ADL維持向上等体制加算、質の高い介入を行う病棟では点数を引き上げ―中医協総会
2015.12.4.(金)
2014年度の前回診療報酬改定で新設されたADL維持向上等体制加算について、質・密度の高い介入を行っている病棟では評価を充実するほか、手術に伴うやむを得ないADL低下を勘案した実績要件の計算を行ってはどうか―。こういった提案が、2日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会で厚生労働省から行われました。
厚労省では、見直しによってADL維持向上体制加算を届け出る病院が増加することを期待しています。
ADL維持向上等体制加算は、7対1・10対1の急性期病棟に理学療法士などを配置し、ADLの維持・向上を目的とした指導を行うことなどを評価するものです。
広島大学病院で、実際に病棟に理学療法士を配置し適切な指導などを行ったところ、▽ADLの早期回復▽入院日数の短縮―といった効果があることが分かったため、2014年度の前回診療報酬改定で新設されました。
急性期病棟で治療を終えると、入院時よりもADLが低下し、結果として在院日数が伸びてしまう―。こういったケースを減少するために新設された点数ですが、厚労省の調査によれば、2014年7月時点で届出医療機関数は32施設に止まります。これは7対1・10対1病棟を設置している病院のわずか0.8%に過ぎません。
この背景には「施設基準が厳格すぎる」ことがありそうです。2014年度の前回改定の効果・影響をに関する結果検証調査では、ADL維持向上等体制加算を届け出ない理由として「施設基準を満たせそうにない」と考える病院が多いことが分かりました。具体的には、▽リハビリ専門職の常勤配置▽リハビリ医療臨床経験が3年以上あり所定の研修を修了した医師の配置―が特に難しいようです。
こうした点を詳しく分析し、また医療現場の状況も踏まえて厚労省は、施設基準を一定程度、緩和する方向性を打ち出しています。
ADL維持向上等体制加算を届け出るためには、常勤の理学療法士配置などの体制を整備するほか、(1)1年間の退院患者のうち、入院時よりも退院時にADLが低下した患者の割合が3%未満(2)入院患者のうち、院内で発生した褥瘡患者の割合が1.5%未満―という実績要件を満たさなければいけません。
この点、厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は、(1)のADL低下割合について「例えば入院直後に全身麻酔を伴う手術を行った患者について、手術日前後のADLの低下を除いて評価できる」ことにしてはどうかと提案しました。
予定手術症例で、その手術に際し全身麻酔を行った場合には、入院時から手術直後にかけてADLは大きく低下し、その後、徐々にADLは回復していきます。しかし、医療機能の分化・強化が進む中では、ADLが一定程度になった(完全な回復を待たずに)時点で退院となるケースが増えており、その場合、見かけ上「入院時より退院時のほうがADLが低下している」ことになります。
今後も医療機能の分化、強化が進みますから、こうしたケースは更に増加し、(1)の実績要件を満たせない病院も増えると考えられます。
しかし、予定手術症例については「手術後から退院にかけてADLがどう変化しているのか」に着目すべきであり、宮嵜課長もこの考えに沿って提案を行ったものと言えます。
なお、人員配置についての緩和は提案されていません。後述するように、「必要な人員をしっかり配置し、本来の目的である『急性期患者のADLの維持・向上』を進めてほしい」と厚労省は考えているようです。
宮嵜医療課長は、人員をしっかりと配置している病院に対しては、十分な経済的評価を行うべきとの考えの下、「質や密度の高い介入を行っている『病棟』のADL維持向上等加算の評価を充実してはどうか(つまり点数の引き上げ)」とも提案しています。
具体的には、以下のような点を考慮して「質・密度の高さ」を判断する考えです。
▽休日におけるリハビリの実施体制
▽介入の内容
▽ADLの維持・回復の実績
こうした実績をもとに、例えば、実績の高い病棟が算定できるADL維持向上等体制加算1、実績がそれほど高くない病棟が算定するADL維持向上等体制加算2の要に細分化することなどが考えられます。
ADL維持向上等体制加算については「点数が低すぎ(患者1人1日につき25点)、リハ専門職の配置に伴うコストをペイできていない」との指摘が医療現場から出されています。
一方、日本理学療法士協会の半田一登会長は「将来の理学療法士の活躍の場を作ったものだ(ここでは病棟)。今後、発展させていってほしい」との考えを強調しています(関連記事はこちら)。
宮嵜医療課長の見直し提案は、こうした意見に一定程度応えるものと考えられるのではないでしょうか。
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