削減する病床を、特定看護師を施設長とする「病院内施設」へ転換せよ―日慢協の武久会長
2015.7.17.(金)
今後、病床の削減が進む場合、高齢者の居住を確保するために、削減した病床を「病院内施設」(Skilled Nursing Ward:SNW)として活用してはどうか―。このような提案を、日本慢性期医療協会の武久洋三会長が16日の定例記者会見で発表しました。
厚生労働省の「療養病床の在り方等に関する検討会」などに提出し、2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に合わせて実現させたい考えです。
社会保障制度改革推進本部の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」(6月15日)には、2025年時点の必要病床数は、現在より20万床程度少ない115-119万床程度となるとの推計結果が報告されました(関連記事はこちら)。
また、中央社会保険医療協議会総会(3月4日)には、「医療機関が『受け入れ条件が整えば退院できる』と考える患者が11万5000人いる」とのデータを示されました(関連記事はこちら)。
武久会長はこれらのデータに加え、「一般病床の稼働率が下がっており、空床が増加している」(14年12月には60.9%に低下)ことなどを加味し、「強制しなくても、2025年に向けて病床は30万床程度、自然に減少していく」と見通しています。
ところで、政府は病院・病床の機能分化・連携を進めると同時に、「在宅復帰」を強く進めていく方針を明確にしています。2025年の必要病床数が現在よりも20万床少なくなるという試算には、「療養病床などからの在宅復帰」を進めていくという要素も含まれています。
ここで「在宅」には、「自宅」だけではなく、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)なども含まれます。単身の高齢者や、老夫婦のみの世帯では、自宅への復帰が困難なケースも少なくないため、見守りサービスなどのあるサ高住が重要になってくるのです。しかし武久会長は、「サ高住の整備には費用がかかり、高齢者の家賃負担も高い。そこで、減少する病床を『病院内施設』へ転換すれば、建設コストもかからず、医療サービスも充実している」と述べ、今回のSNWを提唱しているのです。
武久会長の提唱するSNWは病院内に、60床を限度として認可する「施設」で、施設長には10月から研修が始まる特定看護師のみが就任できます。1部屋の面積は6.4平方メートル以上で、定員4名以内、1.8メートル以上の廊下幅を確保します。
また、看護配置は「医療療養病床の半分」となる40対1、介護配置は「介護療養病床と同じ」30対1にする考えです。
一定の条件をおいて家賃(月額)を試算すると、1万9500円となりました。1部屋の面積が6.4平方メートルに過ぎないので、病院病床と同程度、老人保健施設(8.0平米、2万4000円)や特別養護老人ホーム(10.65平米、3万2000円)よりも安く、サ高住(25平米、8万円)の4分の1程度と見込んでいます。
また100床当たりの主な人件費(月額)は880万円、1日平均単価は1万1000円となりました。
武久会長は、SNWのメリットとして「低コスト」だけでなく、そもそもが病院なので医師と看護師が常駐している点をあげます。「終の棲家」とされる特養ホームでは、看取りやターミナルケアが期待されていますが、武久会長は「特養ホームでは医師が常勤しておらず、看護配置も手薄だ。そうした中でターミナルをどう進めるのか」と指摘。一方で、SNWは医師・看護師が常駐しており、ターミナル・看取りへの対応をしっかり行うことができると強調しました。
ところで、SNWの法的位置づけについて日慢協では結論を出していません。武久会長は「介護保険の給付対象としてもよいし、介護保険財政が厳しいとなればサ高住のような扱いで、医療を外付けする考え方もある」と見通しています。
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