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若者の人生変える恐怖の請求額―日米病院、ここが変だよ(1)

2017.6.19.(月)

 日本と米国の病院は、制度や組織、そこで働く医療従事者たちの考え方も大きく異なります。そのため、双方にそれぞれが学ぶべき点がある一方、理解できない点もあります。そんな日本と米国の病院における「ここが変だよ」というポイントについて、日米の医療や制度について研究するとある米国の医師が、日米双方の視点から解説します。初回は、若者だったら人生が変わってしまうほどの高額請求をされることもある、米国の医療費についてです。

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入院1日で110万円の支払い

 筆者が日米の医療や制度を比較し、最も興味を持っているのは「バラつき」です。中でも、「日米における術後アウトカムのバラつき」に関する研究(図表1)は、米国では医療費のバラつきが大きいが、日本は術後死亡率や術後合併症などの医療の質におけるバラつきが大きいことが分かり、衝撃を受けました。米国の医療費は、具体的にどういった問題を抱えているのでしょうか。

(図表1)日米における術後アウトカムのバラつき

(図表1)日米における術後アウトカムのバラつき

 米国は国民皆保険制度や高額療養費制度がある日本と異なり、無保険者もいれば、高額な医療に対する支払い額の上限もありません。例えば、無保険者が急な腹痛で病院に6時間ほど滞在し、画像検査と診察、薬の処方を受けて帰宅したとします。それだけで、いくらの支払いになると思いますか。処置内容や病院にもよりますが、筆者が入手した請求書には120万円と明記されています(写真1)。ある日本人が米国で盲腸となり緊急手術をした際は、2日の入院で280万円を請求されたといいます。

(写真1)ある無保険者が受け取った請求書

(写真1)ある無保険者が受け取った請求書

 それでは、保険に入っている人ならどうか。入手した請求書を見ると、虫垂切除の手術を受けて在院日数1日で総額550万円。このうち、保険会社の支払いは440万円なので、患者の個人負担は110万円となります。請求額の内訳を見ると、入院した病室は1日50万円、術後2時間休憩したリカバリールームの部屋代が75万円と、かなり高額な内容になっています(写真2)。米国は請求に応じない患者も多いため、病院によっては料金を限界まで引き上げて請求してくるケースも少なくありません。

(写真2)虫垂切除術をしたある保険加入者が受け取った請求書の内訳

(写真2)虫垂切除術をしたある保険加入者が受け取った請求書の内訳

 日本では高額療養費制度があるため、保険の範囲内であれば、どんなに高額な医療を受けても、患者の自己負担分は月額8万円程度を超えることはありません。これに対して、米国ではたった1日の入院でも100万円を超える請求があるのは決して珍しいことではありません。つまり、米国ではたまたま軽い病気で入院してしまうと、保険加入者であっても突如100万円規模の支払いを抱えることになります。支払い能力が低い20歳くらいの若者であれば、人生を変えてしまう事態にもなりかねないのです。

会計窓口なし、いくらかかるかも分からない

 上限のない支払いに加えて患者たちを不安にさせるのは、料金がその場で分からず、必ず後から請求されるということです。

(写真3)日本の病院に当然ある会計の窓口は米国の病院には存在しない

(写真3)日本の病院に当然ある会計の窓口は米国の病院には存在しない

 日本の病院では、どのような処置や手術でどれくらいの費用がかかるのかを事前にある程度は予測できますし、会計の窓口などで詳しい説明を受けることもできます。しかし、米国の病院では、基本的に日本の病院のような会計窓口がそもそもありません。「どれくらいの費用がかかるのか」「あの治療や薬は本当に必要なのか」などと病院で患者が思っても、その場の医療従事者の誰もがそれについて明確な答えを持っておらず、後日電話で問い合わせても、誰も答えてくれません。ただ、いくらになるか分からない請求書を待つことしかできないのです。

 医療費においては、やはり米国と日本を比較すると大きな違いが見られます。特に、上記のような米国の状況を知れば知るほど、上限額が定められ、国民皆保険制度ですべての国民が同じ価格で医療を受けられるというメリットは、かなり大きいと言えるでしょう。

連載◆日米病院、ここが変だよ
(1)若者の人生変える恐怖の請求額
(2)良くも悪くもあくまで「ビジネス」
(3)本当に必要?糖尿病の「教育入院」
(4)上司や医師へ注意しにくいのはなぜ?

この記事に関連したPR日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学』(アキよしかわ著、講談社、2017年6月28日発行)

watanabe がんサバイバーの国際医療経済学者、病院経営コンサルタント、データサイエンティストの著者による、医療ビッグデータと実体験から浮かび上がるニッポン医療「衝撃の真実」(関連記事『ステージ3Bの医療経済学者、がんで逝った友への鎮魂歌』)。
がん患者としての赤裸々な体験、米国のがん患者(マイケル・カルフーン氏、スティーブ・ジョブス氏)との交友を通じて、医療経済学者、そして患者の視点から見た日米のがん医療の違い、課題に切り込み、「キャンサーナビゲーション」という制度の必要性を訴える。こちらをクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
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