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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

高額医薬品、「本当に効果のある患者への使用に限定」することを検討する時期―中医協総会

2016.5.18.(水)

 高額な薬剤について適応拡大(対象疾患の拡大)があった場合に、自動的に保険償還を認めていては医療保険制度を維持できない。抜本的な薬価算定ルールの見直しが必要である―。

 18日に開かれた中央社会保険医療協議会総会で、委員からこのような強い要望が改めて示されました。

 厚生労働省保険局医療課の中井清人薬剤管理官は、こうした要望に対し「私も切実に感じている」とした上で、「必要な患者に医薬品を届けるとともに、最適に(本当に効果のある患者に)提供していく」ことを検討していく時期に来ているとの考えを述べています。今後の薬価制度改革における最大の検討テーマとなります。

5月18日に開催された、「第332回 中央社会保険医療協議会 総会」

5月18日に開催された、「第332回 中央社会保険医療協議会 総会」

診療側の中川委員「高額医薬の適応拡大が進む。このままでは医療保険がもたない」

 18日の中医協総会では、16成分・27品目の新薬について保険収載が認められました(5月22日に薬価収載予定)。

 その中には、「再発または難治性の慢性リンパ白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」の治療薬であるイブルチニブ(販売名:イムブルビカカプセル140mg、1カプセル当たり9367円、1日薬価2万8101円)など、高額な医薬品も含まれています。

 このため、前回会合(4月13日開催)でも論議となった「高額医薬品の薬価算定ルール」について、改めて議論が行われました。

 診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は、高額な医薬品について適応拡大(対象疾患の拡大)が薬事承認された場合、事実上、新たな対象疾患についても自動的に保険償還が認められる仕組みについて、「このままでは医療保険制度がもたない。市場規模や患者数などを勘案した、抜本的な薬価算定ルールの見直しが必要である」と強く求めました。前回会合でも同旨の見解を強調しています。

 例えば、抗がん剤(分子標的薬)のニボルマブ製剤(オプジーボ点滴静注)は、2014年9月に「根治切除不能な悪性黒色腫用薬」として薬価収載され、20mgでは15万200円、100mgでは72万9849円という高額な薬価が設定されました。その後、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」への効能・効果も認められましたが、前者の悪性黒色腫の推定対象患者数は470人に止まるのに対し、後者の非小細胞肺がんの対象患者数は少なくとも5万人と大幅に拡大します(関連記事はこちら)。

ニボルマブ製剤(最下段のオプジーボ)は、体重60kgの人に1年間投与すると、薬3500万円の薬剤費が発生する。旧来からある抗がん剤「イレッサ」や「アレセンサ」に比べて格段に高額である

ニボルマブ製剤(最下段のオプジーボ)は、体重60kgの人に1年間投与すると、薬3500万円の薬剤費が発生する。旧来からある抗がん剤「イレッサ」や「アレセンサ」に比べて格段に高額である

 中川委員は、同製剤について「さらに腎細胞がんや頭頸部がん、胃がん、肝細胞がんなどへの適応拡大が見込まれる」ことを指摘。現在の薬価ルールでは、医療保険財政が破たんしかねないと強い危機感を示しています。

 また同じく診療側の松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「適応拡大で、市場規模が一定額以上となる場合は再算定を行ってはどうか」との考えを述べています。

中井薬剤管理官「本当に効果のある患者に限定した高額薬剤使用なども検討する時期」

 これに対し、厚労省の中井薬剤管理官は、「私も切実に感じている」とした上で、「薬価制度上の問題もあるが、(1)必要な患者に医薬品を届ける(2)最適に(例えば本当に効果のある患者に限定して)医薬品を提供する―という点を合わせて検討していく時期に来ている」との見解を示しました。

 高額な医薬品については、「薬価を下げる」ことで医療保険財政に与えるインパクトを軽減できます。しかし、高額な薬価が設定されるにはそれなりの理由があります。例えば製造コストが多額であったり、研究開発費がかさんだり、さまざまです。

 こうした点を考慮せず単純に薬価を下げたのでは、製薬メーカーの「優れた医薬品を開発・製造しよう」というモチベーションが下がってしまい、外国メーカーは日本市場から撤退してしまうことも考えられます。これでは、その医薬品を待ち望んでいる患者に医薬品が届かず、医療の質は下がってしまいます。

 そこで中井薬剤管理官は、まず高額薬剤の適正使用、つまり「本当に効果がある患者に限定して高額医薬品を使用する」ことを考慮すべきとの見解を示していると言えます。

 2018年度の次期薬価制度改革に向けて、「高額医薬品の薬価算定ルール」が早くも最大の検討課題として浮上しており、今後の中医協論議に注目する必要があります。

 

 なお、松原委員の指摘する「適応拡大時の再算定(期中の再算定)」について中井薬剤管理官は、「別に検討する必要がある」とコメントするに止めました。期中の薬価見直しは、診療報酬全体に影響する可能性がある(例えばDPC点数の見直し)ことから、より総合的な議論が求められます。

消費増税に対応するための薬価調査、関係団体は「断固反対」

 18日の中医協総会では、来年度(2017年度)に予定される消費増税に向けて薬価調査を行うべきか、というテーマに関して関係団体からのヒアリングも行われました(関連記事はこちら)。

 意見陳述した▽日本製薬団体連合会(日薬連)▽米国研究製薬工業協会(PhRMA)▽欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)▽日本医療機器産業連合会(医機連)▽日本医薬品卸売業連合会(卸連)―らはいずれも、「改定直後であり適正な市場価格が形成されていない」「調査に係る負担が大きすぎる」ことから消費増税対応の薬価調査には強く反対。

 仮に薬価調査を行うとしても、「消費増税対応の臨時的なものであることを明確にする」「調査対象の限定などを行う」ことや、価格引き下げに調査結果を用いないことなどを求めています。

 こうした意見に診療側委員は納得しましたが、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「消費増税分は、実勢価格に補填する必要があり、薬価調査は実施すべき」との持論を改めて強調しています。

 厚労省は、今回の意見を踏まえ、また消費増税に関する動向を見極めた上で、薬価調査を実施するか否かを判断する考えです。

 

 なお、関係団体との意見交換では、前述の「高額薬剤の薬価」もテーマに上りました。日薬連の野木森雅郁会長(アステラス製薬株式会社代表取締役会長)は、「大きな課題と認識している」とした上で、「イノベーションの評価は適切に行ってほしい。そうでなければ新しい医薬品を開発・製造できなくなってしまう」と述べ、単純な薬価引き下げ論をけん制しています。

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