医師を動かし院内を変革させる資料作成、これだけは押さえたい3つのステップ―病院ダッシュボード入門講座(2)
2016.1.20.(水)
病院の経営を改善するには、具体的にどういった手順で進めればいいのか――。GHCは19日、病院経営の現場スタッフ向けの入門講座を東京都内で開催しました。
経営改善は、現状の分析からスタートします。分析の次に必要になるのは、分析に基づいた改善提案とそれをまとめた資料作りです。今回の入門講座では、医師を動かす改善プランの立て方と、院内を変革させる実効力がある資料作成のポイントについて学びました。
「病院ダッシュボード入門講座」は、「改善のポイントが瞬時に分かる」が開発コンセプトの次世代型病院経営支援ツール「病院ダッシュボード」のユーザーが対象です(関連記事『病院の課題を短時間で把握し、具体的な改善策を立てるには』)。特に、導入間もないユーザーに向けたプログラムで、(1)機能を学ぶ、(2)資料の作成方法を学ぶ、(3)プレゼン方法を学ぶ―の3段階に分けて、具体的な改善活動を実践する基礎体力を身に付けるための計3回の講座となります。
この日のアジェンダは(2)の資料の作成方法で、講師はGHCコンサルタント兼カスタマーサポート担当で診療情報管理士の薄根詩葉利が担当しました。
薄根はまず、「医療の質を落とさずに経営を改善すること」が最大の目的であることを確認した上で、「改善すべき(可能)こと」と「改善不可能なこと」に分けて取り組むことが重要だとしました。例えば、DPC環境下でマイナスのインパクトを受ける要因はおおよそ以下の5つに集約されます。
- 在院日数が長すぎる(一入院で複数の疾患、合併症、過剰な検査や画像)
- 在院日数が短すぎる(化学療法など)
- 標準化できる疾病で診療にバラつきがある(パスが浸透していない)
- 診断を要するまでに時間がかかる(救急患者の検査や画像など)
- DPCコーディングが間違っている(病名の選択、処置1と2漏れなど)
これらについては、(a)標準化、クリティカル・パス推進(エビデンスやベンチマークなどで)、(b)診療ガイドライン遵守、(c)適切なDPCコーディング―などいずれかの明確な改善策を明示することができます。分析をするとさまざまな改善提案の候補が浮かんでくるとは思いますが、上記のようにしっかりと明確な改善提案までをエビデンスやベンチマークを持って示せる論点に特化し、その部分に徹底して取り組むことが必要だとしました。
改善すべき論点を深掘りし、エビデンスやベンチマーク結果を示しても、動かない医師や診療科は存在します。論点の見極めの次に必要なことは、どこから攻めるべきかという視点です。
例えば、クリティカル・パス推進委員会の担当副院長の専門が泌尿器科で、パス改善の余地があるのであれば、まず攻めるべきは泌尿器科です。すぐに分析結果を報告し、その場で担当医師に副院長から打ち合せの時間を設けてもらうことが有効です。「改善の意識が高かったり、DPCデータを使用した分析に興味があったりする医師が突破口になりやすい」(薄根)ためで、まずは院内の成功事例の実績を作ることが重要です。成功事例があれば、その実績が院内で注目され始め、ほかの診療科や医師の意識改革につながる可能性が高まります。
その他のメディカルスタッフにアプローチするには、加算項目に着目するのが有効です。例えば、患者に対して薬剤師が薬の服用について指導した場合に算定される「薬剤管理指導料」であれば、その算定率を全国の病院と比較した際のベンチマーク分析を示すことで、最適な行動を促すきっかけとなります。こうした加算については、病院ダッシュボードのオプション機能である「チーム医療Plus」を活用することで、瞬時に分析結果を表示することが可能です。
病院ダッシュボードは、診療科別のDPC分析などの基本機能のほか、チーム医療Plusのようなオプションなどさまざまな機能があります。改善活動を始める際に、どこから攻めるべきかという視点をしっかりと持つことで、効率的かつ有効な改善活動を推進することができます。
病院ダッシュボードを用いれば、以上のような分析結果の図表を瞬時に分かりやすく表示できるほか、印刷したり、資料作成ソフトに貼り付けたりなど、簡単に資料作成が可能です。ただ、簡単だからと言って、「あれもこれも重要」と膨大な資料を作成しても、忙しい医師やメディカルスタッフの目に止まりません。簡潔に、短時間で誰もが納得する資料作成をするには、ある程度の「型」を身に付ける必要があります。
例えば、肺炎(15歳以上)の症例であれば、以下の切り口で分析結果を示し、その後に具体的な改善提案を簡潔に示すやり方が重要です。
まず、平均在院日数、抗生剤、リハビリの大きく3つの概観が分かる図表「ロードマップ」を示し、そこから「平均在院日数は他院と比べて長いのか短いのか」「抗生剤の平均投与金額が高いのか低いのか」「リハビリが必要な患者にしっかりとリハビリが提供できているのかどうか」などのポイントを押さえて、客観的なデータで課題点を示します。その上で、その課題を解決するための提案事項を列挙していきます。
こうした「型」は、GHCの長年のコンサルティング経験と実績に基づくものです。必ずしも「型」ですべての改善を促せるわけではありませんが、成功の確度は高いですし、分析や資料作成にかける時間を大幅に短縮させることが期待できます。分析や資料作成に汗をかかず、より多くの改善活動を推進していく方向に注力することが、効率的かつ効果的な経営改善への近道と言えます。
参加者による病院ダッシュボード入門講座の満足度は、前回の第1回目で「良い」以上が100%(うち「非常に良い」が80%)でした。今回もご参加いただいた方々に満足いただけたご様子で、東京医科大学茨城医療センター医事課の大西剛課長は、「資料作成を強化したいと考えていたところで、このような機会を設けていただき満足している」と話しております。
次回は最終回で、総合演習をテーマに、具体的な院内での効果的なプレゼン方法などについて学びます。
【連載◆病院ダッシュボード入門講座】
(1)病院の課題を短時間で把握し、具体的な改善策を立てるには
(2)医師を動かし院内を変革させる資料作成、これだけは押さえたい3つのステップ
(3)院内に伝えるべきことが伝わる効果的なプレゼン手法とは