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軽度者への生活援助、保険給付のあり方などめぐり激論続く―介護保険部会(1)

2016.7.20.(水)

 軽度者への生活援助サービスについて、介護保険給付のあり方をどう考えるのか、市町村の地域支援事業へ移管すべきなのか―。

 20日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会では、このテーマについて委員間で激論が交わされました(関連記事はこちら)。

 生活援助サービスによって重度化が予防されており介護保険給付として継続すべき意見もあれば、介護保険財政を考慮すれば給付の重点化は必須で、見直すべきであるという意見もあり、着地点はまだ見えていません。

7月20日に開催された、「第60回 社会保障審議会 介護保険部会」

7月20日に開催された、「第60回 社会保障審議会 介護保険部会」

介護費の伸びが著しい中、骨太方針が「軽度者への介護保険給付」見直しを要求

 少子高齢化の進展とともに社会保障費、とくに介護費の伸びが我が国の財政を圧迫していると指摘されています。そうした中で、我が国の経済・財政の運営指針となる骨太方針2015(経済財政運営と改革の基本方針2015、2015年6月に閣議決定)では、「軽度者に対する生活支援サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行、負担のあり方を含め、関係審議会等において検討」するよう指示しています。

 「軽度者」が何を意味するのかは明確にされていませんが、一般に要介護2以下の人と考えることができそうです。このうち要支援者については、2014年の介護保険制度改正の中で「訪問・通所介護サービスを介護保険給付から市町村の行う地域支援事業に移管する」という見直しが行われています。

 したがって、次期介護保険制度改正においては、(1)要介護1、2の人に対する生活援助サービス(2)要介護1、2の人に対するその他の介護保険サービス(3)要支援者の訪問・通所介護以外のサービス―の3点について、どのような取扱いとするのかが重要なテーマになると言えます。(1)は骨太方針2015で、いわば「名指し」で検討するよう指示された格好です。

介護人材確保が難しい中で、「生活援助」を専門性の高い介護福祉士が担うべきか

 軽度者への生活援助サービスについては、「重度化予防に重要である」と考えられていますが、「重度化予防に必ずしも繋がっていないのではないか」という指摘もあります。厚生労働省老健局振興課の三浦明課長は、この点について次のような課題があると説明しています。

(a)訪問介護の内容は、要介護度が高くなるに従って身体介護中心型の割合が高くなる(逆に言えば、軽度者は生活援助の比率が高い)【生活援助中心型の比率は、要介護1で53.3%、要介護3で30.1%、要介護5で11.2%。身体介護中心型の比率は、要介護1で24.6%、要介護3で43.8%、要介護5で67.4%】

(b)生活援助の中身を見ると、「掃除」「一般的な調理・配膳」の割合が高い【生活援助中心型では、掃除の割合が平均75.2%、一般的な調理・配膳の割合が平均65.5%。身体介護中心型+生活援助加算でも、掃除が平均70.3%、一般的な調理・配膳が平均61.2%】

(c)民間シンクタンクの調査によれば、訪問介護事業所の管理者の8割は「生活援助は介護福祉士でない者でも実施できる」と考えているが、介護福祉士の7割が「ほぼ毎回のサービス提供の中で生活援助を実施している」のが実態である

 いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて介護・慢性期医療ニーズが飛躍的に高まることが確実ですが、それを担う人材、特に介護人材不足が深刻とされている中で、(c)の状況は、「専門性の高い介護福祉士という人的資源の有効活用」という点で大きな問題とも思えます。この点のみを重視すれば骨太方針2015にあるように、必ずしも介護福祉士などの専門家でない「多様な主体」によるサービス提供のほうが好ましいと考えられそうです(地域支援事業への移管)。

 また(a)(b)を重視すれば、貴重な介護保険財源(費用は公費と保険料)を「掃除などに充てるべきだろうか」という疑問も出てきます(そもそも保険給付とすべきかの検討)。

介護提供側は「身体介護と生活援助は一体」として、介護保険での給付維持を要望

 こうした状況も踏まえ、20日の介護保険部会では「軽度者の生活援助サービスのあり方」をめぐって議論が行われましたが、さまざまな意見が出されました。

 まずサービス提供側の委員は、「軽度者の生活援助」について、現行の介護保険給付を継続すべきと考える人がやはり多いようです。

 石本淳也委員(日本介護福祉士会会長)の代理として出席した及川ゆりこ参考人(同会副会長)は、前述の(c)について「訪問介護員は生活援助においても自立支援や重度化予防の視点でサービスを行っており、専門性が必要である」と述べています。

 また馬袋秀男委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、「訪問介護は身体介護と生活援助を一体として提供するサービスである」と指摘。例として「いわゆるゴミ屋敷において適切なケアは実施できない」ことを強調しています。また(a)について、「生活援助の『時間』は要介護度が高くなっても変わらない。身体介護の時間が増えるために生活援助の割合が低くなっている」と説明し、生活援助は軽度者から重度者まで一貫して必要な介護保険サービスであることを強調しています。

費用負担側は「持続可能性」を重視し、「見直しは待ったなし」と主張

 一方、介護費を負担する側の委員からは、介護保険制度の持続可能性を維持するために見直しを求める意見が出されました。

 佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は、「重度者と軽度者でメリハリのついた給付を行わざるを得ない。軽度者への生活援助が重度化予防に役立っているというのであれば、そのエビデンスを示す必要があるのではないか」と述べ、軽度者の生活援助見直しを早急に行うべきと求めています。

 また小林剛委員(全国健康保険協会理事長)は、「給付の重点化(重度者への集中)と効率化が不可欠である。軽度者への給付のあり方は創設時からの課題である」ことを強調し、やはり見直しを要望しました。

要支援者への訪問・通所介護、市町村の地域支援事業へ移管されたが、その検証は

 ところで多くの委員からは、「要支援者に対する訪問・通所介護の地域支援事業への移管」についての検証が必要との声も出ています。

 前述のように、要支援者に対する訪問・通所介護については、やはり生活援助のニーズが高く、より多様な主体によるサービス提供が好ましいとの考えから、2014年の介護保険制度改正で、介護保険給付から市町村の地域支援事業への移管が行われました。ただし、市町村側の準備やサービス提供体制の整備、制度改正の周知などに時間がかかるため、完全移行は2017年4月からとされており、今年(2016年)4月までに実施できているのは全体の3分の1にとどまっています。

 こうした状況から、齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会乗務理事)や陶山浩三委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)らは「地域支援事業への移管の効果・影響について検証もできない段階で、次のステップ(要支援1、2以外のサービスの地域支援事業への移管)へ進むことは時期尚早である」と指摘しています。

 また地域支援事業の担い手でもある大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は、介護保険から地域支援事業へのサービス移管は「コミュニティの再生」と密接に関連していると指摘します。

 この点、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)も「介護保険創設以来、何でも介護保険という風潮が強くなってしまった」とし、大西委員と同様に「地域の再生」が重要と指摘したうえで、「要支援者のサービス移行が完了してから、軽度者(鈴木委員は要介護1をまず軽度者とすべきとも提案)のサービス移行を行うべき」と述べています。

 コミュニティの再生には相当の時間がかかるため、こうした指摘を重視すれば「地域支援事業への移管の検証」も当面行うことはできそうにありません。この点、佐野委員は「地域支援事業への移管の効果を見極めることは重要だが、制度の持続可能性維持を考慮すれば時間がない」として、「検証を待ってから議論」というスケジュール感に強く反発しています。

 

 なお武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「軽度者にとってもっとも重要なのは『筋力低下』『関節可動域の縮小』『低栄養(フレイル)』への対策である。これが現在の訪問介護で十分に行えているだろうか」と疑問を呈したうえで、「生活援助の地域支援事業への移管」などよりも広い視点で、軽度者への介護サービスのあり方を見直すべきと提言しています。

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