないか」という旨の指摘まで出されています。

5月23日に開催された、「第2回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」

5月23日に開催された、「第2回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」

支払基金から「コンピュータ審査での完結」や「審査基準公開」などの改革案

 検討会は、▽保険者機能強化と医療の質の向上▽審査の効率化・統一化の推進と組織体制―の2点について議論を行うために設置されました(関連記事はこちら)。

 23日の検討会では、後者の論点について社会保険診療報酬支払基金(支払基金)から「改革案」が報告されました。

 支払基金は、主に被用者保険加入者にかかる診療報酬の審査支払などを行う公的機関ですが、「審査基準に支部間(都道府県ごとに支部が設置されている)の大きな差異がある」「国民健康保険団体連合会(国保連、主に国保加入者に係る診療報酬の審査支払を担う)との間でも審査基準に大きな差異がある」「審査体制に非効率な部分がある」などの指摘がなされています。政府の規制改革会議は、こうした状況を踏まえ「診療報酬の審査について、現在の支払基金を前提とした組織・体制の見直しにとどまらず、ゼロベースで抜本的に見直すべき」といった内容の提言を行っています。

 支払基金では、これを重く受け止め自ら次のような内容の改革案をまとめ、23日の検討会に報告したものです。

 改革の柱は(1)徹底した効率化を通じた審査支払の充実(2)ビッグデータを活用した健康増進、疾病予防への貢献(3)ICTを活用した成果の最大化―の3本。

 このうち(1)の効率化に向けては、「コンピュータ段階での審査の完結」「審査のチェック項目の公表」「審査基準の統一化」「手数料の複数設定」などを行う考えで、具体的には次のような目標も示しました。

▽受け付け前の「事前チェック項目」の拡大:「主傷病の記載漏れ」など返戻が明らかなレセプトは受け付けず、医療機関に返却する

▽受け付けたレセプトについて審査を次の4区分とし、コンピュータチェックの精度向上などを図る

 (i)「初診料のみ」の請求など、簡素なコンピュータ審査で完結するもの(現在はゼロだが、全体の10%程度にまで引き上げる)

 (ii)「初診から1か月以内の特定疾患療養指導料の算定」など、徹底的なコンピュータチェックで審査を完結するもの(現在は65%程度、将来は(iii)とあわせて70%+αに引き上げる)

 (iii)「通院・在宅精神療法の退院日記載」を目視確認しているものなど、コンピュータチェック後に支払基金職員が目視し、審査を完結するもの(現在は15%程度、将来は(ii)のコンピュータ完結への移行を目指す)

 (iv)審査委員(医師)による審査を行うもの(現在は20%程度、将来は20%-αに引き下げる)

 あわせて、「統計分析などに基づく統一審査基準を設け、合理的説明のつかない支部間差異の解消する」「統一的、客観的な判断が可能なコンピュータチェック項目の公表(統計的に70%以上査定されている項目など)」なども行う考えを打ち出しています。

構成員から「改革期限」や「目標数値」について批判相次ぐ

 こうした改革案に対し、規制改革会議メンバーでもある構成員からは厳しい意見が相次ぎました。

 森下竜一構成員(大阪大学大学院医学系研究科寄付講座教授加算)は、「審査基準をなぜすべて公表しないのか」「改革の期限しめされていない。これでは『改革しない』と言っているのと同じことである」と指摘。実効性のある目標を立てられないのであれば審査支払業務を担当する能力がないと判断せざるを得ないとの厳しい見解も示しています。

 金丸恭文構成員(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長)は、「審査委員会(医師による審査)で得られた知見をコンピュータに蓄積することで、審査委員会の業務は徐々に減っていく」と指摘し、『20%-α』という(iv)の目標値が甘いのではないかと述べました。

 さらに飯塚正史構成員(元明治大学大学院客員教授)は、自身がレセプトをベースに研究してきた経験を踏まえて、▽コンピュータチェックで付箋のつかないレセプトが約94%▽付箋のついたレセプトのうち職員チェックで付箋が外れるものが約5%▽審査委員が実際にチェックするのは約0.8%―という数字を提示。その上で支払基金が提示した数字は「うそ」ではないかと強く非難しました。

 

 支払基金自ら、これまでにない改革案を示したことは評価に値します。ただし、構成員との間で見解に相違があることから、今後、さらに改革内容を詰めていくことになります。

 なお、飯塚構成員の指摘した数字と、支払基金が示した(i)~(iv)の目標値には大きな乖離があるため、数字の確認なども行われる見通しです。この点について厚労省保険局総務課の渡辺由美子課長は、メディ・ウォッチに対して「数字の定義が異なっている可能性があり、そこをすり合わせることが必要」とコメントしています。

韓国の審査支払機関HIRA、病院の診療実績などを国民に公表

 23日の検討会では、レセプトデータの活用に向けて、廉宗淳氏(E-Corporation.JP株式会社代表取締役社長)から「韓国の健康保険審査評価院」について、満武巨裕氏(医療計画研究機構研究副部長)から「諸外国の医療ビッグデータ」について報告も行われています。

 韓国の審査支払機関である「健康保険審査評価院」(HIRA)では、レセプトの審査を行うとともに、そのデータを「医療の質向上」に活用しています。例えば「風邪の患者に対して抗生剤を使用している割合」を分析し、処方の多い医療機関には徹底した指導を実施。その結果、診療所では2002年に72.9%であった抗生剤の使用割合が、2012年には46.0%となり、実に26.9%も適正化されています。

 また、がんをはじめとする疾病の治療実績などが、広く国民に病院の実名入りで公開されており(スマートフォンでの閲覧も可能)、国民がこの情報をもとに医療機関を選択することが可能になっているといいます。

 こうした事例を参考にしながら、我が国においてレセプトデータ・特定健診データ(NDBデータ)などをどう活用していくのか、また活用に向けてどのような方策が必要なのかを議論していくことになります。

【関連記事】
診療報酬審査ルールの全国統一、審査支払機関の在り方などをゼロベースで検討開始―厚労省が検討会設置
診療報酬の審査を抜本見直し、医師主導の全国統一ルールや、民間活用なども視野に―規制改革会議WG
ゲムシタビン塩酸塩の適応外使用を保険上容認-「転移ある精巣がん」などに、支払基金
医療費適正化対策は不十分、レセプト点検の充実や適正な指導・監査を実施せよ―会計検査院
レセプト病名は不適切、禁忌の薬剤投与に留意―近畿厚生局が個別指導事例を公表
16年度診療報酬改定に向け「湿布薬の保険給付上限」などを検討―健康・医療WG
団塊ジュニアが65歳となる35年を見据え、「医療の価値」を高める―厚労省、保健医療2035

病院ダッシュボードχ zero