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本当に必要?糖尿病の「教育入院」―日米病院、ここが変だよ(3)

2017.6.21.(水)

 日本と米国の病院における「ここが変だよ」を考える連載。3回目からは日本の病院の「ここが変だよ」を考えます。米国の医師免許を取得した筆者が来日し、まず日本の病院を見て疑問に思ったのは、糖尿病患者に対して行われる「教育入院」です。

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健康管理は自己責任じゃないの?

 教育入院とは、患者やその家族に糖尿病を正しく理解してもらうことを目的としたもので、医師、糖尿病療育指導士、管理栄養士、薬剤師、看護師などが患者の教育に当たり、2泊3日コースから2週間のコースなどに分かれて入院できるシステムです。費用は健康保険が適用され、医療機関や入院期間・検査内容によって異なりますが、一般的には3割負担として1日当り1万円程度かかります。

 まず、筆者は「教育」と「入院」という言葉の組合せと、提供内容が一致していないという印象を受けました。

(写真1)米国では糖尿病の「教育入院」は存在しない※写真はイメージです

(写真1)米国では糖尿病の「教育入院」は存在しない※写真はイメージです

 米国でも患者に正しい知識を提供する講座を外来などで提供することはありますが、入院させてまで行うことはありません。米国では、外来の講座に来なかったら、「ただそれだけのこと」というスタンスです。なぜなら、米国では「自分の健康は自分で守る」という意識が高いためです(ただ、全く気にせずピザを食べまくる肥満の方も多いです…)。前回の米国の病院の記事でも指摘しましたが、米国では病気になってしまったら、その先には高額請求が待っているかもしれません。

 提供内容が一致していないと感じるのは、教育入院は治療の一環のシステムである前提の一方、コース別にパッケージ化してある上に、その選択権は患者側にあるためです。さらに、これが糖尿病疾患のためだけのシステムであり、他疾患などにはない特殊なものであるところにも、筆者は疑問を感じます。

 実際に教育入院のプログラムを見てみると、午前中は尿検査だけだったり、半日の間で何のプログラムもない日があったり、土日は何の予定もないのに入院していたりなど、内容が薄いと感じる項目があったり、医療の提供側の都合でプログラムが組まれていると考えざるを得ない内容が散見されます。ベッドという固定費をどう活用するのか、そこからどう収入を生むのかを考えた結果のシステムである可能性もあります。

病院は危険な場所との意識変容を

 筆者は、教育入院というシステムの根底にある問題として、医師や看護師が患者をコントロールしたいという考えと、患者側の「病院は危険な場所」との意識が低いこと挙げられるのではないかと考えています。

 米国では一般的に予定手術で術前入院をすることはありませんが、日本では当然のように術前入院を促し、検査や患者の体調コントロールを入念に行います。患者の管理を徹底することはメリットがある一方でデメリットもあるので、優劣を決することは難しいですが、患者の管理徹底の背景には「医療従事者が患者を信用しておらず、患者をコントロールしたいと考えているのではないか」と考えてしまいます。もちろん、米国の医療従事者の方が患者を信用しているという印象はありませんが、先ほどの指摘の通り「約束を守らなかったらそれまで」というのが米国の病院の考え方で、コントロールしようとも考えていません。

 医療機関の構造上の問題も影響していそうです。例えば、医療機関内における専門職員の人員リソースには限界もあり、患者を入院させることで、限りある専門職員を病院側は効率的に配置することができます。また、そうすることで収入面でもメリットを享受できる可能性があります。収入面へさらに目を向けると、専門職員からの疾患教育点数については外来と入院での差異はありませんが、外来より入院の方が全体の点数が高く設定されています。もっと言うと、専門職員からの疾患教育による報酬要件は、入院より外来の方がより高いハードルになっているという問題もあります。

(写真2)米国では「病院は危険なところ」の意識が根付いている※写真はイメージです

(写真2)米国では「病院は危険なところ」の意識が根付いている※写真はイメージです

 そして何よりも重要なことは、こうした需要を生み出している患者自身が、入院することのデメリットをしっかりと自覚すべきです。3割負担と言えども入院にかかる費用は高額で、経済的負担は免れません。入院の間一日中、医療従事者から管理されていることの精神的負担もありますし、そもそも入院することでの感染リスクが発生します。米国では、「病院は患者が集まることで感染リスクの高い危険な場所」との認識が広まっています。受診コストも高いため、国民はなるべく病院には行かないよう心がけています。ですから、「教育」を受けるために「入院」するという考え方を、米国人は全く理解することができないのです。

連載◆日米病院、ここが変だよ
(1)若者の人生変える恐怖の請求額
(2)良くも悪くもあくまで「ビジネス」
(3)本当に必要?糖尿病の「教育入院」
(4)上司や医師へ注意しにくいのはなぜ?

この記事に関連したPR日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学』(アキよしかわ著、講談社、2017年6月28日発行)

watanabe がんサバイバーの国際医療経済学者、病院経営コンサルタント、データサイエンティストの著者による、医療ビッグデータと実体験から浮かび上がるニッポン医療「衝撃の真実」(関連記事『ステージ3Bの医療経済学者、がんで逝った友への鎮魂歌』)。
がん患者としての赤裸々な体験、米国のがん患者(マイケル・カルフーン氏、スティーブ・ジョブス氏)との交友を通じて、医療経済学者、そして患者の視点から見た日米のがん医療の違い、課題に切り込み、「キャンサーナビゲーション」という制度の必要性を訴える。こちらをクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
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