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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

医師の地域・診療科偏在是正に向け、何らかの規制を実施すべきか―医師需給分科会

2016.3.3.(木)

 医師の地域・診療科偏在が指摘されていますが、その是正策を考える上では原因分析が不可欠です。この原因分析にあたって、3日に開かれた医療従事者の需給に関する検討会の「医師需給分科会」では、「偏在の最大の原因は、ステークホルダーが効果的な是正策に取り組んでこなかった点にある。一定の規制を行う時期に来ている」と指摘する構成員と、「何もしてこなかったわけではない。さまざまな方策をとっている」と主張する構成員との間で激しい議論の応酬がありました。

 医師需給分科会では4月中に中間報告を取りまとめる予定ですが、どのような偏在是正策が書き込まれるのか注目が集まります。

3月3日に開催された、「第3回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

3月3日に開催された、「第3回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

医師偏在の背景には複合的な要因

 わが国では「都道府県の間」「同じ県内でも県庁所在地と地方との間」「診療科間」で医師の偏在があるとかねてから指摘されています。

 こうした偏在の放置は好ましくないため、かつて厚労省に設置されていた「医師の需給に関する検討会」は2006年7月に、▽地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムを構築する▽自治体病院間で連携体制を構築し、地域内での医師の効果的な配置・相互異動を実施する▽地域の中核的な医療を担う病院の位置付けを検討する▽地域で医療機能の集約化・重点化を行い、医師への負担を軽減する▽大学医学部の入試における地域枠の設定や、一定期間の勤務地を指定した奨学金の推進・拡大を行う―などの是正策を提言しています(報告書はこちら)。

 しかし、例えば、厚労省が2015年11月19日に発表した2014年の医療施設(静態・動態)調査を見ると、人口10万対の常勤換算医師数について最多の高知県(234.8人)と最少の埼玉県(114.8人)との間には2.04倍の格差があります。このデータが端的に偏在を意味するかは別として、偏在は是正されていないと見る向きが少なくありません。

 厚労省もこうした状況を重く見ており、3日の医師需給分科会には偏在の課題と要因をまとめた資料を提示しました。例えば次のような要因が挙げられています(関連記事はこちらこちら)。

▽勤務地により経験できる症例数や質が異なり、キャリアアップや専門医の維持などに影響があるため、地方などを割ける傾向がある

▽人口規模の小さな地域では患者数が確保できず、十分な医業収入が得られない

▽産科、小児科、救急科などでは、他の診療科よりも労働時間が長く、24時間対応が求められる

▽医師のライフスタイルが変化し、本人・家族のQOLを重視した考え方に基づいて勤務地や勤務形態を選ぶ傾向がある

▽女性医師では出産・育児の時期が「医師の働き盛りの時期」と重なり、キャリアデザインが描きにくい

▽医療に関する知識が国民の広く行きわたり、多くの国民が質の高い医療を受けたいというニーズを持つようになった(しかし、質の高い医療をどこで受けられるかが国民には明確に分からないため、結果として大病院志向を招いている)

 医師需給分科会では、こうした分析を前提に、偏在の是正策をできる限り具体的に練っていくことになります。

一部委員からは「2006年以降、偏在是正策がとられていない」との指摘も

 ところで、前述の「偏在の課題と要因」について福井次矢構成員(聖路加国際病院院長)は、「ずいぶん前から明らかになっていることである」とし、その上で、「フランスでは医学部卒業時に専門科の振り分けが行われ、ドイツでは開業できる場所が決まっている。これらの実行が難しいことは理解しているが、わが国で偏在が是正されない最大の原因は、こうした効果的な取り組みをステークホルダーが勇気をもって実行してこなかった点にある」と指摘しました。

 また、権丈善一構成員(慶應義塾大学商学部教授)は、「職能団体(医師会や病院団体など)や国には偏在を是正する責務があり、力を併せて対策を打つ段階に来ている。中間報告取りまとめなどに向けて、この点を明確にすべきである」と訴えました。

 さらに、かつての『医師の需給に関する検討会』のメンバーでもあった本田麻由美構成員(読売新聞東京本社編集局社会保障部次長)は、報告書の出された2006年からの10年間を振り返り、「プロフェッショナルオートノミーに則った対策がとられたが、偏在は変わっていない。偏在是正に向けて、何らかの規制を加え、職能団体などに一定の責務を負わせる方向で議論すべき」と要望しています。

 

 一方、医師養成を行う立場にいる荒川哲男構成員(全国医学部長病院長会議会長)や、小森貴構成員(日本医師会常任理事)は、「昨年(2015年)12月2日に、日本医師会と全国医学部長病院長会議会長が共同して、▽各大学の医師キャリア支援センターを設置する▽全国医師キャリア支援センター連絡協議会を設置し、需給調整を支援する▽医師不足地域での診療経験を病院・診療所管理者の要件とする―ことなどを内容とする『医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言』を取りまとめた。まずプロフェッショナルオートノミーに沿った対策を打ち、その後に規制を考える必要がある。医師キャリア支援センターが主導になって指導を行い、医師の開業の自由などと適正配置とのバランスをとっていく必要がある」との考えを述べ、対策を取っていないわけではない点を強調。福井構成員や本田構成員の「何もやってこなかった」旨の指摘に強く反発しました(関連記事はこちら)。

自由意思を踏みにじられた医師から診療を受けたいだろうか

 こうした議論を踏まえ、厚労省医政局の神田裕二局長は「偏在是正対策を取っていないわけではない。2006年の報告書を踏まえて、医師が不足する部分への対策を講じている」点を強調。また、「極論すれば、『保険医の数を地域で規定し、超過分は保険診療を行えない(事実上、開業できない)』とする仕組みも考えること自体はできる。しかし、憲法22条第1項では『営業の自由』も保障されており、できるだけ強制力のない仕組みで、医師が自ら地域や診療科を選択できるように進めてきた」との考えも述べています。

 また、厚労省医政局地域医療計画課の迫井正深課長も、「自分の意思と異なる地域や診療科で働く医師に診てもらうことが患者にとって好ましいだろうか、という問題もある」と説明しました。

 

 ただし、前述した日医と全国医学部長病院長会議の共同緊急提言の中には、「医師の地域・診療科偏在の解決のためには、医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」ことが明記されています。

 もちろん、これが神田局長の例示した極論(保険医の定数設定)のような規制までをも視野に入れているとは考えにくいのですが、医師の地域・診療科偏在を是正するために、一定の仕組み(何らかの規制)を医師需給検討会で検討していくことになりそうです。迫井課長は、「次回以降、偏在是正策案をできるだけ具体的に提示したい」と述べており、今後の議論が注目されます。

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